連載)阿東つばめ農園おひさま便り2021年11月 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2022/02/13
イセヒカリを色彩選別に出
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つばめ農園おひさま便り(23)
安渓貴子・安渓遊地
収穫の秋・冬への準備
雪深い阿東高原の冬に備えて手作りのロケットストーブの手直しをしました。薪を焚くドラム缶本体からの熱気を長く水平に導き、そこを地元の土や石で覆って、オンドル式の座席や寝台を作ったものです。煙突に溜まるススやタールを定期的に取り除いて、メンテナンスしやすい形への改良ですが、手探りで一〇日ほどかかりました。お湯をわかすだけでなく、ハーブ茶や、自家用に取り入れた小豆二品種や「七月十日豆」という名前がついた白インゲンを乾かすのにも使っています。おかげで遠赤外線のおだやかな暖かさが家中に広がるのがうれしい毎日になりました。
お米の方は、去年は、ウンカ被害でわが家も半作でしたが、今年は被害もなく、ご近所でも平年のように収穫されたようです。他の農家より少し遅い一○月一〇日ごろに、お米の収穫を終えて一○月二一日からイセヒカリの新米の日本各地の予約のお客様への発送をはじめました。カメムシに吸われた斑点米や、白や緑の未熟な米粒をコンピュータで区別してはじき飛ばす色彩選別機をご近所で使わせてもらえるおかげで、今年もりっぱな一等米をいただけました。ずらりと並んだ米袋を見てホッとするやら、去年は量を減らすことをお願いせざるを得なかった予約のお客様の安心の声をきいて嬉しい思いです。くず米がたくさん出ますが、これは、小豆島の友人の鈴木農園の放牧豚さんたちにプレゼントしています(鈴木農園の様子は
https://sonofune.themedia.jp/posts/8174147/)。
米価の暴落と食糧危機
うちは買ってくださる方々に直接販売すものがほとんどで、農協には出していませんが、今年は、昨年度の不作にもかかわらず全国的に農協のお米の買取価格が下がり、それがこの度の衆議院選挙の争点のひとつにもなっています。『長周新聞』二〇二一年一〇月四日によれば、山口県では、一般の農家が農協から受け取るお米の値段(仮渡し金)が玄米一俵(六○キロ)あたり二○○○円ほど下がって、一番高い「コシヒカリ」一等米のなかでタンパク含量七・〇%未満の最高値が一万一三四〇円で、前年から二二八〇円のマイナスとなっています。全国的にも、外食産業やコンビニ向けの業務用として出荷している栃木県では影響が大きく、今年の下落の幅が四一%の一俵七〇〇〇円という米もあります。一方、生産にかかる経費は
中山間地域の多い中国地方の場合、一俵当りの生産費は他の地域より高く、二万七〇九円かかっています(二〇一九年の農業経営統計調査)。
米の値段が下がるのは消費者にとって朗報と思われるかもしれませんが、慣行農業の農家の多くは、完全に赤字となり、稲作が続けられない状況なのです。各地で災害も頻発していますし、高齢化が進むなか、数十ヘクタール以上の規模で営農をしているところでも存続が危ういと思います。コロナ禍のなかで、米に限らず食料の輸入が止まったら、日本にただちに飢餓がくるのではないかと心配です。
米の値段が下がった説明は「コロナ禍で米の消費が減り二〇万トンほど米が余っている。政府は備蓄米を一二○万トン以上は買わないと決めたから買わない」というものです。その一方で、ミニマムアクセス米と称して外国から年に七七万トンもの米を輸入していて、そのうちの三五万トンは、かならず米国から輸入するという密約があるのだそうです。米に限らず他の食品でもこういうことが起きています(鈴木宣弘、二○二一『農業消滅ーー農政の失敗がまねく国家存亡の危機』平凡社)。
よく、「日本の農業は世界一保護されてきた。それが間違いなのだ」という人がいますが、事実は全く逆です。二○一三年の時点で農業所得に公的助成が占める割合はスイス一○○%、フランス九五%、イギリス九一%となっていて、一方日本は、農家所得に占める補助金の割合は平均一五・六%(二○○六年現在)だったところ、民主党政権の戸別所得保障制度の導入で二○一六年には三○%に増えましたが、安倍政権がこの制度を廃止して、現在は二○%です(鈴木前掲書、一七頁)。
米が余っているというのですが、いっぽうで仕事が減って格差が進み、お米が買えなくて飢えている人々が国内にもいます。たとえば、ひとり親世帯や移民の人たちです。政府の支援が届かないなか、川越市のお寺で無償の食品提供をひとり親世帯を主な対象に始めたところ、就学支援を受けている家庭を中心にSNSのラインでの登録者が約一四○世帯四五○人に達しています(川越子ども応援パントリー「地域に広がる、ひとり親世帯への食品提供」『ビッグ・イシュー』三九六号、
二二~二三頁、二○二○年一二月号)。国内の飢える人々への人道支援をなぜできないのでしょうか。アメリカなどは、政府が農産物を農家から直接買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子どもたちに配給するという人道支援を行っています(鈴木前掲書、一六頁)。日本も税金をこういった所に使って欲しいと思います。山口の田舎に暮らして、都会生活の本質でもある「三密」とは縁遠い風通しのいい暮らしをしているのですが、『ビッグ・イシュー』などを見ると、都会ではごく普通の家庭で飢えが始まっているのだと胸が痛くなります。(つづく)