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アフリカ)木にもいのちがある 西ケニアの森の守り手・オケカさん聞き書き
2004/06/23
屋久島の雑誌 『季刊生命の島』に連載させていただいている
シリーズ、「島からのことづて」の番外編として、
第48号(1999年春)に掲載したものです。
発行所や購読申し込みは、以下のページをのぞいてください。
http://www8.ocn.ne.jp/~seimei39/
木にもいのちがある――西ケニアの森の守り手・オケカさん聞き書き
安渓 遊地・安渓 貴子
ケニアに行っていました
『生命の島』のご愛読者の皆様、前号は連載をお休みさせていただいたきまし
た。実は、六月中旬から十月中旬までアフリカへ出向き、主としてケニア共和国
の首都のナイロビに家族で滞在しておりました。
遊地は日本学術振興会のナイロビ研究連絡センターの駐在員。アフリカで研究
する日本人と日本での留学・研究を希望するアフリカ人のお世話という国際学術
交流のお手伝いをしていました。貴子と息子の大慧はいわばボランティアとして
の滞在でした。大都市ナイロビでの生活は、なかなか緊張を強いられるものがあ
ったのですが、週末を利用してあちこちに足をのばして、実に素敵な人々に出会
いました。
「森からのことづて」
今回は、「島からのことづて」番外編として、西ケニアにある「カカメガの森」
というケニア唯一の熱帯雨林からの「森からのことづて」をお送りします。この
森は、中部アフリカのコンゴの森につらなる貴重な森ですが、現在急速に破壊が
進んでいます。この森を守るべく努力を重ねておられるケニア人のウィルバーフ
ォース・オケカ(Wilberforce OKEKA)さんの活動と言葉をご紹介しましょう。
オケカさんは、一九六一年のお生まれです。二十歳の時に、ケニアの営林署の職
員として森林パトロールをしたのがきっかけで、森に強く引きつけられるように
なりました。しかし、盗伐者を投獄するような「力による森林保護」では森が守
れないことに気づいた彼は、森林局を退職し、この森の豊かな自然を研究するた
めに訪れる研究者たちとともに、森をより深く知るようになっっていきます。そ
の後オケカさんは、森の魅力と大切さを広く伝えるためにフリーのガイドとなり、
資質の高いガイドを養成して現在十二人からなる「カカメガ森林ガイド協会」を
組織しています。さらに、将来の森の守り手を育てるために森の周りに住む子ど
も達を森に招き、苗を植えたりする「カカメガ環境教育プログラム(略称KEE
P)」を始めておられます。そして、森林局の事務所のあるイセチェノ村の周辺
の親たちとともに「イセチェノ野生生物保護グループ」を結成したりカカメガ地
方のキリスト教徒た宗派の違いを越えて環境保全活動にあたることをめざす「カ
カメガ地方キリスト者科学環境グループ」の結成にも深く関わっておられます。
以下は、主に森の中を歩きながら聞いたお話しに、ナイロビの学術振興会の事
務所でのセミナーで発表していただいた内容を加えたものです。
一度お会いしただけで、何十年も前からの友人だったような気分にさせてくれ
る、オケカさんの謙虚で魅力的なお人柄と、さまざまなアイデアに満ちた活動の
すばらしさを感じていただければ幸いです。また、森のへりの草地で出会った青
年との二十分ほどの会話録音させていただいたのですが、やさしいことば遣いで
諄々と語りかけていくうちに、聞き手の心の中にあった不安や疑いの気持ちがほ
ぐれていき、いつのまにか笑いながらうなずいていしまいます。側にいた私たち
が話にくちばしをつっこんでも、実に上手にそれを取り入れて話題をふくらませ
ていく。神の前での人間の平等とを基盤にしたと思われるオケカさんの謙虚さに
打たれました。
オケカさんの語りから
私は中学校しか出ていませんが、あなたがたのような研究者と話すことによって
