連載)阿東つばめ農園おひさま便り2022年1月-2月 自然の中の子どもたちと食べることの大切さ #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasob
2022/02/13
SobaHikiKodomo
つばめ農園おひさま便り (25)
安渓貴子・安渓遊地
食事が変われば子どもが変わる
新しい年を迎えました。いかがおすごしでしょうか。つばめ農園では、白大豆の収穫と選別をなんとか年末に終えて、予約いただいた方々へのお米の発送を三分の一ほどはすませました。雪の中で、これから春までの農閑期にやっておくことをじっくり考える、そんなゆとりが、営農ソーラーのおかげで得られています。
昨年一二月に「やまぐち食育フォーラム」という、元気な集まりに家族三人で出ました。主催は連載一五回目にご紹介した「ヤッタネ! やまぐち」、講師は、国光美佳さん(子どもの心と健康を守る会代表)、前島由美さん(ゆめの森こども園代表)、吉田俊道さん(〈株〉菌ちゃんファーム代表取締役)です。
国光さんは、この連載の三回めでご紹介した、食品と暮らしの安全基金の小若順一さんとともに『食べなきゃ、危険! 食卓はミネラル不足』(フォレスト出版)を出版。小若さんたちが、チェルノブイリの被害者支援とならんで、このところ力を入れている、市販の食品のミネラルを測った結果は、鉄やマグネシウム、といった主要ミネラルでさえ厚生労働省の一日摂取基準にはるかに届かないものが多く、これを食べ続ければ死ぬというレベルのものだったのです。ミネラルが不足するのは、事前に水煮される食材が多いこと、食品添加物として「リン酸塩」が多用されること、そして、精製食品とくに精製油脂を使うためです。ミネラルの圧倒的な不足を補うために、インスタントラーメンやジュースにも魚や昆布から取った
出汁の製品を加えるだけという、いわば対症療法のような取り組みをしたところ、わずか数日で子どもに変化が現れはじめたというお話です。
講演で紹介された「こうちゃん」という男の子は、六歳のときにアスペルガー症候群と診断され、相手の状況や気持ちを読み取るのが苦手でした。同年代の子どもたちとの関係がうまく築けず、パニックを起こすなど集団生活に適応できない状態で、向精神薬を処方されていました。ミネラル補給を始める前後での「こうちゃん」の絵とそこに添えられた本人の言葉が、つらいものから「しあわせー!」になる大きな変化に圧倒されます。このできごとが、国光さんが『食べなきゃ、危険!』を書き、「子どもの心と健康を守る会」を立ち上げるきっかけになりました。
自然の中でとりもどす健康
続いて、スピリチュアルな面を重視しておられる雰囲気の前島さん。出雲大社の向かいにある「ゆめの森こども園」での実例集として『輝きを取り戻す“発達障がい”と呼ばれる子どもたち』(どう出版)の著書があります。それによると、二五年間保育士として勤めたあと、二〇一一年から発達障がい児の療育支援を始めました。二〇一四年に「ゆめの森こども園」を設立、二〇一六年には、古民家風の園舎を建てました。そこでは、すべてが自然素材で、土間、かまど、囲炉裏、掘りごたつ、茶室、檜風呂等があります。昔ながらの日本家屋での療育支援の場で鶏の平飼い、養蜂、ウサギ、犬、猫などの飼育と、自然栽培での畑作り。その中で、薪割りやかまどでご飯を炊くことを子どもたち自身が体験するのです。
「イライラ」や「感覚過敏」「多動」などに苦しんでいた子どもたちが落ち着きをとり戻し、自信をもって学校や社会で活躍できている、という内容でした。こうした子どもたちの立ち直りは、地球環境と人間活動のバランスの回復なしには、実現できません。そうした思いから、この連載の第一六回で紹介した、日本の種子を守る会の山田正彦さんらの応援も受けて、二〇一九年に化学物質を使わない食と農をめざす「フーズフォーチルドレン」という団体を立ち上げたところ、わずか一年で四七都道府県すべてに支部ができました。
ADHD(多動性症候群)の治療に使われる向精神薬の売り上げが、ストラテラという薬を例にすれば、二〇〇九年の五・四億円から二〇一六年には二一九億円と右肩あがりに増えています。副作用も幅広く、最近子どもたちによく処方されているエビリファイという薬を例にとると、主な副作用には「CK上昇(筋肉の細胞が壊れる)、振戦、傾眠、ALT(肝機能のGPT)上昇、不眠、神経過敏、不安、アカシジア(体がむずむずしてじっと座っていられない)、流涎、体重増加、筋強剛」が挙げられ、その他の副作用の中には、自殺企図などを含むたくさんの精神・身体の異常があげられています(『日経メディカル』の記事)。そして、子どもにも処方されているこれらの向精神薬でなんらかの副作用が出現する確率は、
六五~八〇%に達すると、前島さんは指摘しました。
前島さんの著書の中で、強く印象に残ったのは、リストカットを繰り返す高校生のカナちゃんが、明るく「前島さん、カミソリが切れにくくなったので、新しいのを買いに連れて行ってくれませんか?」とたのんだエピソードです。お店のカミソリコーナーの前でカナちゃんは、いろいろ使ってきたので、「あれはよくない、これも」と選ぶうちに、目を輝かせて、ガードのないスパッと切れるタイプの一〇本入りを買おうとします。「それは錆びやすいでしょう。傷口から錆が入ると、熱がでて命取りだから」といって、三本入りにさせ、さらに、自分用に一本わけてほしいと頼んで、
