連載)阿東つばめ農園おひさま便り2020年10月_トビイロウンカの被害が出ました 安渓貴子+遊地 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2020/10/10
京都のロシナンテ社の 月刊『むすぶ』597号に掲載される予定です。フライイングですが、阿東つばめ農園のお米を楽しみに待って下さっている方へのお知らせをかねています。
お米の収穫はほぼ昨年の半分でした。品質は一等米で、お味に変化はないのですが、収量の方はかなりの減収になった田があって、この結果となりました。
山口県では多くの地域がトビイロウンカによって稲が枯れて倒れてしまうという被害によって壊滅的な打撃を受け、1ヘクタール(100メートル×100メートルに相当)の田んぼから全部でわずか100キロほどという農家もあります。それが、農薬と化学肥料を使う慣行栽培、無農薬・無化学肥料・無除草剤の栽培をしている農家を問わずあるのですから、阿東つばめ農園で、半分でも収穫できたのは、まだしもありがたいことと思わざるをえません。
年間ご予約の分にも足りないくらいで、年間ご予約のみなさんには、これから個別にご連絡をさしあげます。新規のご購入を検討してくださっていた方には、まことにもうしわけございませんが、他をあたっていただかなければなりません。よろしくお願いを申し上げます。
つばめ農園おひさま便り (10)
安渓貴子・安渓遊地
ウンカの被害が出ました
阿東高原は、気温が二〇℃を切りストーブが欲しい季節です。
ここは、コシヒカリを植えた田んぼが多く、今年は、トビイロウンカに襲われてほとんどの田が実りませんでした。田んぼの黄色い稲穂のなかに丸く坪状に枯れた「坪枯れ」を見ることは、車を走らせていると時々見る場面でした。しかし今年は田んぼが丸ごと枯れた場所が随所に見られ、有線放送でも農協からのお知らせで、ウンカが発生しているから農薬を撒くように、効かなくなっている農薬があるので
相談してほしいと毎晩放送していました。我が家の品種イセヒカリは、茎が太くしっかりしているので、これまでウンカにやられたことはない、とお師匠さんに言われていたのですが、わが家でも坪枯れが始まった田では、たちまちそれがひろがって、数日でみるみる枯れていきました。お師匠さんの田んぼも、ほどんど全滅に近い被害を受けています。山口県内の有機農業仲間の田んぼも多く被害をうけ、農薬を撒いた田んぼも、農薬を使わない田んぼも「今年のウンカは農法を選ばずやってきた」という声も聞きました。
秋ウンカとも呼ばれるトビイロウンカは、ベトナム北部で越冬し春になると中国南部に移動して増え、梅雨時期にジェット気流に乗って一日半くらいかけて九州に到着、さらに増えてそれが西日本に、そして東日本へも風に乗って移動します。日本では越冬できないので毎年この生活の繰り返しなのだそうです。ベトナムや中国でも今日では殺虫剤を使うのでしょう。そして九州でも、
「これまでの農薬が効かない」農薬耐性をもつウンカが選抜されてしまい、それがやってきたというわけです。殺虫剤を撒いてウンカを殺しても卵は死なないので、卵からかえった次の世代は農薬によって天敵のクモやトンボ、カエルがいないなかで、爆発的に増えます。幼虫は稲の汁を吸って枯らしてしまいます。また、ウンカとともに飛来するカメムシの一種カタグロミドリカスミカメがウンカをおさえる抜群の天敵だ(農研機構のサイトで「ウンカ」を検索)という報告があります。
八月半ば、稲が実り始めると未熟な稲穂を吸汁して斑点米のもとになるカメムシを防除するために晴れた日の午後、殺虫剤が散布されます。長いプラスチックの管を田んぼに差し渡して両側を人が持ち、歩きながら真っ白い農薬をナイヤガラの滝のように散布する方法です。撒いている当人にも農薬がかかる辛い防除なのでヘリコプターで撒く方法もありましたが、去年頃からドローンが活躍し始めました。積める量が限られるので、従来より高濃度の農薬を撒くことになります。
農薬を使わないうちの田んぼでも、原因ははっきりしませんが、クモが激減しています。ここで暮らし始めた二〇一二年頃は、朝早く田んぼに行くと、クモの巣に朝露がかかって一面に薄い白布のようにつらなり、お日さまの光でキラキラと光るのが見えました。気がつくと今年などはクモの巣がほとんど見当たりません。田んぼに入るとクモはいるのですが以前のように多くはないのです。
そういえば、家の軒下にはコガネグモやジョロウグモが大きな巣を作り、セミやチョウチョまでかかるのを見ますが、その数も半分以下に減ってきたようです。ミツバチだけでなく、アシナガバチやスズメバチもほとんど見かけなくなっています。
毎年が一年生
ウンカの被害を減らすために現在とられている方法は、長く残留する農薬を箱苗の段階で播いておくことと、いよいよ飛来して増え始めたら、稲の根本にまでかかるように、よく効く新型農薬をしっかり播くことです。グローバル企業と
農協などが協力し、研究者が実験を繰り返して、新しい農薬を開発したというニュースが?朗報?のように伝えられます。ただし、幼虫には効いても、成虫にはあまり効果がなく、卵には効きません。植物自体に染み込んで長く虫を殺し続ける、残留性の強い農薬が求められるようになっているわけです。
一方で、農薬を使わない農法の研究には、大きな予算がつきにくいという現実があります。お金と政治権力による学問の支配という、いま熱い話題については、回を改めたいと思いますが、そもそも、農薬のような化学物質で昆虫に
打ち勝とうという試みに、明るい未来があるとはとうてい考えられません。昆虫は、四億年以上も昔に地上に現れた生物界の大先輩なのですから、さまざまな危機にも人間よりははるかに広い適応性をもっているものもいるにちがいありません。わたしたちはいったいどこへむかっているのだろう、と思います。
つばめ農園では、幸いウンカの被害を免れた田もありましたが、全体としてのお米の収量は昨年の半分以下となりました。今年の事態を踏まえて、来年はどうすればいいのか? 今年の惨状をよい学びのチャンスに変えていきたい。「今日から来年を考えるしかないよね。農家は毎年が一年生」と言い合っています。(つづく)
(あんけいたかこ・
あんけいゆうじ)
y@ankei.jp
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写真説明
ソーラーシェアリングの田での稲刈り。少しの刈り残しももったいないので、大切にコンバインに運びます。