ずいぶんたくさん学びました。本当にありがたいことと思っています。私は、以
前はカカメガの森のパトロールをしていました。でも、地元民の反発招くような
野蛮な方法では森は守れないことを思い知ったのです。必要なのは、教育であり、
自覚です。ある木が明日はどんな役にたつものかも知らないで今日切ってしまう
ということを平気でしています。木にも命がある、ということがわからないから
です。環境は、神の創りたもうたものです。それを壊してしまうということはど
ういうことでしょう。神はすべてのものを創造され、われわれに「壊してはなら
ない」とお命じになりました。アダムとイブがこの命令を破った時、エデンの園
を追われました。それなにに、われわれキリスト教徒が森を破壊するとはいった
いどういくことでしょう。心と力をひとつにして森を守らねばなりません。
現在は、森のまわりに住む子どもたちを森に招いて、森の魅力や意味について
学んでもらっています。たくさんの子どもがきたら、それぞれれちがう仕事を分
担してもらっています。例えば、水汲み、稚苗園の整備、ごみ拾いなどです。飲
んだあとのミルクの紙箱なんかが苗箱になります。苗が育ったら、営林署の上の
方の人に頼んで土地を使わせてもらい、木を植えようと考えています。子どもた
ちが自分で考えて行動できる人になれるように努力しています。あなたがたも、
金でなくても、物でもアイデアでも私たちを助けていただけるならありがたいと
思います。
学校の教師たちは、まだ不審の目で見ているようですが、かれらにも森の魅力
を伝えようと努力しています。
ケニアのには、少し何かすると自分のポケットに入れることを考える人が割合
多いのですが、私は、半セントさえも手にしないで、自分の費用でやっている。
子どもたちが何も考えず、ものも言えない人にならないために努力しているの
でう。
お金でなくても、物でもアイデアでも助けてもらえるとありがたいんです。この
手紙を書いてくれた教授は支援を訴える手紙を書いてくれたりしています。。
――国々を貧富で二分して、富める国が貧しい国を援助すべきだ、などという考
えはまったく間違っていると僕は思っています。それは大嘘です。助け合えたら
いいなと思っています。日本のなかに友達がいる島がいくつかあって、いくらか
天然の森が残っています。一九七四年からそこを訪ねています。森をよく知るた
めの計画をいろいろやっています。世の中の大学ではなくて山大学というのをや
っています。こういう人々とあなたが交流できるようなプロジェクトを考えたい
のです。あなたがそこに行き、かれらがここへ来る、というように。そんな考え
をもちました。
――それは面白い考えですね。
オーストラリアの大使館に勤めている人が援助してくれて、帳面と鉛筆が60
0冊余り届いたことがあります。これは、地域の学校に届けました。森を愛する
人たちからの贈り物です。
われわれ自身が森を知る。これがもっとも急を要することです。私は、子ども
の親たちを森に招きました。ここ、イセチェノ村の学校の親たちは、もう「イセ
チェノ野生生物保護グループ」を作って活動を始めています。
住民に語りかけるために、私はキリスト者としての道にしたがうことにしてい
ます。われらが父なる神様は、この大地をお創りになり、そこに万物を住まわせ
たまいました。森をお創りになり、獣たちを住まわせ、あなたがた人間を住まわ
せられました。
あなたがたは忘れています。住民と学者たちがもともとはひとつだということ
を。だって、学問は家庭から始まるものでしょう。学者とあなたがたの間には、
もともと人としてのわけへだてはないはずではないですか。学問は、神様が私た
ちに与えて下さったものです。それなのに、あなたがたは、「ああ、森を守るな
んてのは学者の仕事だ。われわれクリスチャンには関係ない」とか言っています
ね。それはどうしてですか。
