カンムリウミスズメ)日本生態学会自然保護専門委員会の要望書を県庁に持参しました(7/3てなおし)
2008/07/02
本日出勤前に山口県庁に以下の文書を持参し、その内容を説明しました。マスコミもテレビ4社、新聞社も各社きてくれました。
同席していただいた 佐々木あけみ 県議に感謝です。
東京の3つの役所へは6月30日づけで郵送。広島の中国電力本社と上関町には、学会の会員が持参することになっています。
以下引用です。
上関原子力発電所建設計画に係る希少鳥類への影響評価に関する要望書
提出先:環境省、経済産業省、文部科学省・文化庁、山口県、上関町、中国電力株式会社
2008年6月30日
日本生態学会自然保護専門委員会・委員長 立川賢一
2000年10月18日、中国電力株式会社は「上関原子力発電所(1,
2号機)に係る環境影響調査中間報告」を通商産業省に提出しました。通商産業省は環境審査顧問会・原子力部会を2000年11月9日に開催し、その内容を了承しました。さらに山口県知事は、2001年1月29日、この中間報告書においては、「1999年11月25日付けの知事意見は、基本的に尊重されている」との見解を経済産業省資源エネルギー庁あて送付しました。
日本生態学会は、2001年3月、この「中間報告書」に認められる5項目の問題点を指摘しました。そして、日本で唯一残されたと言える内海の貴重な生物多様性とその関係の総体としての生態系に対し、不十分な環境影響評価に基づく開発が実施された場合、取り返しのつかない悪い影響が及ぶことが懸念されるとして強い危惧を表明しました。
2001年以降、さらに多くの綿密な調査を行った結果、原子力発電所建設予定地である山口県熊毛郡上関町長島の田ノ浦およびその周辺において、国指定の天然記念物である鳥類のカンムリウミスズメSynthliboramphus
wumizusumeとカラスバトColumba
janthinaの生息が新たに確認されました。これら2種類に関して上記の環境影響調査中間報告ではその存在さえ記述されていません。
カンムリウミスズメは日本特産種で、推定生息個体数が最大でもわずか約10,000羽であるとされており、世界のウミスズメ類の中でも極端に生息個体数が少なく、かつ最も絶滅に瀕している海鳥と言われています。そのため国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、日本で繁殖する海鳥の中でアホウドリPhoebastria
albatrusと同一ランクのVulnerable(危急)種に指定されています。このようにカンムリウミスズメは日本で最も緊急に保護が必要とされている海鳥であり、日本の海鳥の代表として強く保護が叫ばれている国際的な保護鳥です。また、繁殖期以外は常に海上で生活し、岩の隙間などの小空間で営巣するなど、普通に見られる鳥類とは大きく異なる極めて特異な生態を持っています。そのため、生息状況が極めて把握し難い種類でもあります。従って、この海鳥について研究実績のある研究者でなければ十分な調査も正当な評価も不可能であると思われます。
カンムリウミスズメもカラスバトも共に国の天然記念物に種指定された国際的にも極めて貴重で重要な種類であることから、これらの鳥類の生態に精通した専門家により十分な時間をかけた調査が行われる必要があります。その調査結果をもとに原子力発電所建設計画に基づく田ノ浦の埋め立て等による影響評価が行われ、その上で繁殖個体群として存続するに十分な保全措置がとられなければなりません。特に、国・山口県・上関町・中国電力株式会社は、2008年6月6日に施行された「生物多様性基本法」を忠実に履行して、必要な保全策を早急に講じる義務があります。したがって、我々は環境省、経済産業省、文部科学省・文化庁、山口県、上関町、中国電力株式会社に対して、以下に記した対応を要望するものです。
1)カンムリウミスズメが原子力発電所予定地の改変区域内で繁殖している可能性があります。そのため、これまでにカンムリウミスズメの巣や卵等を見て繁殖を確認した実績を持ち、本種の営巣環境と繁殖生態に精通した研究者の参加を得て、さらなる調査を重ね、将来の潜在的な生息可能性をも含めた十分な保全計画をたて、影響評価を実施してくださることを要望します。
2)カラスバトが原子力発電所の予定地周辺で繁殖している可能性があります。そのため、過去にカラスバトの繁殖を確認した実績を持つ研究者の参加により、さらなる調査を重ね、潜在的な可能性も含めて個体群維持に十分な保全計画をたて、影響評価を実施してくださることを要望します。
(以上)
追加的な状況説明として、以下の文章を安渓が作成して、配布し、説明しました。
上関原子力発電所をめぐる日本生態学会のとりくみ
自然保護専門委員 安渓遊地
A 日本生態学会総会および地区会の決議
1.「上関原子力発電所(1,2号機)建設予定地の自然の保全に関する要望書」(2000年3月25日、日本生態学会総会決議)。
2.「上関原子力発電所に係る環境影響評価中間報告書に関する見解」(2000年11月16日、日本生態学会中国四国地区会の見解)。
3.「上関原子力発電所(1,2号機)に係る環境影響評価についての要望書」(2001年3月29日、日本生態学会総会決議)。
4.「中国電力(株)上関原子力発電所1,2号機計画の総合資源エネルギー調査会・電源開発分科会への上程について」(2001年5月13日、日本生態学会中国四国地区会総会決議)。
5.「上関原子力発電所(1,2号機)に係る環境影響評価書についての見解」(2001年7月12日、日本生態学会中国四国地区会の見解)
6.「上関原子力発電所(1,2号機)の詳細調査に着手しないことを求める決議」(2003年5月18日、日本生態学会中国四国地区会総会決議)
