上関)鳥学会で「上関原発とカンムリウミスズメ――幸せな結末を求めて」の報告
2009/11/03
2009年9月21日に函館で開催された鳥学会自由集会
「上関原発とカンムリウミスズメ
~幸せな結末を求めて~」の報告が鳥学通信に掲載されました。
長島の自然を守る会から参加された、副代表で鳥学会会員でもある
山本尚佳さんと高島美登里さんからの報告によりますと、
高島さんの個人的な感想として、
カンムリウミスズメの生態について、
①各地で研究を重ねておられる研究者にもまだまだ未知の部分が多いこと
②殊に瀬戸内海における研究については端緒に付いたばかりであること
③フィールド現地にいる私たちの調査研究が大変重要であること
を再認識した自由集会でした。
こうした段階で埋め立てに着手しても影響がないと断じる中国電力の判断はやはり時
期尚早であると言う感を強くしました。これからも、カンムリウミスズメの生態解明
に少しでも貢献できるよう、調査を重ねてゆきたいと思います。
とのことでした。
詳しくは下記に掲載されていますが、
http://wwwsoc.nii.ac.jp/osj/japanese/katsudo/Letter/no26/OL26.html
いちおうここに貼り付けておきます。(以下引用)
上関原子力発電所建設計画とカンムリウミスズメ -幸せな結末を求めて-
企画:早矢仕 有子 (札幌大)・佐藤重穂 (森林総研四国)・中村 豊 (宮崎大)・
藤田泰宏,福田佳弘 (日本海鳥グループ)・古南幸弘,山本 裕(日本野鳥の会)
文責:早矢仕 有子
瀬戸内海西部の山口県上関町において、中国電力株式会社が進行させている原子力
発電所建設計画に対しては、地元の漁業者および自然保護団体が反対運動を継続して
きた。近年、建設予定地の周辺海域で絶滅危惧Ⅱ類のカンムリウミスズメ(Synthlibo
ramphus wumizusume)の生息が確認されたことから、地元会員の要請を受け、2008 年
度鳥学会大会において「上関原子力発電所建設計画に係わる希少鳥類保護に関する要
望書」が総会で採択された。本集会では、総会決議後 1 年間の知見の蓄積を研究者
および「長島の自然を守る会」が報告するとともに、中国電力が実施した「カンムリ
ウミスズメ追加調査結果」の概要を、調査を指導した専門家が報告し、意見交換を実
施した。
I. 上関原子力発電所建設地にかかる希少鳥類保護要望書をめぐる経緯
佐藤 重穂 (森林総研四国支所)
日本鳥学会は 2008 年 9 月の大会において「上関原子力発電所に係る希少鳥類保
護に関する要望書」を総会決議として採択した。
上関原発をめぐっては、これまで地元の漁協などを中心として反対運動が繰り広
げられてきたが、1999 年に中国電力(株)が環境アセスメントの調書を提出し、2001
年にはこのアセスメントの評価書が確定している。これに対して、日本生態学会は 2
000 年と 2001 年に上関原発建設予定地の自然環境の保全を求める要望書を総会で決
議したのをはじめ、スナメリ、ナメクジウオ、貝類などの希少な海産動物と沿岸生態
系の保護を訴えてきた。
一方、近年になってこの地域でカンムリウミスズメやカラスバトの生息が確認され
るようになったが、これらはアセスメント調書に記載されていなかったことから、中
国電力は追加調査を実施してきた。日本鳥学会の決議はこの調査結果について情報の
公開と適切な影響評価を求めるとともに、山口県にはカンムリウミスズメの保全対策
立案までは公有水面埋め立て許可をしないよう要望するものであった。しかし、2008
年 10 月に山口県は中国電力に対して埋め立て許可を出し、カンムリウミスズメの
追加調査結果が 2009 年 9 月に公表されたことから、現在、着工されようとしてい
る。
(注) 2009 年 10 月 7 日、中国電力は海面埋立工事に着手した。
II. 宮崎県枇榔島周辺のカンムリウミスズメについて
中村 豊(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター生物資源分野)
現在、カンムリウミスズメは宮崎県、東京都伊豆諸島、三重県、高知県、福岡県、
鹿児島県などの限られた島嶼及び韓国の一部の島嶼に記録がある。また近年 6 ~ 8
月に瀬戸内海で数十羽の越夏群が確認された(飯田 2007)。日本での推定生息数は 60
00 ~ 10000 羽である(環境省 2004)。
門川沖枇榔島周辺では主に 1 月頃から 5 月まで観察され、繁殖は 3 ~ 5 月に行