神様は万物をお創りになって、わたしたちにおっしゃったではありませんか。
「壊すな」と。その教えを守らなかったアダムとイブは楽園を追われたでしょう。
それなのに、あなたがたキリスト者が森を壊すのはどうしてですか。ともにつど
い、心をひとつにして、森を守りましょう。
キリスト教徒の多くはいまだに森の意味に気づいていません。そうすればいい
でしょうか。森を守るキリスト者のつどい。そのグループの名前をつけるとすれ
ば、ほとんど自動的に、「カカメガ地域キリスト者・科学・環境グループ」とい
うことになりましょう。まだ集まったばかりなので、人々は私にあれこれと質問
をするという段階ですが、これこそ、私たちがいまけんめいに努力している仕事
なのです。
もし、ヒヒが森から出てきて家に近づくと、あなたがたはそれを殺しています。
蛇が出てきたらそれを殺してしまいます。本当はどうすべきでしょうか。ヒヒを
殺す代わりに、力をあわせて鶏をたくさん飼ったり、たくさんの木を植えたり、
そのほかの様々な森のためになることをやりましょう。
・ここらの人は、薬用に木の皮を利用します。でも、剥いだままにしておくと、
そこは木の食べ物が通る場所なので、木は弱ります。ビニールで覆ってやれば、
そうはなりにくいんですよ。
・今日切り倒した木に、どんなすばらしい効用があったかもしれません。でも、
明日になればもう知るすべも活用するすべもなくなってしまいます。
・原生林を切ってしまえば、それをもとにもどすことは至難のわざです。よく注
意していなければ、牛の群がそこに入るようになり、やがてはエロージョン(土
の侵食)が起こって、森は再び回復できなくなります。
私は、たいした学歴はありません。中学校まで八年間学校に行っただけです。
でも、研究者とか、いろいろな人たちと触れあうなかで、ずいぶん勉強させても
らっています。あなたがたのような友人のおかげと思って、ほんとうに感謝して
います。
まずは、森に入ってみましょう。
カカメガの森の大きさはご存じでしょうか。……雨の量は、年平均で七五イン
チ、つまり、二千ミリほどです。この雨量のおかげで、ここにしか見つからない
樹木などもカカメガの森には生えているわけです。植物は四百種以上、鳥は三四
十種、チョウチョが四百種ほど見つかっています。
でも、カカメガの森のことをを知る人はまだ多くありません。
地元住民は、この森でたきぎを採ったり、牛の群に草をはませたり、森の泉で
水を飲ませたりすることを許されています。しかし、これらの活動が森をたいへ
んかきみだしています。このままでは、あと二〇年か三〇年で森は完全に消滅す
るでしょう。一九八〇年代は、森の樹冠はきれいにつながっていました。でも、
いまではそれが切れ切れになってしまっています。
ひとつには地域住民の人口密度が高すぎるのです。
人々は、森を守るためのなんのプロジェクトもないので、森の将来について不
安に思っていました。私が、森を守るために行動を起こしたとき、多くの人々が
私の気持ちをわかってくれました。ところが、森について私が学んできたことを
受け取ろうとする人は誰ひとりとしていなかったのです。
森は自分たちだけのためにそこにあるのだと人々は思いこんできました。でも、
いまやこの森はケニア人だけのものではありません。もちろんイセチェノ村の人
々だけのものでもなければ、いうまでもないことですが、私だけのものでもあり
ません。この森は世界の森なのです。あなたは、はるばる日本からこの森を見に
来たのでしょう?あなたは、私を日本に招きたいと言って下さいます。それは、
このカカメガの森があるからでしょう。この森がなければ、私たちはこうして知
り合うこともなかったでしょう。森はひとりひとりのものです。もりはみんなの
ものです。
森は人々の暮らしをたすけます。例えば薬用になる木がたくさんあるからです。
でも、政府関係者は、地域の人々のもつ知識の世界に深入りすることはありませ
