書評)『地中海食と和食の出会い』山口大学の #五島淑子_先生 が書いて下さいました_RT_@tiniasobu
2021/02/06
http://ankei.jp/yuji/?n=2471
で部分的に紹介しましたが、食べ物の本の書評を、食の歴史の研究をしておられる五島淑子(ごとう・よしこ)先生が『食文化研究』No.16(2020)に書いてくださいました。
掲載にあたっては、五島先生と日本家政学会の許可をいただいています。
栄養学と人類学的歴史学の二足のわらじをはいて、防長風土注進案の深掘りを続けてこられましたが、気がついたらもう、この3月に最終講義なんですね。遠隔になってしまうのですが、さっそくに申し込みました。http://www.yamaguchi-u.ac.jp/info/_3116/_9018.html
以下引用です。
安渓遊地監修,溝手朝子編著 『地中海食と和食の出会い バスク人サビエルと大内氏の遺産を生かして』
南方新社 2019年3月28日発行
山口大学教育学部 五島 淑子
近年,全国各地で歴史的背景をもつ食を再現する活動がさかんになり,その活動に調理学や食文化を専門 とする教員がお手伝いさせていただくことも多くなっている。私は,このような「食」を通じた地域貢献活動の中で食文化研究をどのように発展させることが可能か思案していた。そのようなときに出会ったのが本書である。
第31代当主大内義隆が,フランシスコ・サビエルの布教の願いを受入れ,1552年旧暦12月9日(西暦12月24日),山口の地で行われた降誕祭が日本で初めてクリスマスが祝われた日と記録されている。1980年2月には,サビエルの縁で,ナバラ自治州の州都パンプローナ(バスク名イルニャ)と山口市が姉妹都市になり,さらに2003年2月にナバラ自治州と山口県が提携を結んでいる。そして,現在,山口市は毎年12月になると, 「12月,山口市はクリスマス市になる。」のキャッチフ レーズのもと,数多くのイベントが行われている。
本書は2015-2017年山口県立大学研究創作活動助成 金(国際共同研究)の成果として出版された。執筆者は安渓貴子氏(専門:生態学・民族生態学),安渓遊地氏(人と自然の人類学,地域学),大野正博氏(食品科学),溝手朝子氏(微生物学,食品衛生学),ビジャモール・エレロ・エフライン氏(山口市国際交流員)の方々である。
本書『地中海食と和食の出会い バスク人サビエルと 大内氏の遺産を生かして』の目次を以下に示す。
序 本書の目指すもの
はじめに 日本とスペイン,相互の思い込みを越えて
第1部 いくつもの食文化・出会いと葛藤
第2部 美食世界一のバスクで暮らす
第3部 「なつかしい未来」を求めて
第4部 交流から創造へ
おわりに みんなちがってみんな変?? 食文化の共存 への道
この本を読んで,私にとって大きな発見のひとつは,サビエルの出身地,スペインのバスク地方についての記述である。私は山口県に住んでいるので,「聖フランシスコ・サビエル」・「サビエル記念聖堂」と呼び,何の疑いも持っていなかった。ところが,聖フランシスコ・サビエルは,日本では多くは「ザビエル」と表記され,現在のスペイン語ではハビエル、山口では,バスク語の発音に近いサビエルが主に使われているということである。サビエル生誕の地バスク地方は,スペインの地中海側,フランスに接した地域である。
2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたが,同時に地中海食も登録されている。地中海食は,イタリア,モロッコ,スペイン,ポルトガル,ギリ シャ,キプロス,クロアチアの食文化で,オリーブオイルを用い,野菜・魚介類・肉類をバランスよく摂るだけ でなく,供食の習慣,健康的なものとして注目されている。
偶然とはいえ,世界遺産の指定を受けた地中海食と和食を比較できる素晴らしい出会いである。また資料として,イエズス会の食事について,『日葡辞書』,フロイス 『日欧文化比較』,『山口と京都でのサビエル』などが紹介されており,時代背景を理解することができる。
食文化を学ぶためには,その地域の歴史や文化を学ぶ必要があることを改めて認識させられた。一人の力では無理でも,異なる専門の研究者と共同することで,学際的研究の楽しさと研究の発展を感じた。また地域貢献活動は,報告書として作成されることが多いのだが,その場合は,地域を超えて入手することが困難になることが多いので,刊行されることが望ましいと思った。
本書の序には,「地域に根ざした食の研究者・開発者や,異文化交流に興味を持つ人,食と観光によるまちおこしを志す人などに具体的なヒントを与える挑戦的な著作」と述べられている。
本書を読んで,食文化研究の発展のためには,学際的な研究,出版,その地域に広く関心を持ってもらうきっかけを作ることが重要だと感じた。本書の口絵の料理の写真をみているだけで,バスク地方を訪れたくなる。実はそれだけで本書は目的を達しているの かもしれない。
引用終わり
以上、ご紹介は、安渓遊地@山口EU協会会員 でした。