過去のアイヌ民族研究「心から謝罪」 日本文化人類学会が声明
2024/04/09
私の属している、日本文化人類学会が、声明を出しました。
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https://ankei.jp/yuji/?q=%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C
それらを踏まえて、1989年の見解を表明した、日本民族学会の研究倫理委員会のあとの第二次研究倫理委員会のメンバーとして、(89年見解を英語にして発表しようというアイデアもあったのに)、研究倫理委員会も解散となり、取り組みが腰砕けに終わってしまったことに、抗議せず今日まで過ごしてしまったことを反省しています。
アイヌ民族研究に関する日本文化人類学会・学会声明
https://jasca.org/onjasca/2024seimei.pdf
アイヌ民族研究に関する日本文化人類学会・学会声明
日本文化人類学会(旧称:日本民族学会)は、文化人類学研究者の過去の営為を検証し、また研究のありうべき未来を展望するために、1989 年6 月、「アイヌ研究に関する日本民族学会研究倫理委員会の見解」(別添:以下「89 年見解」)を社会に向けて表明しました。近代の学知として19 世紀に確立した文化人類学は、遅くとも20 世紀中葉にいたるまで、同時代の人種主義、帝国主義、植民地主義と密接な関わりをもってきました。こうした趨勢のもと、1869 年「北海道」制定以降のアイヌ民族研究においても、当事者であるアイヌ民族の方々の主体的な意志や社会への要請を研究に反映させる姿勢や、研究成果を文化の当事者と共有する姿勢を研究者が長きに及び著しく欠いてきた過去への深い反省に基づき、「89 年見解」は表明されました。加えて「89 年見解」は、研究の未来に向けても、アイヌ民族との十分な意思疎通をふまえた研究や、アイヌ民族出身の研究者育成、日本社会における偏見や差別を是正する学校教育・社会教育の促進の必要性などにも言及するものでした。
「89 年見解」を真摯に受けとめた個々の学会員により、その後アイヌ民族の方々との協働による研究の試みも生じ、1996 年には学会理事会が内閣官房長官宛に、また 2008 年には学会長が「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」宛に、日本文化人類学会としての「89 年見解」堅持の意志を再三表明してまいりました。しかし他方において、文化人類学の研究成果をアイヌ民族の方々と共有していく方針についてはもっぱら各学会員による個別の努力に委ねてしまったこと、またアイヌ民族の方々が日本社会のマジョリティに向けて発信してきた具体的な意志や要請に、学会として深く理解し支持する姿勢で向きあえなかったこと、さらには過去のアイヌ民族研究に起因する心的外傷が歳月の経過を以てしても消え去るものではない事実の認識を欠いていたことなど、反省すべき点は少なからず残されました。民族としての、また人間としての尊厳に留意したはずの「89 年見解」のスピリットが、以後の学会活動で十分に活かされなかったばかりに、今日にあってもアイヌ民族の方々の不信感を招き、過去の過ちに対する無関心のなせる業と誤解される場合もあったことを、まことに遺憾に感じております。
出自や性や社会階層の別なく、一人ひとりの生の背景に広がる多様性をなにより尊重していくという理念の価値づけについて、1989 年以降の 30 有余年で国際社会の認識は大きく変貌をとげました。過去に犯した研究至上主義の過ちはけっして清算されうるものではありませんが、こうした過去を正しく認識し、たえず自省していかないかぎり、学術研究、とりわけ生身の人間の生に向きあう文化人類学の研究には、未来など開かれないことを私たちは確信しております。今日の世界を生きる先住民族や少数民族の方々が直面する社会問題、また社会差別全般をめぐる諸問題について公正な認識をもち、人間間の相互理解をいっそう深めていく決意のもと、学会声明として、アイヌ民族の方々に対する過去の研究姿勢をあらためて真摯に反省し、心から謝罪の意を表明するしだいです。
このたびの声明が、未来にむけた責任の意志表明として、本学会内外のアイヌ民族の方々との新たな通いあいにわずかでも繋がっていくことを切に祈念いたしております。
2024 年4月1日
一般社団法人日本文化人類学会
(以下は、「89年見解」)
アイヌ研究に関する日本民族学会研究倫理委員会の見解
少数民族の調査研究に際して民族学者, 文化人類学者が直面する倫理的諸問題を検討するため, 日本民族学会理事会は1988年11月, 研究倫理委員会を発足させたが,この委員会は数度にわたる慎重な審議をふまえて、このほどまずアイヌ研究についての見解を次のようにまとめた。
1. 民族学, 文化人類学の分野における, 基本的な概念のひとつは「民族」 である。 この 「民族」 の規定にあたっては,言語, 習俗, 慣習その他の文化的伝統に加えて、人びとの主体的な帰属意識の存在が重要な要件であり、この意識が人びとの間に存在するとき,この人びとは独立した民族とみなされる。 アイヌの人びとの場合も、主体的な帰属意識がある限りにおいて、独自の民族として認識されなければならない。アイヌ民族がこれまでに形成発展させてきた民族文化も、この観点から十分に尊重されなければならない。また一般的に, 民族文化は常に変化するという基本的特質を持つが、特に明治以降大きな変貌を強いられたアイヌ民族文化が、あたかも滅びゆく文化であるかのようにしばしば誤解されてきたことは,民族文化への基本認識の誤りにもとづくものであった。