ん。この木から薬を採ってあなたの腹痛を治せるかもしれません。もし医者に見
せれば一回一〇シリングはかかります。払わずに治せればそのお金は別の目的に
使うことができます。
ここにBidens spirosa (センダングサの仲間)が生えています。これは熱さ
ましに効きます。あなたがそこことを知っていて、あなたのところに来た人を治
してあげることにしたとしましょう。まず、草を見せずに煎じて、「どの草かと
いう秘密を明かせば、薬としての効き目がなくなりますから」などと説明します。
これが、森の薬を利用する人のこれまでの普通のやり方でした。しかし、この方
式が人々をどんどん森について無知にしていったと思います。もはや、森の大切
さをオープンに人々に語るべき時です。何かを書き残さなければならないと思い
ます。手始めに、このあたりのルヒヤ語による植物名と学名に説明を添えたチェ
ックリストから手がけてみたいと思っています。
研究者の援助で、鳥のチェックリストはできています。今、ホホホと鳴いた鳥
は、Yellow-lumped tinker birdsです。あれは、Yellow whiskered green bulls
です。枝に止まっているのは、Cinnamon chested bee-eaterで、あそこに飛んだ
のはWhite headed sparrowです。
このあたりは、もともとシウェユウェ(Siweyuwe)という場所でした。その意
味は、イネ科の草(uweyuwe)がとても多かったからです。それがカカメガにな
ったわけをお教えしましょう。一九二〇年ごろのこと、イギリス人がここにやて
きた時のことです。食事を出したところ、そのイギリス人がウガリを指で切り取
っては口に運ぶのを人々は脇で目を丸くして見ていました。ちょうどその時、そ
の白人が「ここは何という場所か」と尋ねましたが、人びとは「切り取って食べ
てる」というので「ハハメガ、ハハメガ」と言ったところ、その白人は、カカメ
ガという地名だと聞いてしまったというのです。
森の中での若者との出会いとオケカさんとの会話
(森なんか無限にあるといっていた若者がわずか二十分間で森を守るべきだと
いう立場に転向していきます。オケカさんの諄々としたやさしい語りの力がわか
ります。)
オケカ「やあ、いい声で歌っていたのは君かい?」
若者「いいえ、別の人です。もう帰りました」
オケカ「草を刈りに来てるんだね」
若者(急にくちごもって)「はあ、でも……」
オケカ「ちょっとお話しませんか。君ね、この森はもうすぐ終わりになるかもし
れないって、知ってたかい?」
若者「まさか!森は大きいし、なくなりっこありませんよ」
オケカ「ところがどうして。僕はここに二十年前から住んでいるんだけど、森は
ずいぶん減ってしまったんだよ。住民が森を守らないかぎり、この森は消えてし
まう。断言してもいい。ところで君は子どもがあるかな?」
若者「いや、まだお嫁さんをもらっていません」
オケカ「ふむ。でもそれにしても、もし結婚したら、子どもが産まれるかもしれ
ないよね?」
若者「はい。まあ、神様のおぼしめし次第ですが」
オケカ「そうそう。神様のおぼしめししだいではね。しかし、神様は君に二十人
も子どもをさずけて下さるかもしれないときているよ」
若者「あり得ないことではありません」
オケカ「さて、君は鳥たちの暮らしを知っているかい。鳥の子は、巣に何羽もい
てが一羽ずつが口をいっぱいにあけて餌をねだるだろう。お母さん鳥はもう大忙
しだ。どんなものでも、口に入るものなら飲み下すんだから、なんでもかんでも
少々みかけが悪い餌だろうが、とにかく口に入れてやらなくちゃすまない。」
若者「そうです」
オケカ「こんどは、想像してごらん。君の二十人もの子どもたちも、食べたがる
よ。君の子どもたちもひとりひとりが口をあけて君が食べさせてくれるのを待つ
ようになるんだ。そうして、君はまるで鳥みたいに子どもに食べさせるのにかか
