講義録)がんばるという重い病気 「生命と生活の質特論」での配付資料です RT_@tiniasobu
2009/06/02
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山口県立大学の大学院の授業 QOL「生命と生活の質特論」2009年5月23日(1回目、2コマ)と30日(2日目)
安渓遊地担当の概要です。当日くばったプリントの再現です。一時間60分以下に縮めて話しています。
5月23日
1時間目 9:00-9:55
A お互いに自己紹介 「我が家の四季」のパワーポイント7分をみながら、「いま私がとても気になること、心配なこと」を無記名で書いてください。15分
B 阿武町あったか村での「地域共生演習」の様子を見ます。20分以内
C あなたの気になること・心配にお答えします 20分
2時間目 10:05-11:00 アフリカの森の村から。
人間は環境を破壊して生きるしかないというのは大変な思いこみだった
アフリカで教えられたこと (スワヒリ語のことわざなど)
Haraka haraka haina baraka. (急げ急げで運を逃す)----タイムマネジメントの方法
Kila mtu nama yake. (人さまざま)----「肩こり」も特技
Milima haikutani, lakini binadamu hukutana. (山は出会わないが、人はいつもであう)-
----コンゴ人と旅したケニア
3時間目 11:10-12:10:
南の島々で教えられたこと
万物にカミがやどる----屋久島で学ぶ人間らしさ
「十五夜のお月様、ありがとうございます。欲ではありますが、来年も拝ませてください」
----万物に神がやどるという、アニミズムの力で人間中心思想を越える。
来週は、スペイン・ナバラ州の旅
済州島から与那国島へチョン・ギョンス先生との旅
出すぎる杭となる
と続きます。
参考文献
安渓遊地・安渓貴子、2000『島からのことづて----聞き書き・琉球弧の旅』葦書房
安渓遊地・安渓貴子、2009『出すぎる杭は打たれない----痛快地球人録』みずのわ出版
安渓遊地・安渓貴子、2009『大学生をムラに呼ぼう----地域づくり実践事例集』みずのわ出版
宮本常一・安渓遊地、2008『調査されるという迷惑----フィールドに出かける前に読んでおく本』みずのわ出版
◎前回のQOL授業の「私が気にかかること」へのお答えの改訂版
安渓遊地
Q 嫁さんのガス抜き方法授業も夜遅くまであり、子育て中の嫁さんはイライラしている。
A 先週は、しゅうとめさんの発言と思ってお答えしましたが、そうであれば「お嫁さん」と書いてあったはずだと思い当たりました。家族を離れて大学院で学ぶ夫につけるお薬を考えましょう。例えば、奥様を現場にお招きになればいいのでは?妻が自分一人で赤ん坊のおしめを替えているときに、夫が「学校ごっこ」で楽しそうにしているかなあ、と想像するから腹がたつので、実際に、小難しい話をきいたり、書いたレポートをくそみそに言われたりしてとても苦労している現状をみてもらうと、反応は、たぶん二つにわかれると思います。
1.まあ、あんな苦しいことしていたの? 許してあげるわ。
2.まあ、実はあんな楽しいことしていたの? 私も来たいわ。
二番目の場合は、私のゼミおよび講義でしたら、見学ひやかしすべてご自由です。子連れでもかまいません。(ただし、環境問題とQOLは1回500円いただくようになっています。)その中で、妻が大学院へ、ということになれば、ともに学ぶ道を探しましょう。子育て中でもできるように大学院も変身するかもしれない。経済的にそれが難しければ、妻を学界にデビューさせて、自分は「髪結いの亭主」(=外では働かずに妻に食べさせてもらう夫)をめざす、など。輝かしい未来があるのではないか、とおもいます。
と、ここまで書いたら、やっぱり「嫁さんのガス抜き」で苦労しているという同僚(匿名希望)が、以下のような反応もあるのでは、というかなり説得力ある意見をかいてくださいました。(引用始め)
3.あんなにつらいことをしていても、自分が好きでしてるんだから、それ(大学での研究)はそれ、これ(家のこと)はこれよ。ちゃんと分担してもらいますからねー。家事を「手伝う」のではなく、半分やってあたり前なのよね。まして、結婚するとき、箸より重たいものは持たせないってカッコつけたでしょ!(引用おわり)
ふたたび、安渓遊地です。
き、きびしいですね。男の自立は買い物・料理と食事の後片付けからよねー。僕(あんけい)は、母親が定期的に1ヶ月ぐらい家を留守にしたので、12歳から主夫業をはじめましたけれど。いまでは、なかなかシャモジ(=台所での主導権)を渡していただけません。
◎前回の終わりの感想と質問へのお答え
Q 安渓先生は、生まれ変わるとしたら何になりたいですか?
A きれいなお花に、というのはぜいたくな願いですが、とりあえず植物なんかはどうでしょうね。コケとか。
父が数年前のお正月の5日にぽっくり死んだとき、玄関に残されていた色紙を紹介しておきます。かっこの中は、私の解説です。
「死ぬるぞよ、合点か ( おまえは早晩死ぬ運命だぞ、納得しているのか?)
