わが師わが友)日本環境教育学会2代目会長・鈴木善次さんの思い出
2024/03/01
大坂教育大学名誉教授の鈴木善次先生が、2024年1月24日に亡くなられたというお知らせが届きました。1933年のお生まれでした。鈴木さんとは、山口大学教養部の時代に同僚だった時期がありました。
「環境ということを考えてください。人間もですが、人間だけではないあらゆる生き物を含めた、他者への思い、これを大切にしてくださるとたいへんうれしい」と2021年3月に語っておられます。
安渓遊地が、山口大学教養部の教員として赴任するため、那覇市首里赤平からひっこして、山口市湯田温泉に住み始めたのは、1982年春のことでした。
担当は、文化人類学。
私の前任者は、宗教人類学の板橋作美さん。
どういうものか、私の赴任と入れ替わりに離任する教員が多い年でした。そして、社会学と民俗学と人間環境論の担当教員のみなさんからも、「あとをよろしく」と頼まれるという不思議なめぐりあわせになったのです。
例えば、社会学の富田正史さん。『スーダン』などの著作があるように、豊富な研究費(当時、年120万円!)を生かして、アフリカについての雑誌をしこたま購読されていました。日本では稀な雑誌の購読が切れてしまわないように、担当教員不在でもその分の予算は確保するように、いきなり戦うはめになりました。当時の文化人類学研究室と社会学研究室は、ひとつのグループとして扱われていました。
そして、民俗学の高桑進さん。彼は、「山口大学常民文化研究会」(略称 じょうみんけん)という学生サークルを率いていて、私は、その年の3月まで、沖縄大学で、日本民俗学と文化人類学を担当していましたから、顧問をお引き受けすることになりました。1年後、湯川洋次さんが赴任するまでは、鍵をあずかっていた空き研究室で、蔵書を読んだり、ソファで昼寝したりすることがありました。
科学史の鈴木善次さんは、人間環境論という授業のお世話をしておられました。彼のお世話しておられた市民グループは、山口の人と自然について学ぶという自由なサークルでした。鈴木さんとは、山口大学教養部で1年ぐらいはご一緒したのだったか、記憶が定かではありませんが、私の方は、博士論文(https://ankei.jp/yuji/?n=2454)の執筆やらで忙しくて、そちらまで顔を出すことができなかったことが悔やまれます。
鈴木善次さんの後任の鬼頭秀一さんとも、学生の前でバトルを演じる「デスマッチ」という授業をしたのも、懐かしい思い出です。
デスマッチ https://ankei.jp/yuji/?n=1627
それから20年 https://ankei.jp/yuji/?n=1634
国立大学から教養部がなくなるということが決まったときに、リベラルアーツの存在意義を示そうという意気込みで、ひとつのあらたな授業を作りました。「いのちと環境」と題してあらたな授業を設計し、12人もの教員のオムニバス授業として実施することができたのは、結局は、鈴木善次さんの準備してくださった、人間環境論の道筋のおかげだったと思います。
その後は、安渓貴子が、日本環境教育学会でお会いしました。それでも、現在「生物文化多様性研究所」を名乗っている淵源のひとつが、鈴木善次さんの、教育と社会教育の実践にあることは間違いないありません。
学恩に感謝するとともに、つつしんで御冥福をお祈りいたします。
安渓遊地@生物文化多様性研究所
2021年3月に、鈴木善次先生大いに語る動画が、日本環境教育学会によって公開されています。このブログの写真は、動画から切り抜かせていただいたものです。
以下の説明(抜粋)がついています。
日本環境教育学会のインタビューシリーズ「研究と教育実践―最前線」の特別編です。
鈴木善次さん(大阪教育大学名誉教授・元日本環境教育学会会長)へのインタビューです。
インタビューアーは鈴木先生の教え子でもある飯沼慶一さん(学習院大学)です。
前編48分 https://youtu.be/daRjvGuorSc
後編34分 https://youtu.be/1kXkQ3fP6VQ
Wikipediaから 主な著作
著書
『生物学のあゆみ』第一法規出版 1970 理科教育のための科学史
『生物とは何だろう』第一法規出版 自然を探究した科学者たち 1972
『人間が創った生物 神への挑戦がもたらしたもの』講談社ブルーバックス 1974
『人間環境論 科学と人間のかかわり』明治図書出版 1978
『日本の優生学 その思想と運動の軌跡』三共出版 1983 三共科学選書
『随想・科学のイメージ 日本人はどう受けとめてきたか』海鳴社 1986
『人間環境教育論 生物としてのヒトから科学文明を見る』創元社 1994
『バイオロジー事始 異文化と出会った明治人たち』吉川弘文館 2005 歴史文化ライブラリー
共編著
『科学・技術史概論』馬場政孝共著 建帛社 1979
『環境事典 地球を守るくらし方』原田智代共著 国土社 1992 てのり文庫 事典シリーズ
『日本の優生学資料選集 その思想と運動の軌跡』全6巻 編 クレス出版 2010
翻訳
ジュリアン・ハクスリー『進化とはなにか 20億年の謎を探る』長野敬共訳 講談社ブルーバックス 1968
ピーター・J.ボウラー『進化思想の歴史』共訳 1987 朝日選書
スティーヴン・ジェイ・グールド『人間の測りまちがい 差別の科学史』森脇靖子共訳 河出書房新社 1989 のち文庫
ウインフリー『生物時計』鈴木良次共訳 東京化学同人 1992 SAライブラリー
J.H.ブルック 他『創造と進化』里深文彦共訳 すぐ書房 2006 科学革命とキリスト教