連載)阿東つばめ農園おひさま便り2022年3月 地域の魅力と底力 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2022/03/23
地域の魅力の発信
山口県立大学に在学
中から、「山口県のためにご恩返しがしたい」という意欲をもってさまざまな地域での活動をしかけてきた、伊藤光平さんという若者がいます。卒業後、地域情報誌の作成にかかわるかたわら「#おいでませ山口桜NAVI」という団体の会長として活躍中です。この団体は、文部科学省の「#地(知)の拠点整備事業(COC)」の支援を受けて、山口県立大学の地域共生センターが開講していた「#桜の森アカデミー」の中の「#やまぐち学マイスターコース」の受講生の有志が立ち上げた観光ボランティア団体です。
創設五周年を迎えて記念講演会を企画するので、私ども二人に話をしてほしいという希望が届きました。お題は、「渋沢敬三と宮本常一」です。二〇二二年二月一九日に山口市小郡で開催されたその会でお話したことをご紹介しましょう。
副題は「旅で感じる地域の魅力と底力」としました。やまぐちの足もとにある魅力の発見と発信ができていますか? という問いかけです。
コロナ前の二〇一九年に、山口県を訪れた観光客のほぼ半分が韓国からのお客様でした。関釜フェリーで下関についたプサンからの旅行客に、山口県立大学生が八〇〇通あまりのアンケートを取った二〇〇八年のデータによると、目的地の五〇%が九州各地、二四%が山口県で、その四分の三は、合併前の下関市内が目的地で、山口県内各地に足を伸ばす人がとても少ないことがわかったのでした。やまぐちの魅力の発信は、どこかが足りないのでしょうか?
山口県観光連盟が作っている『#長州タイムズ』という無料新聞があります。その最新の第九号「ふく(河豚)号」を見てみると、一面は伊藤博文の写真、伊藤と現県知事が架空対談で、日清戦争の講和条約を結んだ下関の春帆楼で、三〇〇年の禁をやぶって河豚を食べることにした伊藤の英断を褒め称えるという内容でした。外国から山口県に訪れる観光客の半数を占める韓国の人にとって、朝鮮の利権をめぐる戦争とその後の植民地化の歴史の中で、もっとも見たくないという伊藤博文の顔と名前が、でかでかで現れるというのはいかがなものでしょうか。
会では、受講者からの事前リクエストに応じて、伊藤博文が暗殺されたハルビン駅や、そこに建てられた安重根の記念館、さらに彼が死刑になった旅順監獄の博物館、七三一部隊跡の陳列館などを、私たちが二〇一五年に訪ねた時のようすを、もうひとつのツーリズムの例として紹介しました。
「韓国の大学教授たちといっしょに山口県をまわるというツァーを企画したいね」これは、春帆楼や、伊藤らがひいきにした山口市の料亭#菜香亭などを訪問したあと、ソウル大学校の人類学名誉教授の全京秀先生がおっしゃったことばです。一八三名の犠牲者の七割が朝鮮人だった、宇部市床波にある#長生炭坑の水非常(一九四三年二月三日の水没事故)の跡地などもこうした旅の目的地のひとつでしょう。
自然に目をやれば、海のすばらしさ、なかでも「奇跡の海」とも呼ばれる周防灘の生物多様性は目が離せません。とくに上関原発予定地の周辺は世界的に注目される生物の宝庫です。「#上関の自然を守る会」では、古民家を改築して「#体験型ゲストハウス・マルゴト」をオープンしています。
危機の中での底力
コロナで観光客が激減した中で、それでも地域が生き残れる底力はみつかりましたか? というのが二番目の問いかけです。
観光とは、生命の光をみること、いのちといのちが同じ時と場所を共有して交流できる奇跡を喜びあうことです。その反対語と言えるのは戦争かもしれません。
敗戦の前後、日本は、現在のコロナの危機よりもはるかにきびしい困難の中にありました。
宮本常一という人物を見出して、三〇年間も食客として庇護し、村々を歩いてまわらせた渋沢敬三。新京(長春)に新しくできた建国大学の教員になりたいという宮本に、渋沢は海外ではなく国内のフィールドワークを勧めました。その真意は、敗戦によって渋沢のような財閥や地主が没落したあと、まだ底力を失っていない農村から日本を再建するためのネットワーカーを育てるところにありました。
研究資料を東京から家族の住む堺市に疎開させていた宮本先生は、昭和二〇年七月の空襲でそのすべてを失います。普通の学者なら自殺したくなるようなショックでしょう。ところが、その直後から、彼は大阪府の嘱託として、配給にまわす野菜の調達という仕事を引き受けて、府内の農家を自転車で回るのです。藤井寺では、稲の病気を奇跡的に回復させる助言を成功させています。そのあとは、離島振興法の設置とボランティア事務局長として獅子奮迅の働きを続けました。
コロナ禍のいまこそ、山口県の小規模な田舎まちが分散するという人口配置と、大都市がないだけに身近にある豊かな自然を大切にして、自給できるところを自給しましょう。そして、とりあえずの突破口として、学校給食を少しずつでも有機にして、農業が持続的にできるしかけを作りましょう。それが、結局は観光の魅力を高めることにもつながる底力を試される取り組みになるのではないでしょうか。話しきれなかった当日のプレゼンをこの文末のブログで(このページの読者は、http://ankei.jp/yuji/?n=2557 で)ごらんください。(つづく)
(あんけいたかこ・あんけいゆうじ)
写真 豪雨災害から復旧した山口線のSLやまぐち号を歓迎する「おいでませ山口桜NAVI」のメンバー
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