い、巣は岩の割れ目や草の根元の穴などにつくり、巣材はほとんど使用せずそのまま
土や石の上に 2 個産卵し、雌雄交代で 約 30 日間の抱卵を経てヒナが孵化する。離
巣は孵化後 1 〜; 2 日目の夜、親鳥の鳴き声に誘導され行われる。ヒナは数m
から十数mの絶壁を転げるように飛び降り、親鳥の鳴き声に誘導され海上で合流し(
中村 1997)、そのまま 6 ~ 7 時間かけて枇榔島から約 15 km 離れた位置まで移動
する。その後は黒潮の縁を親子で北上すると思われる。ヒナへの給餌は、巣内では行
わず孵化後 2 ~ 3 日目の夜明けに海上で行う。また、生後 2 年で枇榔島に上陸し
ている例があることから、自然界での生存年数は 15 年以上であることが示唆されて
いる。
III.中国電力による調査の経緯と結果 ー何がわかったのか、何がわかっていな
いのかー
藤田 泰宏(日本海鳥グループ)
中国電力(株)は、上関原子力発電所計画地点におけるカンムリウミスズメ追加調査結果に関する報告書を作成し(中国電力本社及び上関原子力発電所準備事務所にて閲覧可能)、その概要について記者発表を実施した(2009 年 9 月 3 日 http://www.energia.co.jp/atom/press09/p090903-2.pdf)。
この追加調査に関しては、(1)法的拘束力を持つアセスメントではないこと、お
よび、(2)対象種の生態に未解明な点が多い、など課題も残されている。
・報告書に記された結果と評価
(1) 原子力発電所建設による改変地と発電所からの温排水による海水温上昇域海岸
部での営巣は確認できなかった。周辺島嶼と比べ、営巣適地と考えにくく、営巣への
直接的影響は小さいと考えられる。
(2) 埋立区域洋上での生息確認はなかったが、海水温上昇域を含む周辺海域には出
現した。
(3) 周辺島嶼での営巣は確認できなかったが、営巣の可否の判断には至らない。
(3) 秋期以外に出現が確認された周辺海域は、重要な採餌圏である。
・不明な点
(1) 移動の大局的な経路
(2) 洋上の分布と利用の詳細
(3) 周辺島嶼での営巣の有無
(4) 個体群の内訳、など
・補足
陸上からの調査の可能性について質問を受けたが、時間内に回答できなかった。そ
のため、後日、陸上から見下ろす角度でのウミスズメ類の確認は非常に難しい旨を伝
えた。
IV. 日本鳥学会 2008 年度大会総会決議後の「長島の自然を守る会」の活動とカ
ンムリウミスズメ生息調査結果のまとめから
山本尚佳(長島の自然を守る会 副代表)
・総会決議後の活動
2008 年 10 月 16 日 山口県に、中国電力による公有水面埋立免許申請を許可し
ないように求める署名(50,155 名)を提出
2008 年 10 月 22 日 山口県知事が埋立免許申請許可。
2008 年 12 月 2 日 「上関自然の権利訴訟」提訴。
2009 年 2 月 19 日 山口県に「ウミスズメおよびカンムリウミスズメの追加確
認に伴い公有水面埋立許可を取り消すよう求める」申し入れ。
2009 年 3 月 11 日 中国電力へ「公有水面埋立および上関原発計画中止を求める」
申し入れ。
2009 年 8 月 20 日 上関自然の権利訴訟(第一回公判 山口地裁)
2009 年 9 月 8 日 中国電力へ「埋立工事の中止と継続調査を求める」申し入
れ。
「長島の自然を守る会」として行ったカンムリウミスズメの生息調査(2008.4 ~ 2
009.9)と事業者を含む複数の調査結果から同種が原発予定地周辺に繁殖期、非繁殖期
を通じてほぼ通年生息しており、周辺海域での繁殖の可能性が否定できないこと、同
海域に換羽期に生息することから予定地周辺海域がカンムリウミスズメにとって重要
な場所であることが明らかになってきた。そうしたことからも1シーズンの繁殖調査
で終わらせることなく調査を継続すべきこと、埋立工事や原子力発電所の運転に伴う
「温排水」が餌資源をはじめとした海洋生態系に及ぼす影響を環境アセスメントの水
準で評価し直す必要があり、近隣島嶼部で新たにオオミズナギドリの繁殖が確認され
ことからも拙速な環境改変は行うべきではないと事業者の中国電力や山口県および国
に対して強く要請していくとともに、原発問題は「国策」との戦いなので、多面的か
つ重層的に活動を進め、市民科学の確立をめざし自分たちの持ち場で裁判も含め原発
建設計画の中止まで頑張りたい。
上関原発予定地周辺島嶼部の貴重な動植物.