2.民族学者,文化人類学者によって行われてきたアイヌ民族文化の研究も、その例外ではなかった。 これまでの研究はアイヌ民族の意志や希望の反映という点においても,アイヌ民族への研究成果の還元においても、極めて不十分であったと言わねばならない。こうした反省の上に立てば、今後のアイヌ研究の発展のために不可欠なのは、アイヌ民族とその文化に対する正しい理解の確立と、相互の十分な意志疎通を実現し得る研究体制の確立である。 そのためには、まずアイヌ民族出身の専門研究者の育成とその参加による共同研究が必要であり,またこれを実現するための公的研究・教育機関の設立が急務である。
3.こうして得られた研究の成果は、教育・啓蒙の側面においても積極的に活用されるべきである。すなわち, 抑圧を強いられてきたアイヌ民族の歴史とその文化について, 学校教育 社会教育等を通じて正しい理解をたかめ, 日本社会に今なお根強く残るアイヌ民族に対する誤解や偏見を一掃するため、 あらゆる努力がはらわれなければならない。この目的のためには、初等中等教育における教科書の内容についても十分に検討する必要がある。一方, アイヌ民族の幼いメンバーや若い世代に対して, アイヌの伝統文化とアイヌ語を学習する機会が制度的に保証されなければならないとわれわれは考える。
4. アイヌ民族に対するこうした正しい理解の促進は、現在さかんに強調されている国際理解教育の第一歩でもある。 独自の文化と独自の帰属意識を持つアイヌ民族が日本のなかに存在することを正しく理解することなしに、 国際化時代の異文化理解は到達成し得ないことを認識する必要がある。 アイヌ民族に対する正しい理解を出発点としてこそ, 他の少数民族や差別の問題についても公正な認識を持ち、他の文化や社会についての理解を深めることができるのである。
5. 以上の見解は,文化や社会の研究と教育に携わっているわれわれ民族学者, 文化人類学者の研究倫理から発したものである。 今日, 日本のみならず,世界のいずれの地においても,一方的な研究至上主義は通用しない。われわれの研究活動も、ひとつの社会的行為であることを肝に銘ずべきである。 今回のアイヌ民族に関するわれわれの見解の表明は, こうした社会的責任の自覚にもとづくものに他ならない。
1989年6月1日 (木)
日本民族学会研究倫理委員会
委員長 祖父江孝男 (放送大学)
委員
伊藤 亜人 (東京大学)
上野 和男 (国立歴史民俗博物館)
大塚 和義(国立民族学博物館)
岡田 宏明 (北海道大学)
小谷 凱宣(名古屋大学)
小西 正捷 (立教大学)
スチュアート ヘンリ(目白女子短期大学)
田中真砂子 (お茶の水女子大学)
丸山 孝一 (九州大学)
山下 晋司(東京大学)
北海道新聞 金子文太郎記者 2024年4月1日
過去のアイヌ民族研究「心から謝罪」 日本文化人類学会が声明(途中まで無料記事)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/995176/
朝日新聞 上保晃平記者 は全文読めました。
https://www.asahi.com/articles/ASS490CP9S49IIPE00GM.html
過去のアイヌ民族研究「反省し心から謝罪」 日本文化人類学会が声明
上保晃平2024年4月9日 12時00分
日本文化人類学会(真島一郎会長)は1日、アイヌ民族についての過去の研究姿勢を「真摯(しんし)に反省し、心から謝罪の意を表明する」と明記した学会声明を発表した。北海道アイヌ協会によると、国内外の学会がアイヌ民族研究について謝罪するのは初めて。
学会の前身にあたる日本民族学会では、内部の研究倫理委員会が1989年、それまでの研究がアイヌ民族の意志や希望の反映という点で「極めて不十分であった」とし、「相互の十分な意志疎通を実現し得る研究体制の確立」が不可欠とする見解を発表した。
今回の学会声明では、当時の見解が、その後の学会活動で「十分に生かされなかった」と指摘。アイヌ民族が日本社会のマジョリティーに向けて発信してきた具体的な意志や要請に学会として支持する姿勢で向き合えず、反省すべき点が少なからず残されたとし、「今日にあってもアイヌ民族の方々の不信感を招き、まことに遺憾」と記す。
その上で、「過去に犯した研究至上主義の過ちは決して清算されうるものではないが、過去を正しく認識し、たえず自省しないかぎり、生身の人間の生に向き合う文化人類学の研究には未来など開かれない」とした。
研究をめぐっては、明治から1970年代にかけて、和人研究者らがアイヌ民族の墓から遺骨を発掘した問題があり、「盗掘同然の方法だった」との批判も強い。
先住民族アイヌの人権を守りつつ研究を進めるため、学会や北海道アイヌ協会などは2019年に「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」を公表。学会として検討を重ねる中で、今回の声明発表にいたったという。
学会は今年3月末、北海道アイヌ協会などに声明について説明。協会関係者は「信頼関係の構築に向けて、今後の学会の姿勢に注目したい」と話す。(上保晃平)