エッセー)大規模開発につける薬――鳥と人が守る瀬戸内海
2008/07/22
活憲やまぐち から 「にゅーすれたー」に書いて、とたのまれていました。1200字、あわててかきました。
以下、原稿です。
大規模開発につける薬――鳥と人が守る瀬戸内海
安渓 遊地(あんけい・ゆうじ、大学教員)
大学教員のかたわら、週末農業と原発予定地の自然保護を「趣味」としています。
この7月上旬には、「世界が注目する天然記念物カンムリウミスズメを守れ!」という内容の日本生態学会・自然保護専門委員会が起草した「上関原子力発電所建設計画に係る希少鳥類への影響評価に関する要望書」を山口県庁に持参しました。佐々木あけみ県議が同席してくださいました。希少な鳥がいることで、大規模開発は止まるものでしょうか。復帰直前の沖縄島北部で米軍の実弾射撃演習をとめた次の例が参考になります。
1970年2月国頭村山中でベトナム戦争にむけて実弾砲撃のための海兵隊の訓練場が建設されました。大みそかから砲撃を開始するという米軍からの通告を受けた国頭村の人たちは、雨の中、早朝から着弾予定地に入り、のろしを上げるなどの阻止行動に出ました。午前8時には村長や村議会議員をはじめ、700人もの人たちが山中に集まり、鉄条網を破り全員で発射台に登るという作戦をとります。シャベルや棍棒で殴りかかる海兵隊員に対して「ここは私たちの山だ!」などと叫びつつ泥をつかんで投げつけるといった抵抗をしながら約200人が発射台に登ったところで、米軍は、ヘリコプターで機材の撤収を開始し、演習は中止に追い込まれたのでした。
このあとついに砲弾射撃演習が再開されなかった理由としては、この森にしかいない希少なキツツキのノグチゲラの存在が大きかったといいます。まず日本野鳥の会が立ち上がり、山階鳥類研究所、日本鳥類保護連盟、日本鳥学会、東京動物学会の連名で抗議文を各方面におくり、翌1971年の1月中旬までには、国際鳥類保護会議(ロンドン)、国際自然保護連盟(ジュネーブ)、世界野生生物保護基金、アメリカで300万人の会員を擁するオーデュボン協会をも動かしました。その結果、在沖縄米軍司令官から、国頭村の森林地帯では、今後いかなる射撃演習もおこなわないむねの手紙が、国際自然保護連盟に送られたのでした(比嘉康文、2001『鳥たちが村を救った』同時代社)。
さて、現在にもどってみると瀬戸内海の西では、すでに伊方原発が稼働しています。ここに上関原発が加わり、原子力空母の艦載機が岩国基地に飛来し、原子力空母が接岸可能な基地機能の強化がはかられています。
「大規模開発につける薬」はあるのでしょうか。その効き目のほどはどうでしょうか。日本生態学会の全国大会で、3度にわたってシンポジウムを開き、500人を越える参加者に問いかけました。もし、「薬」がなければ、私たちは、この石油化学文明とともにほろびるのです。2008年2月に柳井で室田武さん(同志社大)とつどった研究会で、参加した若者たちが、「たとえ治療薬はなくても、このような会が私たちへの予防薬になります」と励ましてくれました。
活憲につどうあなたが、自滅への道を突き進む大規模開発や戦争への「薬」や良く効く「予防薬」になるのです。
(著者のホームページ http://ankei.jp)
原稿はこれでおわりですが
原子力が石油の替わりになると考えておられる方は、
室田武、1993 『原発の経済学』 朝日文庫をよみましょう。