連載)阿東つばめ農園おひさま便り2020年8月_大豆畑の除草+お金に頼らない仕組みづくりへ 安渓貴子+遊地 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2020/10/10
京都のロシナンテ社の 月刊『むすぶ』595号に掲載されました。
つばめ農園おひさま便り (8)
安渓貴子・安渓遊地
大豆畑の除草
八月、梅雨がやっと明け、新型コロナのために休んでいた山口線のSLの運転が再開しました。カメラをもって沿線に詰めかけた方々を尻目に、集落では早朝から総出の水路や道路沿いの草刈りが年中行事です。九時を過ぎれば暑く一〇時には作業を終えます。
このたびの豪雨被害にあわれた方々にお見舞いを申し上げます。阿東つばめ農園でも二〇一三年七月二八日の三二四ミリの雨で裏山からの土石流が発生し、山の土砂に一〇センチほど覆われた被害田の地力はまだ回復できていません。さらに、稲の下一面にひろがって養分をうばう、コナギなどの水田雑草を少しでもおさえるために、奮闘しなければなりません。
長かった梅雨の間、大豆畑はぬかるんで草刈りをすることができず、草も大きく伸びて、大豆が草のなかで花をつけ始めました。農作業を手伝いたいと来てくださった方と早朝から草刈りをしました。土が少しは乾いたので除草機も入ることができて除草機が走れないところは手刈りです。四時間弱の作業で、大豆に風が通り涼しげに見えます。これで遅れていた「土寄せ」ができます。
作業を終えて畔にすわり、冷たくした紫蘇ジュースの香りに夏がやってきた実感が湧いてきます。ムクゲの花が咲いています。ナツズイセンも咲き始めました。棚田の土手にはカワラナデシコやツリガネニンジン、アキノタムラソウが咲き、マルハナバチの羽音が聞こえてきます。早生のコシヒカリにも花が咲き始めました。コサギやアオサギ、最近はチュウサギがいて、あぜ道を歩いていると飛び立ちます。
お金に頼らない仕組みづくりへ
SNSの友人の発信でつばめ農園での草取りが追いついていないことを知った、乗馬が長年の趣味のパワフルな方が手伝いに駆けつけてくださいました。それはたいへんに有り難かったのですが、希望されるアルバイト代をお支払いすることができません。家族農業のつばめ農園では、学生などの実習を受け入れることはあっても、実はまだお金を払ってアルバイトをお願いしたことが一度もなかったのです。助っ人の女性は、町のマンションに暮らしておられるということですので、いま食べきれないほど穫れるキュウリ、トマト、シソの葉などをとりあえずお土産にさしあげて、自動車での往復の燃料費程度だけをお支払いすることにしました。それだけではあんまりなので、燃料費の領収書に「大豆四時間」とメモして、
その控えをお渡ししました。「これはクーポン券です。順調に穫れるか穫れないかはまだ判らないのですけれど、働いていただいた時間に合わせて、穫れた大豆をお渡しするというお約束の印です」と申し上げました。
これは、なるべくお金に頼らないで暮らしを回すという、祝島の人たちに習った知恵を実践できないか、というアイデアなんです。祝島は、中国電力が計画する上関原子力発電所の計画を三〇年以上にわたって阻止し続け、一〇億円以上の漁業補償金を受け取らないという島ですが、そこで二〇一一年五月にうかがったお話を抜粋しておきましょう。
よそから入ってくる人に助言しているんですが、都会の人が「どうやって金を稼ごうか」という発想で来られると、祝島では壁にぶちあたってしまう。祝島のよさって、できるだけお金を動かさないしくみで暮らしてきたっていうところなんですよ。だから、なんでもお金に換算して考える人と対面しちゃうと、祝島の人たちはうまくつきあえなくなっちゃうんです。で、僕が今回定住したいという家族ともお話するんですけれど、無理して金に置き換えようとするな、と。例えば、ビワの収穫を手伝うとか、ヒジキを採るのを手伝ったとしたら、一日働いたから日当何千円というように金に置き換えないで、働いた分を、ヒジキ何キロとか、ビワ何パックとかいうように現物でもらうようにしなさいよ。シーズンを
通して手伝ったら、例えばビワの木を五〇本世話するのを手伝ったら、そのうちの三本か四本分の木は「おまえ収穫していいぞ」というような形でもらいなさい。そうして金にしたいんだったら、もらった現物を自分なりのネットワークを生かしたマーケットで売る努力をして、そこで自分で金にしろというんです……。
このたびつばめ農園で「大豆四時間」というクーポンを出したのは、このような祝島の知恵と、日本でも一時流行った地域通貨を組み合わせたようなアイデアをなんとか形にできないか、という考えもあったのです。子どもが発行する「肩たたき券」のようでもありますが、お金のやりとりでは生まれない人間関係を大切にする、というコンゴ民主共和国での物々交換の市場との出会いの中で、私たちが学んだ知恵の実践にもつなげたいと願っています。(つづく)
参考文献
安渓遊地、一九八四「『原始貨幣』としての魚??中部アフリカソンゴーラ族の物々交換市」『アフリカ文化の研究』アカデミア出版会(京都大学に提出した博士論文の日本語訳です)
(あんけいたかこ・
あんけいゆうじ)
y@ankei.jp
http://ankei.jp
図 コンゴ民主共和国マニエマ州の川のほとりで開催される物々交換市の情景(1980年、安渓貴子描く)