アフリカから上関へ)北海道新聞のコラム「月曜・考」でとりあげていただきました
2011/02/18
『北海道新聞』の編集委員の佐竹政治さんが、わざわざ山口まで取材に来てくれて、
以下のような記事を書いて下さいました。
事前に内容の確認メールを送ってくださり、版面ができたらファックスでも確認をし
てくださいました。たいへんすばらしいこととおもいます。
「月曜・考」という大型のコラムで、1面にも小さく案内が載るという扱いのもので
す。2011年2月7日掲載。
たんに上関のことだけでなく、なぜそうした取り組みをしているのかも含めて語って
ほしい、というリクエストでしたのでアフリカのことを熱く語りました。それが反映
された記事になっています。
2010年11月に対馬であった国境フォーラムでお会いして、韓国が見える北の端にほど
近い宿にいっしょに泊まって語り合ったのがご縁となりました。
本当に見えるんです・韓国 http://ankei.jp/yuji/?n=1185
以下、記事の内容です。
研究者の立場から上関原発計画の見直しを求める山口県立大教授 安渓遊地(あん
けい・ゆうじ)さん
(本文)
2012年着工を目指す山口県上関町の上関原発について、昨年2月、日本生態学
会、日本ベントス学会、日本鳥学会の各環境保全関係委員会は合同で、建設工事の一
時中断と生物多様性保全のための適正調査を求める異例の要望書を中国電力に出した。
10月には各分野の研究をまとめた「奇跡の海ー瀬戸内海・上関の生物多様性」を刊
行した。安渓さんは日本生態学会の上関原発問題についての責任者としてこうした活
動を進めている。
「(瀬戸内海西端の)周防灘には徳山を除けばすごい自然海岸が残っているんです。
生態学会ではいろいろな立場の先生がいてなかなか通らなかった。しかし『反対では
なく、もっとよく調べましょう』ということで一致できました。最初の要望は200
0年で、こうした問題で学会が発言するのは初めて。知らされてないことがあまりに
多いという思いがありました」
3学会の要望書では「本来の自然環境と豊かな生物相が今なお残っている」として
環境保全に格段の配慮を要望した。原発稼働は、大量の熱を海に捨てる過程で「急激
な水温上昇と付着生物防止剤によって、水中の小さな生物が大量に死滅する」と危惧
している。特に絶滅のおそれがある国の天然記念物カンムリウミスズメは世界で唯一、
雛を育てている家族群が毎年確認されている、として最善の努力を求めた。
「周防灘は、他では滅びてしまった小さな貝や鳥、魚から最後の(ネズミイルカ科
の)スナメリまで豊かな生態系が一セットみんな残っている奇跡の海なんです。原発
が2基できると、7度高い海水が毎秒190㌧出ると予測しています。十勝川よりも
多い水量です。内海へ影響が出ます」
実は専攻は人類学。1978年、アフリカのコンゴ(旧ザイール)の村で、物々交
換と自給で豊かに暮らす人々を調査した。しかし、90年に再訪したところ、村では
殺人事件があり、伝染病で多くの死者が出ていた。腐敗した政府と役人が村民を苦し
めていた。その衝撃が原発見直しを求める行動にもつながる。
「塩さえ買えば375種類の材料で2099種類の料理ができるんです。お金は万
能でなく、自然の豊かさを恵みに変えて暮らす知恵と知識があった。人間は自然環境
を破壊して滅びる種族ではないと気づきました。しかし、この村も例外ではなかった。
その元凶は日本のような暮らし。先進国のぜいたくと環境破壊の悪影響で苦しんでい
たのです。それから8年かけて山口市郊外の川の最上流で無農薬でお米と畑を作り、
地元の木で家を建てました。燃料はまきです。その川の流れ込む瀬戸内海で、自然の
恩恵に感謝し、守っている漁民に出会ったんです」
上関町長島の建設予定地から海上4㌔先に浮かぶ祝島の漁民らは、漁業補償金の受
け取りを拒否し、一貫して反対してきた。中国電力は2009年からは海面埋め立て
工事に取りかかるが、漁船団が集結して抗議を続け、工事は進んでいない。年明けか
らも緊迫した状態が続いている。
「私は自然に生きる人たちに学んで、それを教えるのが専門です。海のことなら漁
民が一番知っています。その漁民が『大量の温排水や塩素の影響で周辺は死の海にな
ります。生まれ育った上関の海を誇りに思っています。上関の海で漁業をして生きて
いく権利があります』と訴えています。こういう人たちが環境の最も信頼できる守り
手です」
大学では、安渓さんらが担当して、文科省大学教育改革プログラム「地域共生演習」
として2007年から学生が各地域に入り、田んぼの学校、森づくり、家造り、祭り
への参加などを精力的に続け、実践学習を通して地域との絆を深めている。
「地域の人たちこそ先生であり、地域が学校なのです。今度、祝島の農業の勉強や
ひじきの刈り取りのお手伝いに学生と共に行ってみようと計画中です」
文・写真 編集委員 佐竹政治