上関)2008年4月14日の共有地訴訟をめぐる最高裁判決の本文
2009/03/15
2009年3月15日改訂
判決が遅れにおくれたものでした。裁判長をふくむ2人はが反対し、のこる3人の
多数意見によってこの判決になったものです。少数意見を読むと、原告側の主張に非
常に近いものであったことがわかる、と島根大の野村先生が話しておられます。
以下のサイトに本文が載っています。最近あった入会権をめぐる最高裁判決3つの
うちの一つです(これまで、入会権をもつものが全員で訴え出なければ門前払いとさ
れてきたものを、意見をことにするメンバーを被告とすることで全員が関与している
とみとめる画期的判例は、平成20年7月17日にでていますが、それはさておき)。
文中Aは、上関、G区などとなっているのは、四代(しだい)区などと読んだください
ませ。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080414154738.pdf
事件番号 平成18(受)336
事件名 所有権移転登記抹消登記手続等,入会権確認請求事件
裁判年月日 平成20年04月14日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第62巻5号909頁
原審裁判所名 広島高等裁判所
原審事件番号 平成15(ネ)195
原審裁判年月日 平成17年10月20日
判示事項 共有の性質を有する入会権の処分につき入会集団の構成員全員の同意を要
件としない慣習の効力
裁判要旨 共有の性質を有する入会権に関する各地方の慣習の効力は,入会権の処分
についても及び,入会集団の構成員全員の同意を要件としないで同処分を認める慣習
であっても,公序良俗に反するなどその効力を否定すべき特段の事情が認められない
限り,有効である。
参照法条 民法92条,民法251条,民法263条
少数意見についても、添付のpdfの末尾に載っていましたのでその部分を引用し
ておきます。
5 以上によれば,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は,
結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見
で,主文のとおり判決する。
裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見は,次のとおりである。
私たちは,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由
は,次のとおりである。
1 多数意見は,〔1〕G部落の世帯主は,入会集団を構成し,本件交換契約の締結
当時,共有の性質を有する入会権の入会地として本件各土地を総有していた,
〔2〕明治24年10月にG部落の世帯主を構成員とする権利能力なき社団「G区」
が成立した,〔3〕G部落においては,本件交換契約の締結当時,本件各土地の処分,
すなわち本件入会権の処分については,G区の役員会の全員一致の決議にゆだねる旨
の本件慣習が成立していた,〔4〕本件交換契約は,本件慣習に基づき,G区の役員
会の全員一致の決議により締結されたものであるから,有効である,と判断している。
G部落において本件慣習が成立していたとの上記多数意見の判断は,「G区所有の
財産を処分するには役員会の決議によることが慣行であったと認められる」との原判
決の認定に依拠するものである。原判決が「G区所有の財産」というのは,G部落の
世帯主全員の総有に属する土地等の財産を意味しており,原判決は,結局,「G部落
においては,世帯主全員の総有に属する土地等の処分について,権利能力なき社団で
あるG区の役員会の全員一致の決議にゆだねる旨の慣行があった」と認定しているも
のである。
2 しかしながら,前記慣行の存在に関する原判決の認定は,経験則に違反すると考
える。
(1)まず,原判決は,「A村の村会は,明治24年10月に区会条例を議決し,財
産区とすることを企図してG区を設けたが,同条例についての内務大臣の許可が得ら
れなかったため,G区は,財産区とはならなかったものの,G部落の住民団体である
権利能力なき社団として成立した」と認定している。しかし,明治24年10月にG
区が権利能力なき社団として成立したという事実は,当事者も主張していない事実で
ある。また,G部落の世帯主が決議をしたというのであればともかく,村会が区会条
例を議決したことからG区が権利能力なき社団として成立したと認定するのは,著し
く合理性に欠ける。さらに,原判決は,「A村では,明治22年5月の村会で,事務
の促進を図り行政の円満な運営のため各地区に区長が置かれることになり,G部落に
も区長が置かれた」と認定しながら,このG区長と明治24年に成立したという権利
