田代安定)巡検統計誌に頻出する「米+尺」の字義は、粳(うるち)米
2024/02/29
浄土真宗の門徒としては、戒名というか法名の付け方は、いたってシンプル。
お釈迦様のファミリーになるというのでしょうか、頭に釈の1字をつければ、それで終わり。
ちなみに、死んだらすぐさまお浄土に入るので、ほんとは、初七日とか49日とかさまざまな儀式もなくていいらしいので、さまざまな儀式やまじないに埋め尽くされた島国の暮らしの中で、念仏三昧(ざんまい)一筋で、あっけらかんとさばさばと暮らすのが基本です。仏教界のプロテスタントなどと、明治の探検家のイザベラ・バードが書いている通りで、民俗学研究者にとっては、淋しいことです。ただし、お寺の経営上はそうもまいりませんから、報恩講以外にもいろいろとあるだろうとは思います。
わたしなどは、遊地が親鸞さんの「教行信証」からとった「園林遊戯地門(おんりんゆげじもん)」を縮めたものだから、そのまま
釈 遊地
でいいわけ。
さて、明治18年から19年にかけて、八重山に1年近く滞在した、博物学者・田代安定の資料の多くを占めている、復命第一書類は、八重山の島々の巡検統計誌なのですが、その中に、この「釈」によくにた、米+尺 という字が出てきます。
米+尺 のあとは、米 と続いて、 餅米 と対になることが多い。
これは、粳(うるち)米のことを指すらしいのですが、なんと読むのでしょう。
米+戸という字は、ありますが、米+尺という字母は、存在しないのです。
浄土真宗の法名の釈とおなじく「しゃく」と読むのではないか、と当たりをつけて、方言も充実している『日本国語大辞典』第2版の索引を見ると、ありました! 6巻1093頁の「しゃく」の項目です。もともとは盗賊の隠語でした!
愛媛県・鹿児島県で 「しゃくのこめ」と言えば、「飯に炊く米、うるち」のこと。
石垣島などでは、「さくまい」などと言います。
地域によっては、玄米や水稲一般を指すところもあるようです。
西表島の稲作の歴史を勉強するときに読んだ、『稲の日本史』の中で、柳田國男さんが、
「しゃくの米」という不思議なものがあるように紹介しておられましたが、それほど難しいものではなかった。https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN01360335
薩摩出身の田代安定は、故郷では「しゃくのこめ」を聞き慣れていて、石垣島で「さくまい」という島言葉を聞いて、違和感なく意味がわかったのだと思います。
この 「米+尺」 という文字が、田代の統計的調査のリクエストに応えた島役人からの回答書にもともとあった文字なのか、それとも、田代の発明か、これは、歴史家のみなさんにお尋ねしてみたいところです。
安渓遊地