市史を書く) 市長の介入・発行中止とたたかう学者たちの声明 #彦根市 RT @tiniasobu
2013/11/26
イ・ヨンエさん主演の「大長今」邦題「チャングムの誓い」は、16世紀の朝鮮王朝
実録のみじかい記事をヒントに想像力ゆたかに創作されたものでした。
李氏朝鮮の王朝歴代の記録であるこの重要な文書は、王朝の文書館の日誌をもとに
作成されましたが、王その人は、自分の代の記録や実録そのものを読むことが許され
ていませんでした(ソウル大学校・全京秀先生のご教示)。そうしたしくみを働かせ
ないと、せっかくつくった記録そのものが、歴史改ざんをめざす暴君の存在ごと ひ
み つ にされてしまう、という危機に瀕するからです。
以下は、現在の日本で進行中の、シェアしたい情報です。
『新修彦根市史』・通史編「現代」発行中止問題について訴えます!
執筆者グループ
初めてお手紙を差し上げます。私たちは、滋賀県彦根市の自治体史である、『新修
彦根市史』の第4巻通史編「現代」の執筆者グループです。すでに新聞報道などによっ
てご承知かと思いますが、この度、通史編「現代」の発行中止が言い渡されるという
事態が起きました。これは、市長の一存で強行されたという点でも、執筆過程への介
入が繰り返されたという点でも、刊行を前提として結ばれた執筆契約を無視したとい
う点でも、決して容認できる問題ではないと、私たちは考えております。この問題に
つき、広く学問研究活動に従事されている研究者の皆さま、歴史系諸学会はじめ学術
組織の皆さまに、事の真相と私たちの考えをお伝えし、ご理解とご支援をお願い申し
あげる次第です。
本年10月、彦根市当局は通史編「現代」の発行中止を私たちに通告し、全12巻(通史
編・史料編等)のうち、通史編「現代」のみを残し、編さん事業の終結を強行しまし
た。私たちは、約3年前に予定通り通史編「現代」の原稿を提出し、2010年2月には
原稿は完成(3校目)しました。市は編さん室から副市長まで所定の検査手続きを済
ませ、全700頁の印字原稿は印刷・発行するばかりとなり、同年3月末には私たちに執
筆料も支払われました。
しかるに、当時のS市長はこの最終段階の2月、突如、執筆対象期間を延長し自己の
施政期間を中心に加筆することを強く要望し、発行も1年延期するなど執筆・編集過
程に対する強引な介入を行ってきました。私たちもこれに押し切られ、発行時期も、
2010年3月から2011年3月に変更となりました。ところがS市長はこれだけでは満足し
ませんでした。その後要求はさらにエスカレートし、「新聞史料を多用しすぎる」「
視点が偏っている」「品格がない」「行政文書を中心に叙述すべきだ」など原稿内容
のクレームにまで及びました。一部(自己の選挙戦の記述などへの不満)を除いては
一般的・抽象的な「不満」としてしか示されず、研究者としての対応は困難でした。
後にわかったことですが、S市長は原稿内容への「不満」を理由に、2010年6月に「
政治判断」(市長の言葉です)で発行差し止めを編さん室関係者には命じていたそう
です(私たちには知らされず)。私たちは、契約書にある補正を命じるのなら、文書
で具体的に指示してほしいと何度も要求しましたが、一度も出ませんでした。
結局、「市史」を専ら「市の行政記録」と位置付けるS市長と、「編さん大綱」や
「編集方針」に基づいて、何よりも「市民にとっての歴史」を学術的水準に立脚して
取りまとめたいという私たちの間で対立がとけず、市史原稿は放置されたままとなり
ました。
本年4月の市長選挙で初当選したO市長は私たちに一度も会うことなく、「総合的判
断」と称して「現代」は発行せず編さん事業を打ち切ることを一方的に通告してきま
した。編さん委員会も編集委員会も正式に開かれず、本年10月末をもって両委員会は
解散させられました。現市長は、「前市長が決めたことを覆すと政治問題になる」な
どという「政治的配慮」を最優先し、原稿内容についても、近江絹糸人権争議という
現代彦根が経験した重要な史実に応分の位置づけを与えることまで「偏向」であると
主張し、発行中止という暴挙を正当化しようとしています。これは、同争議の現代的
意義を明らかにしてきた歴史学の成果を踏みにじるものでもあります。
市史問題の本質は、「首長による自治体史の私物化」にあります。思い返せば、歴代
市長は市史編さん事業の「現代」に対して、「できるだけ直近まで書け」(前々市長
N氏)、「執筆対象期間を1年延長せよ」(前市長S氏)、「生存者がいるから現代
史は出さない」(現市長O氏)などと、編さん委員会や編集委員会の基本方針を無視
し、自己の意向を押し付けようとしてきました。それらは結局、「自身と自身が担当
した市政を顕彰せよ」という名誉欲のあらわれにほかなりません。
私たちは、これまで「学術的水準を保ち」、「市民の視点と客観的見地からの市史」
や、「人権尊重の視点を大切にする」など、編さん大綱の視点を踏まえた市史づくり
に励み、市の職員である編さん室の事務局員とは10数年にわたる緊密な共同作業を継
続してきました。その成果として、すでに近代・現代の史料編第9巻が2005年刊行さ
れ、それらをもとに「現代」の原稿は完成したのです。社会福祉、女性、マイノリティ
など現代的視点も重視し、彦根市における第2次大戦後から21世紀への本格的な実証
的通史として自負するものです。
私たちは、出来ることなら穏便に話し合いで解決するよう努力してきましたが、問答
無用で編さん事業を廃止し、私たちの原稿を無と化し、彦根市民の多額の税金を無駄
にする市当局に対し、裁判に訴えざるを得なくなりました。私たちは、学問研究の自
由を守り、長年の調査と歴史研究の成果を市民に届けるため、あくまでも市史原稿の
刊行を彦根市に要求し、研究者としての社会的責任注を果たしたいと思います。
(注)2013年(平成25)1月25日の日本学術会議声明「科学者の行動規範」(改訂
版、前文より)
「知的活動を担う科学者は、学問の自由の下に、特定の権威や組織の利害から独立し
て自らの専門的な判断により真理を探究するという権利を享受すると共に、専門家と
して社会の負託に応える重大な責務を有する。」
研究者の皆さま、諸学会の皆さま、どうか以上のような彦根市史問題の性格と闘い
の意義をご理解いただき、電子メールやニューズレター、学会誌などを通じて広く関
係各方面に事の真相をお広めいただき、裁判闘争など私たちの闘いにご支援よろしく
お願い申しあげます。
2013年11月15日
新修彦根市史・通史編「現代」執筆者グループ
上野 輝将(元神戸女学院大学教授、日本現代史)
岡田 知弘(京都大学教授、地域経済学)
小松 秀雄(神戸女学院大学教授、社会学)
三羽 光彦(芦屋大学教授、教育史・教育制度)
髙木 和美(岐阜大学教授、社会福祉学)
野田 公夫(京都大学名誉教授、農史学)
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*「現代」執筆者グループ代表 上野 輝将
連絡先;〒522-0043 滋賀県彦根市小泉町78-1
4 澤ビル2階
井戸謙一法律事務所
アドレス k-eni_d.o(at)shigaben.or.jp
※アドレスの(at)は@に置き換えてください。
以上、引用者
公立大学法人 山口県立大学
地域共生授業担当
教授 安渓遊地(あんけい・ゆうじ)
〒753-8502 山口市桜畠3丁目2番地1号
山口県立大学国際文化学部