連載)阿東つばめ農園おひさま便り2024年1月 (最終回)#ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2024/01/31
つばめ農園おひさま便り(49) 安渓貴子・安渓遊地
食の危機を乗り越える
山口市阿東高原の山々は、葉を落とした落葉樹と常緑樹の鈍色の世界になりました。そのなかで今年初めて気づいた「ナラ枯れ」が気になります。盆地を見下ろせば、地域の方々のがんばりで、棚田の畦と斜面の草もほぼきれいに刈られています。所々ある麦畑の緑、そして点在する石州瓦の赤い屋根が彩りです。
猛暑の夏、つばめ農園のお米は例年の半作だったのですが、いつも一番良いお米がいただける田に未熟米が多かったのです。一二月はじめにあった日本有機農業研究会の集会「語り合おう! 気候変動下の今年の作柄を振り返って」で、イネの高温障害の実例が紹介されました。開花期の気温が三五度以上になると花粉が死んでしまい、登熟期の高温ではお米が白く濁る未熟米になる・・・・・・。うちのお米も高温障害だったのかもと思いあたりました。そういえば、少量だけ試作した、高温に強いという新品種のイネは、肥料不足で背が低かったわりにはりっぱな収穫でした。
その一方で、熱帯系ヤマノイモで、鹿児島の名産「かるかん」の材料になるダイジョや、サツマイモは病気もなくりっぱに育ってくれました。
今年で三三回目を迎える、#山口県環境保全型農業フォーラムでは、国際ジャーナリストの堤未果さんを講師にお迎えします。「食の主権をとりもどせ――ローカルフードという希望」をテーマに、二〇二四年二月二四日に、新山口駅に直結の維新ホールで開催できることになりました。
堤未果さんは、「堤未果のショックドクトリン――政府のやりたい放題から身を守る方法」(幻冬舎新書)、「ルポ 食が壊れる」(文春新書)、「デジタル・ファシズム――日本の資産と主権が消える」(NHK新書)など、たくさんのベストセラーを書くなど大活躍中の方です。
今回は、とくに「食の危機をどう乗り越えればいいのか」をめぐって、まだあまり知られていないままに食卓に上ろうとしている、人工肉バーガー、ゲノム編集魚、コオロギパンにワクチンレタスなどなどの取材結果を掘りさげてお話しいただく予定です。
山口市阿東徳佐の高原で、小さい農業をして一〇年。源流の井戸水と、一軒では食べ切れないほどの安心できる野菜と、たくさんの薪に恵まれて、慎ましいなかに豊かさを味わえる暮らしを堪能してきました。
水や食料や暖房、そしてなにより自由と安全、そうしたもののすべてをまるごと奪われているパレスチナ・ガザ地区のニュースを見聞きすると、自分に何ができるか、無力感に苛まれます。
しかし、庶民の誰もが安心して入手できた、生活を潤していたもののすべてを、あらゆる手段で奪おうとするグローバルな動きを、見過ごすことはできません。
そんな気持ちで、ささやかな取り組みを重ねてきた報告が、この連載でした。日本のあちこちに、志をもって生きている庶民がいることを毎号感じることができるメディアとしての『むすぶ』に書かせていただいたことを、こころから感謝しています。
『むすぶ』に感謝
この月刊『むすぶ』での四年間の連載の内容を振り返ると、コロナ禍の中でも続けてきた、さまざまな日々の出会いの記録とその時々の私たちの率直な意見でした。
筆の勢いにまかせて行きあたりばったりに何を書いても受け入れてくださった四方哲さん、細かい修正にも素早く対応して毎回の美しい版下をつくってくださった日置真理子さん、そして時に励ましや訂正のお便りをくださった『むすぶ』の読者のみなさまに感謝いたします。
一月に予定していたコンゴ民主共和国での学会参加は、大統領選挙の中で、暴力行為がめだつようになったため、延期されました。それが六月になる、というので田植えとそのあとの草取りの最盛期でもありますから、遠隔での参加にしていただきましたが、まだまだアフリカ行きを断念したわけではありません。
つばめ農園での有機農業や交流の広がりについても、新しい年のはじめにあたって、さまざまな「えっ、そこまでやるの!?」といった計画が目白押しですが、それはまた、#つばめ農園ブログなどでもご報告していくことにいたします。
体力的にいつまでこうした体をめいっぱいに使う暮らしができるか、疑問の声が自分たち自身の中に湧くこともありますが、どうにもとまらない私たちの歩みを、戯作詩にしてみました。運【un】の付く英訳とともにご紹介しておきます。長らくのご愛読ありがとうございました。またどこかでお目にかかりましょう。
#みずみずしい人生 Unstoppable life
わきまえず老害もかえりみず
若いあの日のむこうみず
つながりたくて年寄りのひやみず
だめもとでめざせ末期のみず
An unstoppable old guy thinks,
“I was young and unafraid,”
Still challenging for unseen links
Of life approaching an end unpaid.
(あんけいたかこ・あんけいゆうじ)
写真 石垣島での安渓ファミリー
2023年2月、韓国木浦大学校島嶼文化硏究院の洪善基教授撮影。