連載)阿東つばめ農園おひさま便り2021年12月 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2022/02/13
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つばめ農園おひさま便り (24)
安渓貴子・安渓遊地
生きづらさと統合失調症
先が見えず生きづらい毎日ですが、お元気ですか? 月食のお月さまはいかがでしたか。山口ではくっきりと見ることができました。晴れた夜のあとの朝は霧がかかります。朝八時頃、霧が晴れると山並みが見えて、紅葉の色が日に日に鮮やかになってきたのがわかります。今年も中国山地の稜線に近い山のブナが紅葉して麦を播く季節です。山口では紅葉、そして落葉の時期が、二〇年前に比べて二週間ぐらい遅くなっています。つばめ農園の大豆もいつまでも緑の葉が残っていて、刈り取りの適期に悩みます。
さて、二年ほど前になりますが、大学院で農村の地域おこしのようなテーマで学びたいという方からのメッセージが来ました。メールをやりとりするうちに、この方が、もと新聞記者で、統合失調症のために退職し、現在も治療中だとわかりました。そして、心がかぜをひいた人もそうでない人も「みんながつどえる広場」づくりをめざして「みんつど」というミニコミを出しておられることを知りました。
心の病いを現在治療中の当事者が書かれたものに触れる機会はほとんどありません。先入観なしに読んでみたら、なんだか肩の力がぬけてほっこりする内容でした。新聞記者として鍛えた筆の力なのでしょう、文章もわかりやすくて安心して読めるのです。統合失調症当事者のイラストレーターや歌手なども毎号登場し、いきなり入院した病院からのユーモラスなルポなど、毎号もりだくさんです。私たちのブログで広報のお手伝いをすることを引き受けて、「みんつど」ができるたびに貼らせていただくうちに、今では二四号になりました。
そして、昨年秋には、天地成行(てんち・なりゆき)のペンネームで、岩国市の出版とウェブデザインの会社「くるとん」から自分史を出版されたのです(https://crouton.jp/)。『わたしは山頭火!?』と題するその本は、いまやだれもがそうなる可能性がある「心のかぜ」にそなえるための、強力なサバイバルガイドです。この本では、どうしても主観的になりやすい自分史的な闘病記を「寄り道」と称する長めのコラムで客観性をもたせる工夫がされています。六九人もの人に書いてもらったメッセージノートや、入院時の日記、カウンセラーからの意見などがその例です。そして、本の題にあるように、入院中に山口県生まれの漂泊の俳人・山頭火の作風をめざして自由律俳句づくりに没頭した結果、八か月と予告された入院をわずか二
月に短縮できたのでした。「ちぎれ雲に空が広すぎる」「諦めて寝る お月さんがきれい」など数百もの印象的な作品が生まれました。
自由律句セラピーと『みんつどラジオ』
新聞社での自分の持ち場の仕事だけでなく、もちまえのボランティア精神から様々な人間関係の調整役を買ってでる中で、自分の限界を超えてしまったという天地さん。彼は、人が自分の悪口を言っているように思える幻聴や幻覚、ひとりでも意見がまとまらない多重人格、他人ができることを自分はできないという自責からの自殺願望などに苦しんできました。自由律句づくりに没頭した日々は、あれもそれもこれもではなく、短く言い切る言葉を選び、それをさらに磨いて、専門家の指導を受けるというプロセスでした。まさに「自由律句セラピーの発見」と呼んでいいほどの効き目があったのです。
精神障がいの当事者の情報交換と社会への発信をめざす天地さんの挑戦は、ミニコミや自分史を超えて『ズッコケ三人組』の那須正幹さんから助言してもらった小説、みんつどブログ、YouTubeを利用したラジオ番組にまで広がり、当事者会での講話の依頼等も入るようになりました。私どもは、天地さんから助言を求められた時にも、あくまでご本人の意向を大切にし、背中を押したり、足をひっぱったりすることがないように気をつけています。そして、できるだけお金をかけずにやりたいことがかなうよう、印刷やブログの開設をお手伝いさせてもらっています。そんな中で、コロナのために人的な交流が減っている息子の大慧も、天地さんの家でお買い上げの、つばめ農園のお米や大豆を届けたついでに、二時間あまりいろいろなお話をきいてもらったりして、物心両面で助けられています。
コロナ禍で、部屋への引きこもりを余儀なくされてしまっているみなさん、元気がでなくなってきたら、それはウィルスではなくて「心のかぜ」かもしれません。そんなときには、お近くでしたら阿東つばめ農園まで足を伸ばすか、ネット上の天地成行ワールドで遊んでみるのもいいかもしれません(https://mintsudo.seesaa.net/)。
(紙媒体の送付は在庫がなくなったそうです。)