上関)中国電力「上関原子力発電所建設に伴う詳細調査の環境保全について」に関する日本生態学会の見解
2005/03/17
日本生態学会の上関原子力発電所関連要望書アフターケア委員会として
以下の見解を山口県庁(午前中)および広島市の中国電力(株)に(午後)提出しました。
2005年2月3日
中国電力(株)が2005年1月14日に山口県庁に提出した「上関原子力発電所(1,2号機)建設に伴う詳細調査の環境保全について」に関する見解
日本生態学会・上関原子力発電所要望書アフターケア委員会
中国電力株式会社が2005年1月14日に山口県庁に提出した「上関原子力発電所(1,2号機)建設に伴う詳細調査の環境保全について」(以下「詳細調査の環境保全」と略記)に関する、日本生態学会自然保護専門委員会内に設置された上関原子力発電所要望書アフターケア委員会の見解を述べる。
まず、予定している詳細調査の「内容は他地点での調査をはじめ一般の事業において広く実施されているもの」であるから、問題はない、との前提が示されているが、これは上関原子力発電所予定地の自然の特異な価値を認識していない前提であり、とうてい受け入れることができない。
ついで、「詳細調査と同様の調査は、既に平成6年から8年にかけて上関地点立地環境調査として実施しており、適切な環境保全措置のもと周辺環境は良好に維持されている」としているが、今回の詳細調査と立地環境調査の規模や具体的実施場所の違いを示すことなくそのように結論することは、何ら科学的説得力をもつものではない。
続いて、陸域におけるボーリング調査、地震観測、試掘穴調査、弾性波探査、地表地質調査、海域におけるボーリング調査、弾性波探査、音波探査の合計8種類の調査を約2年間かけて実施するとして、それぞれの概要を示し、調査によって想定される環境影響を記すとともに、水質と動植物に対する「環境保全措置」を付け加えている。
その「環境保全措置」は、いずれの調査についてもほとんど同じであり、まったく具体性を欠いた形式的な物である。例えば、「土地の形状変更および樹木の伐採範囲を必要最小限にとどめ」「作業者には、計画地点で確認された貴重な動植物などの概要と注意事項を記載した『ハンドブック』を携帯させ、調査工事中に貴重な動植物が発見された場合には適切な措置を講じるよう指導する」としている。しかし、『ハンドブック』なるものの内容が不明であり、生物調査の専門家でもない作業者が動植物を適切に同定できるとはとうてい考えられず、また、「適切な措置」の内容も明らかにされていない。
また、「作業区域内において貴重な昆虫類を確認した場合は、昆虫類を作業区域外に移動する」「土地の形状変更を行う場所において貴重な植物を確認した場合は、適切な場所に移植する」など、多くの昆虫が食草や訪花などを通して、特定の植物種と深く結びついて分布すること、植物が特定の環境条件のところにしか分布しないこと、ほとんどの季節に地下部だけで存在しているレッドデータ種があることなど科学的観点を無視した「保全対策」が述べられているだけである。
海域においては、「スナメリ」と「カクメイ科貝類」のみが注目すべきものとしていることが問題である。スナメリの場合は、「作業区域外に出るまで注視を続け」「既にカクメイ科の貝類が確認されたタイドプールでは調査を実施しない」としている。これは、ボーリング等の予定地の詳細が明らかにされなければ、スナメリに及ぼす影響が不明であることと、カクメイ科の貝類が台風などによる生育環境の変化にともなって生活の場を移動しているという事実を無視した「保全対策」である。
このように、「上記のとおり個々の調査に応じた環境保全措置を講じることにより、周辺環境は適切に保全され、詳細調査による環境への影響はほとんどないものと考える」という結論部分は、検証可能な根拠をもつものではない。
結論として、(1)調査の内容が具体的に示されておらず、予測される影響評価も不十分かつ科学性を欠いている。(2)環境保全計画は、現地の希少種およびその生活を支えている生態系そのものの重要性に対する認識が欠落している。(3)不十分で科学的根拠のない環境保全計画に基づき、詳細調査が実施されるならば、現地の希少種を始めとする生態系の被る被害は計り知れない。したがって、詳細調査の実施予定地の詳細を公表するとともに、科学的根拠に基づく計画の全面的な見直しおこなうこと。
以上
参考:上関原子力発電所計画をめぐる日本生態学会の見解と要望
日本生態学会および日本生態学会中国四国地区会は、中国電力(株)が、山口県上関町長島田ノ浦地区に計画している上関原子力発電所(1,2号機)建設計画に関して、これまでに以下の6回の要望を、事業者および関係省庁、地元自治体に対しておこなってきた。
1.「上関原子力発電所(1,2号機)建設予定地の自然の保全に関する要望書」(2000年3月25日、日本生態学会総会決議)。
2.「上関原子力発電所に係る環境影響評価中間報告書に関する見解」(2000年11月16日、日本生態学会中国四国地区会の見解)。
3.「上関原子力発電所(1,2号機)に係る環境影響評価についての要望書」(2001年3月29日、日本生態学会総会決議)。
4.「中国電力(株)上関原子力発電所1,2号機計画の総合資源エネルギー調査会・電源開発分科会への上程について」(2001年5月13日、日本生態学会中国四国地区会総会決議)。
5.「上関原子力発電所(1,2号機)に係る環境影響評価書についての見解」(2001年7月12日、日本生態学会中国四国地区会の見解)
6.「上関原子力発電所(1,2号機)の詳細調査に着手しないことを求める決議」(2003年5月18日、日本生態学会中国四国地区会総会決議)
これらは当該発電所の建設予定地がきわめて生物多様性の高い貴重な場所であることから保全を要望し、環境影響評価書が、法の定める環境影響評価の基本を満たしておらず、それに基づいて開発着手を容認することはとうてい承諾できるものではないことをくりかえし指摘し、アセスメントのやり直しを求めてきたものである。また、環境影響評価が不十分な段階で、詳細調査という次の段階に入ることはとうてい容認できない、という認識を表明したものである。
この見解に対する問い合わせ先は、以下の通り。
日本生態学会自然保護専門委員
日本生態学会上関原子力発電所要望書アフターケア委員長
安渓遊地(あんけい・ゆうじ)教授
〒753-8502 山口市桜畠3-2-1 山口県立大学