えこチャリの魅力)受講生のレポートから(2008年2月1日改訂)
2008/02/01
自転車再生による地域再生 とうたった「えこチャリ」は、
国際文化学部国際文化学科の2年生向けの基礎演習の授業(安渓担当)でもおこなっ
ていて、中国人留学生の郭さんに指導をお願いしているところです。
リーダーのHさんから力のあるレポートが提出されましたので掲載させていただきま
す。
「やまぐチャリ計画」
私は基礎演習Ⅳ(文化人類学Ⅰ研究室)を受講して、「自転車工房」に関わらせて
頂いた。半年前の私は一般的な女子大生であり、自転車を解体したことなどあるはず
もなかった。この半年間でパンクを治せるようになったし、自転車の仕組みについて
も知ることが出来た。また寒空の下での作業であったが、作業に熱中していると寒さ
も気にならなくなる瞬間があったし、自分が修理した自転車が走れるようになったと
きの喜びの大きさは体験しなければ知り得ないものだと思った。なかなか出来ない貴
重な経験をさせて頂いた。安渓先生は勿論だが、いつも温かいお茶で迎えてくださっ
た安渓貴子先生とさなえさん、偉大な先輩である郭さんや、いつも楽しい基礎演習Ⅳ
の仲間たちにも感謝の気持ちでいっぱいだ。
基礎演習Ⅳを受講するまで、私は特に自転車に興味をもっていなかった。幼稚園の
頃から慣れ親しんだ移動手段ではあるが、年齢があがるにつれ利用頻度は落ちていた。
大学2年生になってからはバイト・サークルの関係で親の軽自動車を借りて、ほぼ私
物化している。1時間に1本しかこないJRや、なかなか時刻表通りに運行されない路線
バスが公共交通機関であり、大型ショッピングセンターを中心に商業施設の郊外進出
が進む山口市(むしろ山口県)では自動車を使うか使わないかによって、生活圏は大
きく変わる。勿論私の生活圏もこの1年で大きく広がった。自転車を使うのは放課後
にバイトがない日の通学だけであった。
半年を終えてみて、私は自転車の利用頻度があがってきているし、自転車について
も興味を持った。自転車は他の移動手段に比べれば非常にエコロジーかつ、再生が容
易である。自転車が今の時代に即した移動手段であることに気づかされた。
環境先進国といわれるヨーロッパ諸国では京都で地球温暖化防止国際会議(1997年)
が開催された頃から各国で自転車を利用した具体的な戦略が打ち出されている。例え
ばイギリスでは「国家自転車戦略」(1996年)が示された。内容は「①1996年と比較
して、2002年までに自転車トリップ数を倍増、2012年までにさらに倍増する、②全交
通事故死者・重傷者の40%削減。1994-1998年平均対10年」というものである。また
ドイツの「国家自転車利用計画2002~2012年」(2002年)においては「ドイツの全交
通における自転車の利用率を17% (1997年)から2012年までにオランダ並みの2
7%程度とする」という目標が掲げられている。
私が特に興味深いと思ったのがオランダの「自転車基本計画」(1990年)である。201
0年までの実施施策には「①クルマから『自転車』への転換、②クルマから『自転車
+公共交通機関』への転換、③道路の安全化、④自転車の盗難防止」の大きく4つが
示されており、それぞれに具体的な施策が挙げられている。(表1 参照)
この計画は地球温暖化がきっかけにはなっているが、環境に配慮しているだけでは
なく、計画の視野には「今後の世代も住みやすい社会」がはいっていると思う。つま
り自転車を中心に「持続可能な社会」を形成しようとしているのだ。駐輪場の改良等
はありきたりなアイディアとも思えるが、それを国レベルでやるというのであるから
大変そうだが、実施されれば効果は計り知れない。そして、1度改良された駐輪場は
多少の維持費はかかるにしろ、使われ続けることになる。
