与那国島)樽舞湿原を消滅させる港湾建設計画の中⽌を求める要望書 軟体動物多様性学会
2024/11/19
2024年11月22日に軟体動物多様性学会のホームページに要望書が掲載されました。写真を掲載します。
http://marine1.bio.sci.toho-u.ac.jp/md/index.html
2024年10月19日に、学会の審議用として、パスワードつきpdfをアップしたものの改定です。軟体動物多様性学会・自然環境保全委員会 委員長として発信します。
与那国島の樽舞湿原を消滅させる港湾建設計画の中⽌を求める要望書 です。
https://ankei.jp/yuji/?n=2666 で新聞報道などを紹介しています。
以下のように、学会の総会に呼びかけて、11月10日締め切りで、会員からの意見を集約しました。圧倒的多数の賛成により可決されましたので、ここに公表いたします。
2024年10月19日
与那国島の樽舞湿原の保全に関する要望書に学会全体で取り組む提案
軟体動物多様性学会・自然環境保全委員会 委員長 安渓遊地
表記の件について、要望書案を作成しました。関連情報は、https://ankei.jpで「樽舞」を検索していただくといろいろ掲載しております。最新の情報は、昆虫研究者有志の沖縄県議会への 申し入れです。https://ankei.jp/yuji/?n=2952
防衛省と与那国町長は港湾を作りたいという立場ですが、沖縄県は、現在までストップをかけている状況です。辺野古のように押し切られる前に、できるだけ急いで沖縄県を応援することが有効ではないか、と考えられます。
また、WWFJでは、港湾計画への反対声明を準備中ときいています。学会の要望書が出されるようであれば、それを引用したいという希望があるとのことです。
できれば、総会の議を経て、軟体動物多様性学会としての要望書にしていただければ、より社会的なインパクトが高まると期待されます。
すでに、役員会で、自然環境保全委員会としての要望書を提出することは了承されています。具体的な文言の訂正などがある場合は、その改定を経た最新版をできるだけ早い時期に学会のホームページに掲載していただくこと、また、総会の審議を経て学会全体の取り組みとしていただけることになった場合には、そのバージョンを掲載していただくことを希望します。これは、環境影響評価の手続きが開始されると、計画を撤回させることがきわめて困難になることから、できるだけ早く意思表示をするためです。
当初、他の学会・委員会との共同声明を検討しましたが、手続きに時間がかかることから、上記の理由でとりあえず単独での提出を提案いたします。今後、共同声明提出の動きが出てくる場合には、軟体動物多様性学会・自然環境保全委員会としては、可能な限り速やかかつ柔軟に対応してまいります。
以下は本文です。リンクについては、pdfからもたどっていただけます。
与那国島の樽舞湿原を消滅させる港湾建設計画の中止を求める要望書
日本最西端に位置する与那国島は多くの固有種が生息し、世界的に見ても重要な生態系を有しています。報道によれば、現在、政府は有事の際自衛隊などの利用を想定する「特定重要拠点」として樽舞湿原とその周辺に新たな港湾施設の整備を計画しています。この計画には、琉球列島において残された最大級の淡水湿地である樽舞湿原の全域が含まれています。樽舞湿原は、軟体動物や昆虫をはじめとした多くの希少な生物の生息地であり、11羽ものコウノトリが集団でねぐらとしていた記録がある(文献1)ほど、豊かな生態系であると考えられます。ここは、数十年にわたって、稲やイグサ栽培の農地としての利用が減少してきたことにより、自然植生の回復が見られ(文献2)、近年節足動物とそれを餌とする魚類等の激減を引き起こしているネオニコチノイド系農薬の悪影響からも免れてきた稀有の場所です。
樽舞湿原は、環境省の指定する「生物多様性保全の観点から重要度の高い湿地」に登録され(文献3)、その西半分は、国指定の鳥獣保護区です(文献4)。また、与那国島の周辺海域のすべては環境省の指定する「生物多様性の観点から重要度の高い海域(沿岸域)」です(文献5)。
沖縄県の定める「陸域における自然環境の保全に関する指針(八重山編)」与那国島」では、樽舞湿原は「自然環境の保護・保全を図る区域」の中に含まれています(文献6)。また、同じく沖縄県の「沿岸域における自然環境の保全に関する指針(八重山編)与那国島」では、樽舞湿原に続く沿岸域は、「自然環境の厳正な保護を図る区域」の中に含まれています(文献7)。
軟体動物に限っても、樽舞湿原の斜面部は与那国島の固有種であるヨナグニカタヤマガイ(環境省レッドリスト:絶滅危惧IA類)のタイプ産地であり(文献8)、学術的にきわめて重要な地域です。