りきりになるよ、きっと。」
若者「なるほど」
オケカ「それがすんだら、今度は住む場所がいる。家を建てる材料もいる。もし
もその時もう森がなくなっていて、今のような収入の道がなかったら、君ならい
ったいどうやってその食べ物や家の材料を買うかね」
若者「わかりましたよ。お説教はもう結構です。いったい、森の木を切らずにど
うやって生きていけというんですか」
オケカ「我々が守るべきもの、それは環境だよ。我々はこれから森を守る方法を
学ぼうじゃないか。これ以上環境破壊をしないようにしようじゃないか」
若者「僕は、ここに一日いっぺん来るだけです。月曜日から土曜日まで毎日何回
も来る連中もいるんですよ。あいつらはずうっと草を刈りどおしに刈るんです」
オケカ「一日に十回も来る人たちもいるよねえ。大きな木を切り倒す連中だって
いる。草刈りは悪いこととは言えないよ。草はまた生えてくるものだもの。しか
し、その生える環境を壊さないようにしなくちゃ。あの『ムテレ母さんの木』み
たいな大木を切ることはいけない。ムテレの木 (Maesopsis eminii) とか、ムト
ゥクユの木 (Olea capense)みたいな一番大きい木々のことだよ。ここには、直
径九十センチにもなる木があるのに、それを切っちゃう人があるんだからね。し
かも、大木が倒れる時には、その下の木々も道連れになる。だから木を倒すとき
には、たくさんの命を奪うことになるだろう?」
若者「そういうことになりますね」
オケカ「さあ、それでだ、君が二十人の子持ちになった時に、この子らに食べさ
ないといけないのに(もうこの森がなくなってしまっていて)食べさせることが
できないとしたら、君はいったいどうするね?そして、もし君の力が尽きて、君
がぱったり倒れてしまったらどうなる?子どもらはどうしようもなくなってみん
な死んでしまうだろう。そんなことになってしまったら、何のために子どもをも
うけたことになる?」
若者「何にもなりません」
オケカ「そうなると、君は神様の前で借りができてしまうぞ。神様は、君に(子
どもらの命を)返せとおっしゃるだろう。そうじゃないかい?神様に借りを返せ
といわれたら、どういうことになる?君は地獄へ直行じゃないかな、なにしろ環
境を破壊してしまったのだからなあ」
若者「おっしゃるとおりです」
オケカ「環境は神様のものなんだよ。そうじゃないかい?君は、その環境を破壊
することにするのか、それともどうするのかい?」
若者「そりゃ守りますよ(笑い)」
安渓「私たちは、日本のもともとの森をほとんど破壊してしまいました。」
若者「おや、そうなんですか?」
安渓「天然林を切ったあとに、ここのネズの木に似た杉の木をたくさん植えまし
た。ところが、そのために、困ったことになりました。花粉が飛んでそれで喘息
のようになる人が増えたのです。このごろでは、半分以上の日本人が杉花粉症で
す。日本では、いまさら原生林を守ろうにも、ほとんど切ってしまったので、な
すすべがないんですよ」
若者「へえ」
オケカ「暑い日差しを避けて木の下で涼もうと思っても、もう木がないんだよ。
その後で植えようとした木で、今度は人間が病気になっている。我々だって、森
を守らなければ同じことになるかもしれない」
若者「うーん」
オケカ「見てごらん、この客人達は、はるか遠くからここに来たんだ。彼は、君
と私にとって大切なことを教えてくれた。森を守ることの意味についてだ。我々
の客人がここへくるためにどのくらいのお金を払ったか知っているかね?」
若者「そりゃ、すごいお金でしょう」
オケカ「日本からここまでの旅費だけでも大変なものだよ。そして、ケニアで彼
らが払うそのお金が、我々の学校の先生たちの給料になったり、子どもたちが学
ぶためのお金になったりしているんじゃないか。我々がものを買って食べるお金
にさえなているはずだよ。もしも、この森がなかったなら、君はここでたった一