能力なき社団のG区との関係を明らかにしておらず,G組が明治22年ころからG区
と称されるようになったにすぎないのではないかとの疑いも存する。以上のように,
G区が明治24年10月に権利能力なき社団として成立したとする認定は不合理であ
り,G区が権利能力なき社団として成立したのか否か,いついかなる経緯で成立した
のか,不明であるといわざるを得ない。
(2)原判決は,「昭和44年にG組名義の土地が山口県に売却されているが,その
際に部落の全住民の同意を経た形跡がうかがえない」旨を認定している。しかし,原
判決は,山口県への売却について,役員会の全員一致の決議によって行われたことや,
G部落の世帯主の総会に諮ることなく行われたことを積極的に認定するものではない
から,原判決の上記認定事実を,前記慣行の存在を証明する間接事実として重要視す
ることはできない。
(3)原判決は,「平成8年2月にG組名義の土地が道路用地としてA町に売却され
ているが,この売却は役員会の決議に基づいて実行されたものであり,部落の全住民
の同意を経た形跡がうかがえない」旨を認定している。しかし,原判決は,A町への
売却について,G部落の世帯主の中に反対者がいたにもかかわらず,役員会の決議の
みで行われたことを積極的に認定するものではない。そして,道路用地としての売却
であるから,G部落の世帯主の全員が明示的又は黙示的に同意していた可能性を否定
しきれない。原判決の上記認定事実も,前記慣行の存在を証明する間接事実としてそ
れほど重要視できるものではない。
(4)原判決が引用する乙第24号証の平成10年11月30日付け「G区規約」に
は,末尾に「以上の慣行規約によりG区の自治会組織を運営していることに相違あり
ません。」との記載がある。このG区規約について,原判決は,「被上告人Y2は,
本件各土地を被上告人Y1へ譲渡することへの理解を得るため,平成10年12月1
2日にG区の臨時総会を開催する旨の通知を発したが,A原子力発電所建設に反対す
る勢力の反発が強く予想されたため,臨時総会の開催を断念した」及び「被上告人Y
2は,司法書士の指導の下,それまでには存在しなかったG区規約を作成し,被上告
人Y1に対する本件各土地の所有権移転登記手続を実行した」旨を認定している。す
なわち,G区規約は,G部落の世帯主全員の決議や確認の下に作成されたものではな
く,臨時総会の開催を断念した被上告人Y2が,上記登記のため司法書士の指導の下
に急きょ作成したものにすぎないのであって,G区規約の上記記載から,G区の財産
の処分についてはG区の役員会の全員一致の決議による旨の慣行があると認定するの
は相当でない。
(5)一方,原判決は,「昭和30年代に,G区有のHの入会地に開発計画が持ち上
がった際に,G区の常会が開かれて,その計画に反対する者が出て計画が頓挫したこ
とがあった」と認定し,また,前記のとおり,被上告人Y2が,本件各土地を被上告
人Y1へ譲渡するに当たり,G区の臨時総会を開催しようとしたことを認定している。
この認定事実は,G部落の最高意思決定機関は常会(総会)ではないかとの疑いを抱
かせるものである。
(6)総有に属する土地について,構成員の総有権そのものを失わせてしまうような
処分行為は,本来,構成員全員の特別な合意がなければならないものであり(最高裁
昭和50年(オ)第702号同55年2月8日第二小法廷判決・裁判集民事129号
173頁参照),同処分行為を役員会の決議にゆだねるというのは例外的事柄に属す
るから,その旨の慣行が存在するというためには,これを相当として首肯するに足り
る合理的根拠を必要とする。
(7)以上に述べたことを総合して考慮すると,原判決がその挙示する事実から前記
慣行が存在するとした認定は,経験則に違反する不合理なものといわざるを得ない。
したがって,G部落において,本件慣習が成立していたとすることはできないのであ
る。
3 私たちは,G部落の世帯主は,入会集団を構成し,本件交換契約の締結当時,共
有の性質を有する入会権の入会地として本件各土地を総有していたとする点について
は,多数意見に同調するものであるが,本件交換契約が本件慣習に基づくものとして
有効であるということはできないから,原判決を破棄すべきものと考える。そして,
被上告人らの主張に基づき,本件各土地に対する入会権が解体消滅したか否か,上告
人らが上記入会集団から離脱したか否か,上告人らの入会権の主張が権利の濫用に当
たるか否か等について更に審理する必要があるため,本件を原審に差し戻すのが相当
であると考える。
(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 才口千
晴 裁判官 涌井紀夫)
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