これらは当該発電所の建設予定地がきわめて生物多様性の高い貴重な場所であることから保全を要望し、環境影響評価書が、法の定める環境影響評価の基本を満たしておらず、それに基づいて開発着手を容認することはとうてい承諾できるものではないことをくりかえし指摘し、アセスメントのやり直しを求めてきたものである。また、環境影響評価が不十分な段階で、詳細調査という次の段階に入ることはとうてい容認できない、という認識を表明したものである。
B 電力会社および行政の対応
上記の申し入れは、いずれも広島市の中国電力本社および環境省・山口県などへも持参をし、補足的説明を行い、口頭や文書での回答を求めてきた。可能な場合には記者会見もセットして社会的な影響力をもつよう、アフターケア委員会(委員長・安渓遊地)として、息の長い取り組みをしてきている。
しかるに電力会社は、広報担当(現在はCSR担当と称する)が対応するだけで、責任ある回答ができず、また、文書による回答は拒否するという姿勢を崩していない。要するに、監督官庁の指導は受けるが、学会の申し入れには耳をかさないという姿勢である。
一方、山口県環境影響評価技術審査会が、1999年に中国電力のアセスメントのずさんさを指摘し、その結果が知事意見として提出され、それによって中国電力は1年間の追加調査を余儀なくされた。
この過程で、予定地の自然の希少さが明らかとなり、2000年3月の生態学会のとりくみとなり、自然保護団体「長島の自然を守る会」も2000年に結成された。
しかし、知事意見以後は、山口県は、業者にまかせる態度に終始しており、学会としての申し入れは、そのすべてが無視された形となっている。
生態学会の申し入れがこれほど軽視された例もないほどの事例といえる。
参考資料
周防灘の自然と上関原子力発電所建設計画――生態学会の二つの要望書をめぐるアフターケア報告
http://ankei.jp/yuji/?n=48
日本生態学会の上関原子力発電所報告関連要望書アフターケア委員会の見解
http://ankei.jp/yuji/?n=61
日本生態学会・上関原発要望書についてアフターケア委員会報告 2006/05/14
http://ankei.jp/yuji/?n=211
文献(日本生態学会のホームページ→中国四国地区会のサイト にリンクして公開中)
http://www.esj.ne.jp/chugokushikoku/research.html
日本生態学会中国四国地区会,2001『長島の自然――瀬戸内海周防灘東部の生物多様性』地区会報,59:1-64
日本生態学会中国四国地区会,2006『長島の自然(その2)及び細見谷畔林と岡山のアユモドキの保全』地区会報,60:1-73
学会シンポジウム
2007年3月 第54回日本生態学会研究大会(松山)公募シンポ「大規模開発につける薬(3)
生態学は司法・立法に発言できるか」安渓遊地・金井塚務・野間直彦がコーディネーター
2005年3月 第52回日本生態学会研究大会(大阪)公募シンポ「大規模開発につける薬(2)いま生態学者にできること」の中で、上関の状況をめぐる研究発表(野間直彦・安渓貴子)と討論(河野昭一・金井塚務)
企画・司会、安渓遊地 参加者数約250名2004年3月
2004年3月 第51回日本生態学会研究大会(釧路)公募シンポ「大規模開発につける薬――上関・細見谷・西表要望書の効き目を検証する」安渓遊地企画・司会
備考
平成11年7月30日 上関原子力発電所の環境影響評価準備書に対する山口県知事意見
「新たに重要な動植物の生育や生息が確認された場合は、当該種の生態を把握した上で適切な環境保全措置をとること」
平成13年4月23日 山口県知事から経済産業省への回答
「特に、発電所建設計画地周辺の海域は、瀬戸内海国立公園に指定されており、豊かな自然の宝庫としての高い評価もあることから、当該計画地周辺の自然環境の保全及び景観等との調和にも十分配慮するよう指導すること。」
(以上引用をおわります)
追加情報です。
申し入れに立ち会ってくださった県民の方から、以下のようなご感想がとどきました。ひとつの意見としてご参考までにかかげておきます。
さきほどはお邪魔いたしました。
県側の人たちの反応が見学できてよかったです。
カンムリウミスズメ ? えっ どんな鳥なのですか?
そうですか! すごいですね。 そんな場所は絶対守りましょう。
なんて、人間らしい柔らかで豊かな対応はなくて、あの人たちかわいそうでした。
あれ本心なんでしょうかね。かわいそうな人たち。
専門家の個人情報って何でしょう。
どこに住んでいるとか、どんな家に誰と住んでいるとか、何時に起きるとか。
そんなことが知りたいわけではない。
社会的な影響のある行動に対しては、関連ある者たちの「知る権利」に属する情報だと思う。
逃れてはいけない問題だと思う。
最初に出発した時からは変化した情報に対して、ムシする態度でしたね。
絶滅危惧種が新たに見つかった時の対応については、決まりが交わしてあると聞いたことがあります。どうにか、少なくとも、調査ストップができるといいのですが。
県知事は、国のエネルギー基本計画に組み入れられているため原発建設の中止の権限は持ちませんが、「留保の権限を持つ」とみずから、6分野21項目の知事同意に対する付帯条件に付記しています。
どのような時が留保の案件になるのでしょう。
こんな重大事案の時だとおもうのですが。
県の人たちが浮き足だった態度のようで気になりました。
「こんな大事な時に、いらないものが現れた」くらいにしか捉えていないのかも。
業者べったり。
県にとって、財産といってもいい、誇れる状況を喜べないなんて、ヘンです。
今頃県のお役人が、「この計画を白紙にする方法を考えねばなりませんね。」
なんて会議を持ってくれているといいのに。
(以上、すべての引用を終わります。)
7/3 改訂
最後の県民のご意見の中で太字の部分は、ご本人からの申し出により補足として追加されました。
中国四国地区会のリンクを追加