二本に減らしました。その過程の前島さんのドキドキと、やがてリストカットが止まるという結果に、とことん子どもに寄り添うケアのあり方を学ばせていただきました。
むちゃくちゃ面白い菌ちゃん先生のお話は次回に。(つづく)
つばめ農園おひさま便り (26)
昔の暮らしを楽しむ子どもたち
山口市北部の阿東では、厳しい寒さの日はあっても、大雪で営農ソーラーが倒れた去年に比べれば、一晩で溶ける程度の雪しか今のところ降っていません。
陽射しのあたたかなお正月に、とても元気な男の子二人と、小さな女の子がご両親に伴われて、阿東つばめ農園のおひさま交流館に遊びにやってきました。はじめのうちこそ、持ってきたシャボン玉遊びなどしていましたが、すぐにあたりのあぜ道を走り回ったり、水のたまった溝をぴょんと越えたり、氷が張っているのをみつけたらさっそく持ち出して割ってみたり……。きけば男の子の一人は、ご近所の子だというのです。
田舎暮らしや、自分で種子をとる小さな農業なども始めているというご家族を歓迎して、薪ストーブを焚いて、いろいろな話をしながら、子どもたちが喜ぶかと思って、石臼をセットし、収穫してある蕎麦の実を挽いてもらおうと思いつきました。? 上下合わせて50キロ近い大きな石臼で、私たちも蕎麦を挽くのは初めてです。男の子二人で力を合わせて回すと、殻が外れてちゃんと粉になるようです。目の細かい篩でふるって、そば殻を分け、まだ挽けていない荒いものは、また臼に戻します。そのうちに、女の子まで参入して、子どもたちだけでやれると言い出しました。用意した蕎麦の実をみんな挽いてしまって、「もっとないのー?」と催促されるぐらい、子どもたちは石臼にはまっています。
お父さんは、なかなかやらせてもらえず、お母さんは危なくないようにちゃんと見ているけれど、子どもたちのやりたいように自由にのびのびとやらせている姿が印象に残りました。? できあがった蕎麦粉をちゃわんに入れて、薪ストーブの上のやかんからお湯を注いで、そばがきを作って試食した子どもたちは、その素朴な味が気に入ったようです。自宅も薪ストーブだという、ご近所の男の子は、そば殻で枕をつくりたい、といって持ち帰りました。
いつもは静まり返っているような田舎を元気な子どもたちが走り回るだけでもうれしいのに、その子らが、自然のものを見つけて楽しく遊び、昔の暮らしで役立ってきた道具を使いこなす。なんとすばらしいことでしょう。空き家はたくさんあるし、空いている農地もあるのだから、移住大歓迎ですよー、といって一回目の交流会は盛り上がりました。? 畑仕事や田んぼの準備が始まったら、こんどはどろんこ遊びもできるから、またいらしゃいね!
菌ちゃん先生の畑づくり
前号でお知らせした二〇二一年一二月四日に山口市で開かれた、田んぼや畑でのびのび育つ子どもたちを目標のひとつにした「やまぐち食育フォーラム」。そこでお会いした、菌ちゃん先生こと吉田俊道さん(〈株〉菌ちゃんファーム代表取締役)は、あたりの空間を生き生きとしたエネルギーでみたすようなパワフルなお方でした。
いきなり「みなさーん! 今の、国光美佳さん(子どもの心と健康を守る会代表)や、前島由美さん(ゆめの森こども園代表)の発表聞いてどう思われましたか? わずかな数の子どもがたまたま食事を変えたら調子がよくなった、という報告でしたけれど、そんなことで一般的に通用するわけないでしょう? そう思われた方は手を上げてください。」勢いに押されて数人が手を挙げました。
「そう。それが専門家の見方なんです。そして、農薬なしに農業ができるはずがない、というのが専門家の見方なんです。でもそれは間違ってたんです。」
大学院で植物生理を学んで就職した長崎県の農業改良普及員を三六歳のときにやめて、農業を始めた菌ちゃん先生は、有機農業に挑戦。草は取っても取っても生えてくるし、虫がやってきてキャベツはすだれのように食われました。モグラが穴をあけるので、アスパラガスの根がやられて全滅といった経験をしました。虫が集まる野菜がえぐく、虫がこない野菜が甘かったことから、気づきがやってきました。草も虫もモグラも敵にしない、地上においた枯れ草に糸状菌(カビ)を繁殖させるという農法にたどり着いて、今では、虫がこないどころか、モグラは二六センチも下を潜るようになって、モグラのおかげで畑に空気が入ってますます根が伸び広がるようになりました。
虫は腐敗した有機物を食べるから、モグラは腐敗したところにいるミミズなどの虫がほしくて潜っていたのだからといいます。具体的には、ススキややセイタカアワダチソウなどの固い草や、籾殻などを土の上にのせて、二、三カ月マルチをかけて雨にあてないようにしてやるだけです。農業の常識としては、炭素分が多くて圧倒的に窒素分が少ない状態ですから、窒素飢餓という状態で、作物はほとんど育たないはずです。ところが、菌ちゃんふぁーむでは、それでも育っています。それは、糸状菌につづいて、窒素固定菌が働いて野菜の根に肥料分を渡してくれるおかげで、野菜がよく育つというのです。女優の柴咲コウさんが、北海道で菌ちゃん先生の指導をうけながら農業にとりくんでいるビデオなどをみながら、うちも、
これまで利用してこなかった、
荒れ地のススキを刈りはじめました、
畑にもっていかないうちに、雪にふられたりしていますが、草をたっぷり畑の上においてやることの効果を見ていきたいと思っています。(つづく)