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書評)津波高志著『八重山のアイナーと宮古のアンナ』七月舎 一般常識に挑戦を挑む超意欲作
2026/01/16
琉球大学名誉教授の津波高志さんの「八重山のアイナーと宮古のアンナ」の『沖縄タイムス』での書評記事を書きました。2026年1月10日版に掲載されたとのことです。
沖縄タイムス社会部の知念豊さんが担当されました。
宮古・八重山の人々は600年ほど前までは現在の琉球諸語ではなく、台湾やフィリピン北部の島々と共通の言葉を話していた。史料を素直に読んで論理的に考えればそう結論される。本書は、国境のイデオロギーという“一般常識”にしばられた私たちへの挑戦状だ。それはまた、先入観なく彼我の文化の違いを丸ごと受け止める文化人類学者からの、歴史と言語の知的冒険への誘いでもある。
第1章で、琉球王国最初の正史『中山世鑑』(1650年)の記事が紹介される。「洪武23(1390)年、南夷(なんい)の宮古嶋・八重山嶋から、重訳を用いて初めて来貢す」とある。重訳というのは、言葉が通じなかったために、どちらの言葉でもない第3の言語を用いたという意味だ。1748年に編さんされた『宮古嶋記事仕次(しつぎ)』によれば、この後、宮古の與那覇勢頭豊見親(ユナファシードゥトゥユミャ)は中山王から泊村に住居を与えられ、3年後にようやく言葉が通じるようになった。
習得に3年もかかるほど違っていたのなら、当時の宮古と八重山の言葉は、琉球諸語とは違う系統だったのではないか。この想定から第2章以後の探索が始まるという流れは自然だ。
日本語の会話に「ソーキそば」という琉球語が入り込んでいるように、宮古・八重山で現在使われる単語の中に、台湾原住民族やフィリピン北部の島々の南島語由来の単語が残っているのではないか、という仮説を著者は立てた。思い当たったのが、表題になった「アイナー」と「アンナ」だった。
それぞれ「花嫁」「母」という意味の重要単語だ。これらは日本語と同じ系統に属するという宮良当壮・ネフスキーら先学の語源説を7章までかけて丁寧に検証して、それらの説がいずれも根拠薄弱だと結論する。そして第8章で、この二つは台湾諸語と共通の系統の南島語由来の単語だと論証する内容になっている。
本書は「南北戦争」と呼ばれたこともある起源論争にあらたな一石を投ずる超意欲作である。多くの方が手にとって味読されることをお勧めしたい。
(安渓遊地・山口県立大学名誉教授)
おまけ
文中、「南北戦争」という言葉がでてきます。
これは、生前に國分直一先生からうかがった言葉です。
金関丈夫先生と宮良当壮さんの激しい論争を、石垣島出身のジャーナリストの宮良高夫さんが評して「いやー これは南北戦争だなぁ」と言ったということに基づいています。