人の白人さえも見ることはないんだよ。」
安渓「森を見たい旅行者はみんなウガンダにいっちゃうでしょうよ」
オケカ「僕が聞いた所では、ウガンダでは今や森についての憲章??を制定して
いるらしいよ。住民はもはや森をもて遊ぶことをやめ、住民自身が森を守ってい
るんだ。ここでも、そんな風に住民が森を守っていくことができるはずなんだよ。
人々は、自ら立ち上がって『いやいや、我々は人が森をもて遊ぶことを望まない』
と宣言しているんだそうだ。ちょうどそのように、君たち草を刈る人たちも団結
するべきだよ。そして、『もし森に入って森を壊したり、草をだめにしたりする
人がいれば、われわれがそいつを訴えるぞ』と宣言するんだ。もう、営林署のお
役人が取り締まるのを待っていないで、自分たちでそんな連中を訴えることだ。
そうすれば営林署は、君たちに取り調べの警官をつけてくれるだろうから、きち
んと報告するといい。仲間と力を合わせればこんなこともできるようになるさ。
そして、ひとつの組合をつくることにすればいい。君たちは、何かの公認の組合
を作ったことはあるのかな?」
若者「いえ、まだです」
オケカ「どうして組合をつくらないんだろう。いっしょに仕事をしているのに、
めいめいが食べるだけで終わりなんて。草を運んでいる人を見かけたら、一緒に
仕事をしようと呼びかけてごらん。そして、『われわれは一つにまとまった』と
言ってごらん。薪にしてもそうだ。ここで、薪を切ることは禁止なんだが、それ
はわかっているだろうね。それでも組合をつくって、『われわれは、枯れ木を拾
って売りに行きます。それで生活のたしにします』と言うことは良いことだ。そ
して、営林署に頼んで土地を払い下げてもらって、そこに、速く育つ木々を植え
て、薪を求めて来る人たちに売るようにしよう。そうすれば利益が上がるよ。ど
うだい?ある土地を払い下げてもらいたかったら、『私たちの木を植えたいので
す』と申請すればいいんだ。木を植える時は、一人で植えずに組合で植えるんだ
し、払い下げるわずかなお金も出しあって、そしてそこから上がる利益は君たち
の懐に入るようになる。営林署の役人の懐に入るんじゃないよ。あるいは、少し
税金がかかるかもしれないけれどね。組合をつくらなければ、苦しみと毒と貧乏
が我々を待ち受けているよ」
若者「なるほど」
オケカ「それから、仲間とともにいて、話しあうことをしないのが、何にも増し
てわれわれの最大の貧しさだね。ヨーロッパ人とかインド人とかは、幸運に恵ま
れていて金持ちだとみんなが言うよね。でもそうじゃない。彼らの本当の財産は、
お金じゃないんだよ。彼らは、いつもいっしょにいて、ひとつのテーブルを囲み、
食事をともにする。そして、『今日はあちこち歩いてみましょう』と出かけてい
って、めいめいがそれぞれ違う見聞をしてくる。戻ってくるとめいめいの見聞を
もちよって一冊の本を編むように集成する。その蓄積こそが彼らの本当の財産な
んだよ。
あの人もこの人も、君も僕も、ひとりひとりが発言する。誰かひとりだけがし
ゃべるなんてことはない。まちがっても僕ひとりが『これはこうしよう。君は森
に行かないように。もし君を森で見つけたら大事になるぞ……』というような言
い方はしないわけだ。こんなやり方が良いと思うかい?そうではなくて、めいめ
いが自分の何を出すんだ?アイデアだよ!神様は君に智恵を授けてくださっただ
ろう?僕には僕の智恵を、この人にはこの人の智恵を授けてくださった。それな
らどうして、一人だけがしゃべって終わりということがある?ひとりひとりがし
ゃべるべきだろう?これからはみんなで仕事を分担して、そして、戻ってきたら
ひとつのテーブルについて一人一人がもちよる報告やアイデアをみんなで検討す
る。それをめいめいが勉強していくようにすれば、森はどうなるだろう?」
若者「あるべき姿になりますね」
オケカ「昔、この森はどこまで続いていたと思う?君はブシアを知っているかい?
