調査されるという迷惑)プライバシーをめぐる問い(第二章)の答えのようなもの
2024/05/03
『調査されるという迷惑』では、第二章に、「される側の声」という記事を載せました。
ある南の島のP子さん(Pはプライバシーの略です)が、島を訪れる研究者やマスコミへの「20年来のぐち」をえんえんと語っている内容です。
そこでは、話し手の名前も、島の名前も、そして島に迷惑を与えたとP子さんやP夫さんが語る人たちの名前も、伏せています。島の特定につながるような詳細もできるだけ気をつけて削除するようにしました。
次に引用するのは、第二章の練習問題です(初版・増補版とも51ページ)。
問1 著者は話者の名前だけでなく島の名前(も加害者とされる人たちの名前)までも伏せているがそれはなぜだろう。このような極端な匿名性は、報告の学術的な価値を損なうのではないか。
問2 もしあなたが著者だとしたら、人であることを忘れたような行動をとったと批判されている人々に対して何らかの行動をおこすか。
問3 ここに語られている被害の苦しみを減らすためにあなたならどのような提案をするか。
以下は、(1)と(2)への著者なりの答えです。(3)は、めいめい違うでしょうから、そもそも正解というようなものはありません。著者としては、被害の傷を癒やすことはむずかしくても、それぞれの地域で、地域の人たちとの協働で、なにかが創れたらいいなぁと思っているだけです。
(1)学問的な正確さなどは、島の人たちが、マスコミや学者などに知られずに、平穏に暮らすという人権にくらべれば、それほどこだわることではないと、安渓が考えたからです。
そして迷惑を与えたとして話者のP子さんとP夫さんがとりあげた人々の名前も、L先生、V子さん、Qさん、Xさんなどのように、イニシャルが名前を想起させないような表記としました。
(2)指弾されている御本人には御本人の言い分があるでしょうから、それを聞かないで、被害者の声だけで一方的に名前をさらしたり、キャンペーンを開始したりすることは、例えばジャーナリストやフィールドワーカーとして適切ではありません。
つけたし
匿名であることは、むしろ、誰もが引き起こしかねない迷惑だということを踏まえて、「ひとごと」でなく「わがこと」と感じられる効果があったかもしれません。
(お話をきいたあと、P子さんが住所はおろか姓さえ聞いていなかったという人物を含めて、ほぼこの人に違いなかろう、という姓名や連絡先を探し当てるというおせっかいを試みました。しかし、P子さんは「思い出すのもいや」とおっしゃっていましたから、わたしの提供した情報をもとに何らかの行動を起こされたとは聞いていません。ですから、これは、わたしの個人的経験で、練習問題(2)の解答の一部ではありません。)
写真は、https://picpedia.org/highway-signs/p/privacy.html から借りた、Creative Commons画像です。