上関)「原発予定地の自然の価値を伝える――市民科学者の出番です」というエッセーを書きました
2010/08/01
今日は、琉球王国歴代の王様が拝んだ久高島にやってきました。
すばらしく晴れて、海面にはラピュタの雲のような積乱雲がもくもくと立っています。
フェリーを待っている間に、東京の『生活者通信』という新聞に頼まれている文章
をかいていみました。
http://ankei.jp/yuji/?n=1091 でご報告したご縁によるものです。
これはまだ下書きですが。
上関の原発予定地の自然の価値を伝える――市民科学者の出番です
安渓 遊地(あんけい・ゆうじ 日本生態学会自然保護専門委員)
自然と共存できる生活者主権の地域作りを目指す着実な活動の蓄積に敬意を表しま
す。
この三月に、私の属する日本生態学会では山口県上関町の瀬戸内海に計画されてい
る、中国電力の上関原子力発電所予定地について次のような総会決議をしました。
「この海域は、瀬戸内海に最後に残された生物多様性のホットスポットであり、し
かも、豊後水道に続いているとはいえ、海水が滞留しやすい内海である。この計画が
もし押し進められてゆくならば、今までかろうじて残されてきた周防灘の生物多様性
と生態系が著しく損なわれることになり、それはまた、瀬戸内海の自然の再生可能性
を失うことにもつながる。」 日本の原子力産業は年間二兆円を超える巨大産業です。
二酸化炭素排出削減のかけ声のもと国策としても推進されています。こういう状況で
は、霞ヶ関の官僚や政治家、地方自治体の議員や職員などのほとんどが推進の立場に
たち、巨大な広告費によってマスコミが沈黙させられる中、現場をよく知る地域住民
と応援団としてのNGOが未来の世代に健全な自然環境を手渡すための最前線に立つ
ことになります。その時、自らの良心の声に耳を傾け、研究者としての発見をゆがめ
ることなく発言できるかどうかが、研究者や学会の社会的責務としてきびしく問われ
ると私は考えています。
日本生態学会は、四千人にのぼる会員の総会で、一九九九年三月に上関原発につい
ての要望書を決議して以来、一〇年余りにわたり強い危惧を表明しつづけてきました。
その取り組みは次第に他の学会にも伝わり、二〇一〇年一月には日本鳥学会・日本ベ
ントス(底生生物)学会の三学会共催で一般市民向けのシンポジウムを広島市で開催
しました。約五〇〇人が参加したこの会を皮切りに、三月東京、五月山口県光市、七
月京都と連続開催することができました。最近では日本魚類学会と日本地理学会の後
援・協力によって、心ある研究者の輪は急速に広がりつつあります。
こうした取り組みを通して、上関予定地の自然の魅力に引きつけられた「長島の自
然を守る会」や、予定地を正面に臨む祝島漁民との交流も育ち、中国電力の担当者と
も率直な意見交換ができる関係を保っています。事業者や官僚・政治家の意向にそっ
た研究発表をする「専門家」たちは、日本の公害経験でも大きな害悪を流したのでし
たが、そういう御用学者たちの化けの皮を剥がすことも私たちの最重要の課題です。
当面はこの一〇月に名古屋市で開催される第一〇回生物多様性条約締約国会議に向
けて、上関周辺海域を含む瀬戸内海の環境保全を国家戦略の中に明確に位置づけ、適
切な総合調査を実施することを私たちは日本国政府に求めています。
高木仁三郎さんが夢みた、生活者の視点に立つ研究者と科学の目をもった市民が創
る「市民科学者の時代」をともに切り開こうでありませんか。