ブテレを知っているかい?」
若者「はい知っています」
オケカ「森はあそこまでつながっていたんだよ。この森は大昔には、はるかエル
ゴン山の山麓の熱帯雨森とひとつながりにこのあたりを埋め尽くしていたんだ。
今では、減りに減って、たったの二万三千ヘクタールしか残っちゃいない。それ
らのに、もっともっと減ろうとしている。木の伐採と森の破壊が進むのを見て、
政府は『木を切るな。代わりに茶の木を植えよう』と提案したね。森を茶畑で取
り囲めば、森にむやみに入りにくくなるし、そこからの収入で森にたよる分を減
らせるだろう。切っただけは植林しようという計画もできた。でも、破壊は続い
ているよね。ある所では、まだ茶畑ができていないし、ある所ではお金ほしさに
森に入る人たちが跡を絶たない。だから、茶畑ですこしでもお金がかせげればず
いぶん違ってくるはずだ。僕らはまあ、だいたいこんな考えをもっているんだけ
れどね。」
若者「ちっとも知りませんでした」
オケカ「声をあげれば風あたりは少々強くなるかもしれないんだけれど、みんな
と助け会うんだ。そういう助け合いの組合をつくることは、何も偉い人になるっ
てことじゃない。あたりまえの人のままで、歩き回って人々に『助け合おうよ』
って語りかけるころはできるよ。僕だって、偉くもないあたりまえの人間だろう。
君の上司でも監督でも何でもないってことは見てわかるよね。営林署の偉い人た
ちなら君も知っているはずだから。僕のことを知っているかい?」
若者「いいえ、存じあげませんでした」
オケカ「でも、僕はここにずっと住んでいるんだよ。ここらは全部歩いているよ。
君はどこの人かな?」
若者「シニャル村です。」
オケカ「ここらは全部歩いているといったけれど、もちろんシニャル村にも行っ
たことがあるよ。乗り合いバスか自転車に乗っている人だれにでも聞いてみたま
え。『オケカの家にいきたい』ってね。誰でも教えてくれるよ。シニャル村でも
誰にでも聞いてごらんよ。きっと、まっすぐにつれてきてくれるから。いったい
どうして僕のことを君は知らなかったんだろう?」
若者「お顔を見かけることはよくありますが……」
オケカ「ともかく、組合が作れれば、政府の支援も受けられるようになるだろう
し、環境を守るいい仕事をしているという評価もされるだろうね。僕がやってい
る森を守るという仕事は、君たちの仕事と同じく、額に汗する仕事だよ。森から
戻ってきた人から耳にしたことはないかね。私は学校の生徒たちに森のことを教
えているんだよ。小さな子どもたちにだよ。もし君の子どもが産まれたときに、
もう森がなかったら何を食べたらいいか、もういちどよく考えてね。さあ、君は
君の仕事を続けてください。またお会いしましょう。森のことについては、助け
合えると思うからね。じつは、昔、僕はこの森で営林署のパトロールの仕事をし
ていたんだ。警官の手助けの仕事さ。でも、僕はこれじゃいけないと思って、仕
事をよしたよ。人を片端から捕まえるなんてことで、住民とうまくいくわけがな
いもの。」
若者「全然だめですよ」
オケカ「捕まえた人を長靴で踏みつけたりもして」
若者「それから、体中を殴るんです」
オケカ「連中は君がひどく悪いことをしたと思ってやったんだね。でも、僕はこ
んなことはよそうと考えて、人々と話しあうことを学んだんだ。『まず、森を守
ることからはじめよう』と語り始めた。君の住んでいるところも知っているけれ
ど、たぶん食べる粉がなかったり、ただ砂糖がなくなったということで木を切り
に森に入ってしまうんだよね。だから、君もここに草刈りに来て、それで暮らし
を助けているわけだし。もしも、僕が君を捕まえたら、君の生活はもっと困って
しまうよね。とはいえ、警察のいない国家も考えられないんだよ。悪いことをす
る奴はいるんだからね。だから、こう僕は君にこういいたいね。暴力をふるった
りする連中は、やっぱり警察を呼んで、牢にいれなくちゃ仕方がないじゃないか」
若者「あそこに入れられば、苦しめられることばかりです」
オケカ「実際、ひどい苦しみだよ、兄弟。叩かれるしね。そして、一日分の粉が
ほしくてしたことが、一年分の粉の代金にもついてしまう(笑い)。一日で一年
食らうってね。そうだろ。そのうえの叩きだ。警官がどんなに人を叩くか知って
いるよね。男の大切なところだろうと、長靴で踏みつけるし、けとばしてみせし
めにしようとするんだ。でも、必ずしも警官が悪い訳じゃないという面もあるよ。
言うことを聞かない上に嘘をつく人もいるんだから。まあ、こんなもんだよ。と