また、樽舞湿原の南側の沖の海中には陸域からの地下水が湧出するアンキアライン(地下で海とつながり、汽水となっている水域)であるサバチ洞窟があり、ここでは日本では与那国島でしか発見されていないヒメシラタマアマガイが確認されています(文献9)。サバチ洞窟では十分な調査がなされておらず、甲殻類他多くの未記載種が存在する可能性が極めて高い場所です。
樽舞湿原が開発されることにより、湿原そのものだけでなく、こうした陸からの地下水の湧出先である海の生態系破壊につながり、最近発見された特異なサンゴ礁生態系および、漁業・ダイビングなどの海を拠点とした産業への悪影響が強く懸念されます。
2022年に12月に国際的に合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」は、社会全体の関与により、生物多様性の損失を止め反転させる目標への決意を表明しています。この同意にもとづいて日本は「ネイチャーポジティブ」の実現を目指し、生物多様性国家戦略を掲げています。また、30by30ロードマップに基づく自然保護区の拡大を進めています。沖縄県は、国連の持続可能な開発目標を推進する自治体として「SDGs未来都市」に選ばれ、「沖縄におけるSDGs達成に向けた優先課題」として、「多様な生物や生態系、世界自然遺産を含む環境の保全、エコアイランドの実現、自然と調和したライフスタイル」を挙げ、さまざまな政策を実施しています。
このような状況を踏まえ、軟体動物多様性学会自然環境保全委員会は、樽舞湿原の環境と生物多様性の保全を強く訴え、樽舞湿原および隣接する地域の生物多様性を損なう開発計画に反対を表明いたします。関係の皆様におかれては、生物多様性の保全と回復を人類の生存の基盤として重要視する、国際的に合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」とそれを踏まえた生物多様性国家戦略・生物多様性おきなわ戦略を再認識され、この貴重な生態系を破壊することがないよう、慎重な対応を求めます。
2024年11月18日
軟体動物多様性学会・会長 芳賀拓真
引用文献
1.江崎保男, 宮良全修, 日本最西端与那国島で越冬したコウノトリの集団ねぐら, 日本鳥学会誌, 1996-1997, 45 巻, 1 号, p. 31-35, https://doi.org/10.3838/jjo.45.31
2.藤村善安, 仲宗根忠樹, 徳江義宏, 城野裕介, 与那国島における湿地植生の現状と38年間の変化, 植生学会誌, 2018, 35 巻, 2 号, p. 109-116, https://doi.org/10.15031/vegsci.35.109
3.https://www.env.go.jp/nature/important_wetland/wetland/w633.html
4.https://kyushu.env.go.jp/okinawa/wildlife/data/keikakusyo/yonaguni/cho-ho.pdf
5.https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/engan/21101.html
6.https://www.pref.okinawa.lg.jp/okinawa_kankyo/shizen_hogo/hozen_chiiki/
shishin/yaeyama_riku_karte/yaeyama_riku_karte46.html
7.https://www.pref.okinawa.lg.jp/okinawa_kankyo/shizen_hogo/hozen_chiiki/
shishin/yaeyama_umi_karte/yaeyama_umi_karte46.html
8.波部忠重 (1961). 八重山群島与那国島のタイワンカタヤマガイの1新亜種. Venus, 21: 278–281.https://www.jstage.jst.go.jp/article/venusjjma/21/3/21_KJ00004339216/_article/-char/ja/
9.Kano, Y., & Kase, T. (2008). Diversity and distributions of the submarine-cave Neritiliidae in the Indo-Pacific (Gastropoda: Neritimorpha). Organisms, Diversity and Evolution, 8: 22–43. https://www.sciencedirect.com/journal/organisms-diversity-and-evolution/vol/8/issue/1
提出先:与那国町・与那国町議会・沖縄県・沖縄県議会・防衛省・環境省