表1 2010年までの実施施策の例(オランダ)
①クルマから『自転車』への転換
* 自転車走行空間の質を高める(近道や専用橋を作り交差点を安全にする)
* 50人以上の企業は車内交通計画(自転車を含む)を作成する
* 建築基準の中に「駐輪場」を盛り込む
* 「自転車利用手当」を増額する
* 駐車場の一部を駐輪場にする
②クルマから『自転車+公共交通機関』への転換
* 駅前などの駐輪場を改良する
* 列車内に自転車を持ち込めるようにする
* 駅などにレンタル自転車を設置して、社用としても契約できるようにする
③道路の安全化
* クルマと自転車の分離をさらにすすめる
* 分離できない場所(細街路、裏道など)では、クルマの速度を抑える
* 自転車利用者のために教育の機会を用意する
④自転車の盗難防止
* 所有者の電話番号と住所を自転車に刷り込む
* 駐輪場を盗難防止に配慮した構造にする
出典 渡辺千賀恵「自転車とまちづくりー駐輪対策・エコロジー・商店街活性化―」
学芸出版社 p149
自転車戦略先進国では国家だけなく、地方レベルでも自転車計画が多くある。例え
ばイギリスのデューラムでは2002年から2007年の間に「①通学および通勤の自転
車分担率を2倍にする(「通学計画」・「通勤計画」を策定)、②自転車1マイルあ
たりの事故率を10%減少させる、③自転車の盗難を10%削減する、④9-11歳の
子供の自転車安全訓練受講割合を10%増加させる、⑤2006年までに街のすべて
のセンターでの自転車改良投資を確保する」という目標を掲げている。
いくつかの先進各国の自転車戦略を紹介したが、これらを参考に私なりの「山口市
自転車戦略」を考えてみた。計画名は「やまぐチャリ計画」である。
① 毎月第1、第3水曜日は「チャリ通の日」とする。
毎月第1、第3水曜日は通勤・通学に「自転車」もしくは「自転車+公共交通機関」
を用いる。
(ねらい)CO2削減、9号線・旧9号線の交通渋滞の緩和、運動不足の解消
② 「どこでもチャリステーション」の設置。
無料の「コミュニティサイクル」。(レンタサイクルのポートを複数設置する。いわ
ゆる「乗り捨て方式」)「どこでもチャリステーション」を市内の各駅、各大学・専
門学校、各図書館、道場門前、湯田温泉、ゆめタウン等、人が多く集まるエリアに設
置する。車体を1色で塗装するなど、目立つようにする。
(ねらい)自動車利用率を下げ、自転車利用率を上げる、「自転車って便利♪」を実
感してもらう
③ 「チャリ塾」を開講。
おもに小学生・高齢者を対象に自転車の乗り方や交通マナーについての簡単な講習会
を開く。地区の行事(公民館祭り、図書館祭り、子ども会の行事)とタイアップする
ことも可能。私の理想は大学生のボランティアが出前講座のような感じで開催するこ
と。
(ねらい)交通事故の抑止・防止、「どこでもチャリステーション」の広報活動
④ 「チャリスタンプ」
最近スーパーでよく見かける「マイバッグを持参された方のためのスタンプ」と同類
のもの。提携しているスーパー、商店、公共機関等で「どこでもチャリステーション」
の自転車のカギを見せるとカードにスタンプを押してもらえる。カードがいっぱいに
なったら、特典が受けられる。(オリジナルエコバッグプレゼント、学食でカツ丼1
杯無料、美術館・博物館の入館無料…等々)
(ねらい)自転車利用率をあげる、「どこでもチャリステーション」の活性化・広報、
「みんなで自転車に乗ろう」という意識を広める
⑤ 「やまぐチャリ計画」の広報活動
どんなに計画を立てても、市民に広く知らせ、活発な利用がなければ意味がない。積
極的にメディアに取材を依頼したり、わかりやすく市報で説明するなどが必要である。
(ねらい)より多くの市民に「やまぐチャリ計画」を広める
