2020年7月号)阿東つばめ農園おひさま便り 安渓貴子+遊地 #ロシナンテ社 #月刊むすぶ RT_@tiniasobu
2020/07/25
つばめ農園おひさま便り(7)
安渓貴子・安渓遊地
種子をとる
山も田畑も緑に染まる七月を迎えました。ツバメの子供が巣から出てひとり立ちする季節です。大豆は無事に芽を出して、除草を兼ねた「土寄せ」が待っています。大豆やイネの種はもちろんですが野菜も、数年前から「自家採種」を少しずつ増やしてきました。こぼれ種が芽生えて毎年いただけるシソやエゴマ。「作らないか」と種をいただいて播いたトウモロコシや落花生を手始めに、おいしかったのでカボチャ、マクワウリ、ソウメンウリなどの種を取って播いてみるとたしかに芽が出ます。トマトやキュウリは種の取り方も教わりました。最近は種の交換会でトマト、ナス、ライ麦、オクラ、大根などをいただいて育てています。そうそう、二〇一八年の環境保全型農業フォーラムでは、広島県農業ジーンバンクを創立以来運営
てこられた船越建明さんにお話をしていただきました。
おいしいから来年も食べたいなと思うトマトやカボチャは、食べるときに捨てる種を洗って取っておけばいいのですから、簡単そうです。でもやってみると……、以下はやるなかで学んだことです。
トマトやキュウリはヌルヌルした皮を被っています。これは取り除いたほうがいいし、水で洗うときに浮く種はしいなのことが多いので、取り除きます。冬保存するときに冷蔵庫に入れたほうが無難なのは、暖房した家の中では種が越冬したことにならず、芽が出ないことがあります。保存中にカビることもあり、春に播いて芽が出るまでドキドキです。なかにはF1といって異なる品種を掛け合わせてできた種で、芽が出なかったり変なものが芽生えたりします。でも多少の変化は「おもしろい」と思うことにしています。
種・農・人をつなげる
さて、国会では種苗法を変える法案が強行採決されるかと心配しておりましたが継続審議となりました。法案提出の理由としては「植物の新品種の育成者権の適切な保護及び活用を図るため」とあります。日本の育種農家が苦労して作った優良品種が海外流出しないようにする法律改正だと聞いて、「それなら賛成」と思った人も多いようです。多湿な日本でもヨーロッパ産なみの味と見かけのブドウをと開発されたシャインマスカットなどの品種が外国で栽培されて、日本の利益を損ねたというような説明を農水省はしています。けれども、実際には国立の農研機構が開発した品種を、海外への輸出を想定せずに外国で品種登録しなかったためでした。
現在の登録品種を買った農家は、特に契約事項がなければ、それを育てて次の苗にしたり種子を取ったりすることが認められているのですが、そのバランスを大きく変えて、知的所有権のひとつとして育成者権を強めて、これからは外国産野菜のF1の種子のように毎年買うのを当たり前にするというところが種苗法改訂案のポイントです。
二〇一七年に施行された「農業競争力強化支援法」という法律があります。目的は、「わが国の農業が将来にわたって持続的に発展していくため」「構造改革」「良質かつ低廉な農業資材の供給」「農業物流などの合理化の実現」などの美しい言葉がならんでいます。そのための方法は、第七条「民間事業者の活力の発揮を促進」することとしています。第八条には、「農薬の登録について国際的な標準との調和を図る」ことが上げられて、日本独自のきびしい基準を撤廃して、米国産などを輸入しやすくする結果になったことは、前回、グリホサート系除草剤の項で申し上げた通りです。さらに、第八条四項は「種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の生産及び供給を促進するとともに、独立
政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」となっています。翌年の主要農産物種子法の突然の廃止も、今回の種苗法も、種子や苗の生産や供給を、公的な支援を減らして、市場原理にゆだねるという一連の流れの中にあります。このように地均しをされた日本で、中小規模の農家や育種家が滅びたあとに、利益を上げるのは、バイエル・コルテバ(旧ダウ+デュポン)・シンジェンタといった巨大なグローバル企業なのです。
こうした動きに不安をもった女性達が中心になって、六月二八日に山口市内で集まりをもちました。子どもたちと一緒に参加されたお母さんたちの、食の安心に向けた強い思いが伝わるすばらしい集いでした。つばめ農園からは全員で参加して、二時間半の意見交換の中で見えてきた目標は、反対運動ではなくて、新しい未来に必要なものを足下から創り育てていくこと。具体的には、種子やそれをはぐくむ土と人が織りなす農ある地域を守るつながりの中で、子ども達に安心して食べさせられる暮らしを求めて、いのち輝く未来をという、願いになりました。種・土・人・農・地域・食・命・未来の八つなので会の名前は、「ヤッタネ!やまぐち」となりました。
まずは、小学校の給食は、オーガニックが当たり前になればいいなという意識を共有しながら、在来種の作物や種苗を家庭菜園の人たちも巻き込んで交換会をしたい、といった動きを始めています。(つづく)
(あんけいたかこ・あんけいゆうじ)
写真 種・土・人・農・地域・食・命・未来を守る「ヤッタネ!やまぐち」の
取り組みはお母さんたちが中心になって進められています。