学生の質問)若者の農業離れを食い止める方法は?
2024/02/10
https://ankei.jp/yuji/?n=2476に 課題として出しています。文化人類学では最後の回の講義です。
0.アフリカや沖縄などでのいろいろな暮らしを経験してきたわが家が、いまどのような暮らしをめざしているかの動画をご覧下さい。
いのちの声に耳を傾ける暮らし https://youtu.be/Av01BJ8nc08
動画の補足資料
サティシュ・クマール師が来日されたときの動画は、以下にあります。https://youtu.be/T0Gt8Nzlbic
上関の生物多様性(日本生態学会の自然保護専門委員としての活動です)http://ankei.jp/yuji/?n=2453
課題0 最初の動画を見たうえで、私か妻の貴子への質問を書いてください。
ある学生さまからの質問
動画で挙げられた農業のことに関してです。近年では、若者の農業離れが問題として挙げられていました。若者の農業離れを食い止めるためには、どのような方法が挙げられますでしょうか。
答え
農業製品は、経費を積み上げたものに利益を加えて価格がきまる工業製品と違って、消費・流通する側が値段を決めています。その結果、もうからない産業どころか、最近では、赤字でつづけられない農家や、経営体が続出。こんな産業、だれもやらないはずが、子や孫に食べさせたいのか、年寄はまだやめていないのでしょうか。
最近のフランスの例は、政府が本気を出せば、状況は大きく動きうることを示しています。https://info.ensemblefr.com/news-511.html
日本にも似た制度があるのですが、若者たちのほとんどは、自然の中で有機農業をというような夢を持っているのに、「有機農業では食えない」と思いこんでいる現場の職員が、農薬・化学肥料を多く使用する慣行農業への新規就農を誘導する例がほとんどです。その結果、スタートには500万円ぐらいの自己資金がいる、と言われたり、何千万円もの大きな借金を背負わされて、例えばビニールハウスで農薬と化学肥料をいっぱい使う野菜をつくり始めるのですが、安く市場で買い叩かれるために、経営がなりたたないというように、制度の運用面に大きな課題があります。
2019年11月12日(火)、2018年度にフランスで農業に新規参入した人の内、70パーセントが40歳未満の若者で、更にその内の40パーセントが女性である、とフランスメディアが報じました。
◎若者の新規就農を国が後押し
フランスは、若者の就農を促進するため、1973年に青年就農交付金(l’aide à l’installation jeunes agriculteurs)が創設されました。この青年就農交付金は、若者の就農を財政的に支え、経済的に自立できるように支援することが目的で、交付金の平均は年額およそ15,000ユーロ(およそ180万円/1ユーロ:119円計算)です。
欧州農業開発基金(le Fonds européen agricole pour le développement rural/FEADER)、更に国家予算が財源として当てられています。
◎青年就農交付金の条件
交付金の受給条件は、
・初めて、自営農業主または経営者として就農すること
・交付金申請時に18歳以上40歳未満であること
・職業(農業)バカロレアⅣや農業技術資格免状などによる専門知識を有していること
・4年間で実現可能なビジネス計画を提示し、年間の最低賃金(SMIC)と同等の収入を確保できることを証明すること
となっていて、更に最低4年間は、
・事業主であり続けること
・会計管理を行う事
・業務計画を実行すること
という条件が付いています。また、交付が決定した場合は9カ月以内に事業を開始しなければなりません。
◎飛躍的に伸びた若者の農業定着率
この青年就農交付金により、フランスでは若者の農業定着率が飛躍的に伸び、交付金を受給した人の10年後の農業定着率はおよそ95パーセントに上ります。また、新規就農する40歳未満の若者は年々増加傾向にあり、2018年は新規で就農した人の内、およそ70パーセントが40歳未満で、更にその内の40パーセントが女性で、女性の新規就農が目立っています。
◎減少に転じる
順調に新規就農者を増やしてきたフランスですが、農業協同組合(Mutualité sociale agricole)は、新規就農者の数が減少に転じ、2017年に比べ、新規就農者の数がおよそ400人少なくなっていると発表しました。
また、2008年以来増加傾向にあった40歳未満の新規就農者の平均農地面積は、2017年の37ヘクタールから、初めて35.6ヘクタールへと減少しました。一方、40歳以上の新規就農者の平均農地面積ははるかに低く、およそ25ヘクタールです。
◎顕著な格差
同じ農業であってもそれぞれの分野で収入に大きな格差が出ていることも明らかになりました。最も収入が少なかったのは畜産業で、一ヶ月の平均収入はおよそ620ユーロ(およそ74,400円)。最も収入がおおかったのは、ワイン製造業でした。
収入に大きな格差のある農業ですが、一方で自然の中でのびのびと生活を送ることに喜びを感じる人も多く、依然として多くの若者が青年就農交付金を活用して就農しています。
若者の新規就農が増えているというのは、日本とは対照的で非常に興味深いですね。
執筆:Daisuke