合点も承知もせねど (自分が死ぬことに納得も承知もしていないけれど)
そのまんま救うとあれば ( 「いまのままで救う」とあみだ様が言うて下さるのだから)
気楽なものよ」 (死後のことを心配せずに気楽に死んでいけるよ)
Q あがらずに人に伝えやすく話をするコツはありますか?
A あがるのも実力のうち。あがりながらそれでも話す練習を何度も積むのでしょうね。うまくやろう、と思いすぎないことでしょうか。
Q 人と接するのが得意ではないので、ものすごくがんばって、知らない世界に足を踏み入れたり、人と関わっている気がします。かかわってみると得ることも多く、やってよかった! と思いますが、次の機会にはやはりものすごく”がんばらなくてはならないこと”になってしまいます。どうやったら、入口が軽くなると思われますか?
A 話を聞くプロと思われるフィールドワーカーでもそうで、あの宮本常一先生でも、話を聞き始めるまでの敷居が高いとおっしゃっていました。入口の氷を割るために安渓が使っている道具がオカリナです。
Q 授業の開始のオカリナの意図は? 始まりのチャイム的役割の他に何があるのでしょうか?
A「始めますよ!静かにしなさい!」といわなくても、ひとりでに授業に集中していけるという魔法です。それと、電気がなくても人はけっこう幸せにくらせるかもしれない、というマインドコントロールでもあります。
Q フランス人は幸せでしたか? 現代医療と自然療法ではどちらを利用する人が多いのでしょうか?
A いちがいにいえませんね。例えば「日本人は幸せですか?」と聞かれたらどうこたえますか。ただし、スペインの田舎町に5ヶ月暮らして、人々が、お金をかけずにご近所の人間関係を楽しみつつバル(酒場)につどっている姿には、強い印象をもちました。
2番目の答え、街では現代医療がほとんどでしたよ。
Q 今、一番対策や改善が急がれる環境問題は何だと思いますか?
A 私にとっては、上関原発の問題です。理由は次に述べます。
Q 安渓先生は、現代の細々とした問題、人間の欲がひきおこす(?)問題など、どういう内容に興味・関心をもっておられますか?
A とりかえしがつくことならまだしも、何万年、何百万年先の、「地球のいのちの大家族」の運命を左右する「二つの核(原子核・細胞核)」に手を付ける愚はおやめなさい、ということです。
Q 文化人類学研究者の方々はどこの地を訪ねられても、そこの宗教(ならわし)を受け入れられるのでしょうか。
教科書的には、できるだけそうするようには努めるものですが、ただしイスラム教徒である文化人類学者が豚を食べなかったり、ヒンズー教徒である文化人類学者が牛を殺す場面は避けたり、したとしても、それは許されるとおもいます。
Q 「腕時計は手錠」のような解放されるような格言があれば教えてください。
”An eye for an eye” will make the whole world blind.
「目には目を」続ければ世界中が盲目になってしまう(ガーンディ)。
やまない雨はない
この苦しみもいつか終わる......
そして晴れた日には
傘の準備をしておこう
(大学の近くの宮野のお寺 法明院のことば)
「がんばる」というのは
重い病気だ
受講者のご感想
今までの自分のもののとらえ方、考え方がとても視野の狭いものだったと、心が洗われるような気持ちがしました。普段、時間に追われて仕事に追われて、大切なものを置いたままにしていたのだなと感じ、もっと自分を大切にして、回りの人や自然に対する思いやりを持って生活していきたいと思えるようになったと思います。ありがとうございました。
大石さんの言葉に納得する。命について、命の歴史の中で今の私があると考えると、人に対してやさしくなれる。
今まであまり聞いたことのない、そして自分でもあまり考えたことのないような授業でした。面白かったです。自分もまわりのいのちに感謝しながら生きようと思います。忘れがちなことだけれど......。
今日の講義を通して「いのちの大切さ」「いのちの重み」を感じました。今、””気になること”は、万物のありがたさから考えると、そう大したことではないのかも......?とおもうようになりました。今の”自分”を支えているすべての人達、物ごとに感謝しつつ、今ある課題をゆっくり、じっくりこなしていこうと思います。
生きるということは単に生物学的に存在するだけでは自分の価値を感じることができない。今日の講義全体の底流にあるQOL(生命の質)の大切さをまた改めてあらあえて知りました。一生懸命考えます。(以下、メールで追加)心の居住まいを清められるようなオカリナの音色をありがとうございます。今日の講義を振り返って思うことを一言で言えば、人間に関わって存在するすべてのものに敬虔の念を持って遇する必要があるな、ということです。アニミズムという言葉に通底する想いといっていいのでしょうか。
現代日本のせわしなさ、貧しさから本来の人間らしい行き方を取り戻すためには、アフリカや南の島々の生活といった第三者的な視点をもつことが必要となっている現状も問題なのかもしれないとおもった。
1時間目 9:00-9:55
スペイン・ナバラ州の旅
2時間目 10:05-11:00
済州島から与那国島へ----チョン・ギョンス先生との旅
3時間目 11:10-12:10:
討論----「出すぎる杭」になろう
結局、討論の部分は時間切れになりました。
最後の時間でワークショップがありますから、そこで、
「出すぎる杭になって、自分と地域のQOLを高めましょう」というテーマではなしあってみましょうね。