日本生態学会自然保護専門委員会の活動)沖縄県西表島浦内川の取水施設建設計画再考の要望書を提出しました
2015/07/08
渇水対策は住民の福祉のために大切ですが、日本で一番生物多様性が豊かな聖なる川の心臓部からの取水には慎重のうえにも慎重を期してほしいと思います。学会が動きました。
自然環境の研究と環境保全の研究をおこなう研究者の日本最大の学会である日本生態学会の自然保護専門委員会では、以下のような要望書を環境省と竹富町に送付しました。
http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2015Iriomote.html
浦内川河口でのリゾート建設に対する要望書も以前には発表しています。
http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2003Iriomote.html
辺野古の大浦湾の自然の保全についても働きかけています。
http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2013Henoko.html
http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2014Ohura.pdf
すでに日本魚類学会自然保護委員会からは、この件にかんする質問状が送られています。
http://www.fish-isj.jp/iin/nature/teian/150601.html
以下は、生態学会のものです。
沖縄県西表島浦内川の取水施設建設計画再考の要望書
上流から下流、そして河口域まで、人による改変をほとんど受けることなく自然のままで流れている川は、琉球列島にも、日本列島にもほとんど存在しません。その数少ない例外が、沖縄県竹富町の西表島にある浦内川です。このたび、西表島の渇水対策を理由に、浦内川のマリユドゥの滝付近に大規模な取水施設を建設する計画が持ち上がっているとの情報がもたらされました。
浦内川は、西表国立公園内の亜熱帯の自然林を縫って流れる川で、聖地でもあるカンビレーの滝とマリユドゥの滝を流れ下ったあとは、平野部をきわめてゆるやかに蛇行しつつ河口まで流れます。そのため、マリユドゥの滝のすぐ下流まで、海水が侵入し、長大な感潮域(汽水域)を形成しています。この感潮域は、日本では有数の魚類の宝庫で、その数は約400種に及びます。それらの魚類の中には、ウラウチフエダイのように、国内ではマリユドゥの滝直下の汽水域上端部にのみ生息する種や、この水域を経由して上流に溯上するさまざまな種がいます。またこの水域はカバグチカノコガイなどの汽水性貝類の宝庫としても知られ、それらはこの感潮域を利用して、降海と溯上を繰り返していると考えられます。
また、この感潮域には、塩分濃度に応じて、さまざまな河畔植生が形成されており、下流部にはオヒルギやヤエヤマヒルギ、ヒルギダマシなどが混生するマングローブが発達しています。マングローブ林の林床はキバウミニナやヒルギシジミの生息地であり、それらの捕食者でもあるノコギリガザミもそこには数多く生息しています。また、浦内川河口に連なるトゥドゥマリ浜は、固有種であるトゥドゥマリハマグリをはじめとする特徴的な生物相が形成されています。
このように浦内川は、日本の河川生態系の中で最も特徴ある、そして最も厳重に保護すべき河川であると言えます。このような河川の心臓部に、日量500トンもの取水を行なう施設ができれば、下記のような影響が危惧されます。
取水によって、浦内川下流域の全域にわたって塩分濃度勾配が変化し(海水塊がより上流まで侵入し)、それは取水施設周辺の生息や降海・溯上に直接影響するだけでなく、より下流の河畔植生にも影響を与える可能性が高いです。特に渇水期の取水の影響が強く危惧されます。
取水施設や導水管の建設やその関連工事は、それだけで、原生的な河川環境や渓畔環境に影響を与える可能性があります。
大量の蛇籠の投入は、浦内川の河床環境を不可逆的に大きく変えてしまう可能性が大きいと考えられます。
世界に誇る浦内川の豊かな河川生態系が損なわれることがないように、本計画の関連工事をいったん中止し、本取水計画の環境影響評価を十分に行ない、本計画を根本から見直すことを要望します。
2015年7月6日
日本生態学会自然保護専門委員会
送付先:環境大臣、竹富町長