以上の5点が私の「やまぐチャリ計画」である。この計画には大量の自転車が必要
となる。市内にあふれる放置自転車を再生・利用したい。実現しようと思えば、かな
り地道な努力、コスト、時間がかかることが予想されるのがこの計画の難点であるが、
もし実現できれば、山口市は生まれ変わると確信している。
日本は、実はオランダ・デンマークに次いで、移動手段の自転車分担率が高いそう
である。そうであるならば、日本も自転車計画先進各国にならって自転車計画を策定
に力をいれれば、Co2排出量は現在よりも減るであろうし、「持続可能な社会」の形
成も可能であると考える。いきなり国家レベルは難しくても、「自転車工房」を含め
て、全国に自転車を扱ってまちづくりをしている人々がいる。全国の種火が近い将来、
大きな炎となることを願っている。自転車は大きな可能性を秘めているのだ。
参考文献
渡辺千賀恵「自転車とまちづくりー駐輪対策・エコロジー・商店街活性化―」学芸出
版社、1999年
古倉宗治「自転車利用促進のためのソフト施策」ぎょうせい、2006年
(Hさんのレポート引用終わり)
次いで、Uさんのレポート 『えこチャリ』の魅力を紹介します。期待と現実
の違いがよく表現されているとおもいます。
私たちが毎週行っている自転車再生プロジェクトは通称『えこチャリ』と言われる。
基礎演習で最初は嫌々というか、半強制的に行っていたが今や自分で積極的に行うよ
うになった。それは一生懸命自転車再生することで環境に優しい人間になれるかなと
勝手に考えるようになったからだ。人はいいことをすると気持ちよくなるとある講義
で言われたがそのとおりである。しかし本当にそれだけだろうか。このレポートでは
『えこチャリ』の魅力を述べていく。
私たちが再生した自転車は毎年来ている交換留学生や大学の先生などに利用されて
いる。しかし今修理している自転車は1チャリシェアリングをするためのものである。
現時点でチャリシェアリングのために完成している自転車は9台であるが、あと1台
完成した時点で公開の予定だ。
私たちは講義の一環で自転車再生しているのだが、これは本当に講義なのだろうか
と思うことがある。それは、講義は机の上で教授のお話を聞き、それをノートに取る
ものだというイメージがあるからだ。しかしこの講義は机もなければノートもなく、
屋外で実際に体を動かして、自転車の修理をする。教授のお話をノートに取ることは
ないが、いろいろなことを学ぶことができる。もちろん自転車再生をしているのだか
ら自転車を修理するためのノウハウが身につくが、それだけではない。チャリシェア
リングにはまだまだいろいろな問題点がある。放置自転車の増加に対して生産は追い
ついていないこと、完成した自転車をどうやって管理するか、普通の自転車と見分け
るためのロゴはどうするか、自転車を返してくれない人がいたらどうするかなど、開
始するにはまだ不十分なのだ。このような問題点をひとつひとつ仲間と一緒に解いて
いく能力も身につく。私たちは冬の寒い時期に活動しているのでみんなで温かい物を
飲みながら、世間話や、最近のニュースの話などもして世界観が広がった。またみん
なが積極的に自分の意見を言い、取り組むなかで共同することの楽しさを感じること
ができる。このように、『えこチャリ』は私にとって普段の講義では学べないことを
得られ、貴重な経験になった。
最後に来年度『えこチャリ』の活動をしていく学生にも私と同じように楽しみなが
ら取り組んでほしい。しかし楽しみ方を間違えたら怪我をしてしまう可能性もあるの
で、取り扱いには十分に気をつけて取り組まなければならない。この活動は放置自転
車の回収という地域のためのボランティアから始まったはずなのだが、最終的には自
分のための良い経験となっていた。
(Uさんのレポートの引用終わり)