V. 上関原発計画予定地の海洋生態系の特徴~奇跡的に残された生態系と貴重な動
植物の宝庫~
高島美登里(長島の自然を守る会 代表)
上関原発予定地である長島周辺海域は、奇跡的とも言える貴重な生態系を有する場
所である。その要因として(1) 1970 年代から始まった埋め立てや護岸工事・海砂採
取などの開発を免れ、瀬戸内の原風景を残す場所であること。(2) 地理的に、豊後水
道から流入する黒潮がぶつかる室津半島の先端に位置し、瀬戸内海では海水交換度の
高い海域であること。(3) とりわけ原子炉が設置される埋め立て予定地の田ノ浦湾は、
広葉樹林から供給された地下水と海底伏流水が 1 日最大 700 mm.も湧き出る瀬戸内
海で数箇所しかない水循環のよい場所であることなどが考えられる。田ノ浦湾は世界
で 4 例しか確認されていないヤシマイシン近似種や水産庁危急種であるナメクジウ
オの繁殖地であり、日本海特産種の海藻であるスギモクが飛び地的に生育する瀬戸内
海最大の群落地である。また周辺海域はイカナゴなど低温性の低質生物が豊富で、天
然記念回遊水面指定海域でも絶滅に瀕しているスナメリの繁殖場所でもある。田ノ浦
湾は豊富な海藻群落と多種類の稚魚の生息地としても知られており、田ノ浦湾を中心
とした海洋生態系の豊かさがカンムリウミスズメの生息やオオミズナギドリの繁殖な
どを支えているのではないかとの指摘が、日本生態学会や日本ベントス学会の研究者
から挙げられている。中国電力による上関原発建設計画や埋め立て工事が絶妙なバラ
ンスを有する生態系にダメージを与え、カンムリウミスズメやオオミズナギドリなど
希少な海鳥の生息や繁殖に悪影響を及ぼすのではないかと憂慮している。
VI. 山口県上関町海域でのヒナを含むカンムリウミスズメの確認
武石全慈(北九州市立自然史・歴史博物館)
瀬戸内海での本種の生息状況は、例えば「レッドデータブックやまぐち」(山口県
2002)に「瀬戸内側東和町、沖家室島沖合いでも確認されている」と記される程度で
あった。しかし 2007 年以降の飯田知彦氏、長島の自然を守る会、中国電力、橋口大
介氏ら、藤井格氏らの報告等により、瀬戸内海西部での存在は偶発的でないと考えら
れ繁殖可能性にも関心が持たれた。そこで私は山口県上関町海域で 2009 年 4 月 6
日~ 5 月 30 日に 11 回センサスを行なった。その結果、4 月上旬から 5 月中旬ま
でに 5 回 19 地点で 34 羽の本種を確認した。特に、4 月 13 日には 11 地点で成
鳥 20 羽を確認し、5 月 18 日には上関町八島沖(北緯 132 度 05 分 54 秒、東経
33 度 42 分 48 秒)で成鳥 2 羽とヒナ 2 羽を確認した。今後、繁殖該当時期の詳
細な調査が求められる。また 2009 年には上関町宇和島でオオミズナギドリのコロニー
も確認され(音声、成鳥、ヒナが中国電力、武石、飯田氏らにより順次確認)、同海域
が複数種の外洋性海鳥の生息・繁殖の場であることが興味深く思われた。
参加者からは中国電力調査報告に関し、調査方法の詳細を問う質問や、第三者の評
価を得る機会の乏しさへの疑問の声などが寄せられた。さらに、日本野鳥の会自然保
護室長 葉山政治氏より、カンムリウミスズメにとっての建設予定地の位置づけと、
稼働後の影響も含めた評価の必要性が指摘された。
総合討論の時間が確保できなかったことが悔やまれたが、異なった立場からの各話
題提供者の報告はきわめて充実しており、知見を集積し意見交換を継続することで、
「幸せな結末」へ少しは近づけると信じたくなった。
受付日2009.10.21
(引用終わり)
なお日本鳥学会では、8月7日に、中国電力に対して
上関原子力発電所計画地点における鳥類生息状況調査結果開示の要請
を行っています。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/osj/japanese/NotificationMain.html#Chuden_2009Aug