ころで君は、こんな言い方を聞いたことはないかね。『アフリカ人なら嫁さんを
げんこつでなぐれ。そうすれば、愛情が深まる』って。アフリカでは夫が妻をな
ぐることで、妻から尊敬されるようになるというんだが、そんなわけはないだろ
う?殴らなくても愛し合うことはできるし、訳もなく殴れば間抜けなやつと思わ
れるだけだ。暴力で人を従えるなんて考えは間違っているよ。」
若者「なるほど、そうですね」
オケカ「君は、何も悪いことはしていないよ。草を刈っているだけだもの。いい
ことだよ。だけど、他の人たちと一緒に仕事をするようになればもっとすばらし
い。そして、仮に草の売り上げが百シリングあったとしたら、そのうちから五シ
リングでいいから、出しあって集めるんだよ。このわずかの金が集まると、利益
を生み出したり、大きな仕事をしたりするすることができるようになるんだ。そ
して、今や必要なのは、森についての知識なんだよ。それを求めないといけない
よ。君はどう思う?」
若者「おっしゃる通りです」
オケカ「それで、その集めたお金を何に使うかというと、まずは組合の政府への
登録料だ。一文なしで登録できると思うかね?」
若者「いえ、まさか」
オケカ「だから、みんなで集まって、たとえ一シリングずつでも出し合って、組
合を登録し、この森を守っていくようにすればいい、というのが、僕の意見なん
だけれど、わかってもらえたかな?」
若者「はい、ありがとうございます」
安渓「そして、もし住人がこの森を守ることに成功したなら、カカメガの森の名
は世界中に知られるようになりますよ。『カカメガには世界の遺産がある』とい
ってね。そして、みんながここへ来て森と住民が共存しているありさまを見たが
ることでしょうよ。そして、見た人は帰って自分の見たことを多くの人に伝える
でしょう。それが、森を守った住人にとっても利益をもたらすようにしなければ
いけません。すばらしい森が破壊されている所なら世界中どこにもあります。そ
こでは、森を失った貧困にあえぎ、孫たちは木を切ってしまった祖父たちの名前
をいつまでの言い伝えることでしょう」
オケカ「昔の老人達は、この森を守るすべを知っていたんだね。でも、嫁さんを
たくさんもらうのがいい、という考えだったから、その婚資をつくるために森が
ずいぶん減ってしまった。森を守ってきたんだけれど、いっぱしの人間、偉いと
いわれる人になるためには、嫁さんがたくさんいるという世の中だったからね。
それが森の破壊の始まりだった。」
若者「いやいや、おっしゃるとおりですね」
安渓「私の名前はユージといって、日本から来たんですが、あなたのお名前は?」
若者「シニャル村に住んでいる、フィリップ・アブサングワといいます」
オケカ「はるかな日本からやってきて、われわれにいろいろ教えてくださるなん
て、すばらしいことじゃないか」
若者「いや、本当に幸運でした。ごきげんよう」
安渓「ごきげんよう」
おわりに
一九九八年の十月にはナイロビの学術振興会の事務所で開いている定例のセミ
ナーにオケカさんをお招きして、オケカさんたちの草の根の取り組みをケニア人
やケニア在住の日本人に紹介しました。三十人あまりの参加者の多くは、「知ら
なかった。ぜひ行ってみたい」とか「エコツーリズムに興味があるのでぜひ訪ね
ます」とか「がんばって下さい。少しですが募金します」といった熱い反応でし
た。オケカさんは、これで森の学校の校舎の基金がスタートしたといって、お喜
びでした。
なんとしても近いうちにオケカさんを屋久島と西表島にお招きしたい。これが、
オケカさんという魅力的な人物に接するうちに私たちの中にぐんぐんと高まって
きた思いです。オケカさんも大変乗り気で、私たちをカカメガ環境教育プログラ
ムの日本事務局に指名したいが、と申し出てくださいました。草の根で森を守ろ
うと努力してきた人たちが、相互に訪問し、学び会うような機会がつくれたら、
どんなにすばらしいことでしょうか。それは、一方的な援助ではなく、アフリカ
と日本の森の守り手が相互に対等の立場で交流する出会いと学びの場となるはず
です。私たちの願いの実現のために皆様の智恵や力をお貸しくだされば幸いです。
なお、森の中でのスワヒリ語(と一部英語)での会話の聞き書きは、テープおこ
ししたものを、オケカさんにチェックしていただいたうえ、私どもで日本語に抄
訳しました。
(あんけいゆうじ・あんけいたかこ・カカメガ環境教育プログラム日本事務局)


