2007/5/15) 山口県立大創立記念日のシンポで大学の現在と未来を考えた
2007/06/05
2007年5月15日、山口県立大学の創立記念日の講演会・シンポジウム「これからの
大学のあり方を考える」に参加して(安渓遊地)
1.冒頭に、マンドリンサークルの演奏があって、それから山口県立大学学長兼理事
長の江里健輔さんの「大学の風格」と題する以
下のような講話がありました。
◎「学風・校風・教風」
これは上越教育大学名誉教授(現在は放送大学教授)の新井郁男先生が中国の上海
の小学校を訪ねたときに掲げられていたことばだそうです。
「教風」というのに感銘を受けたといいます。教員の心構えということです。大学
入学希望者全入時代を迎えて、教員の側の力量・指導力が問われています。
大学は、学問の府です。もともとは、教会に勤めることができるように、教会法を
学ぶということをイタリアのボローニアで始めた。学生が自分たちに即した教員を集
めたの大学の始まりです。
知識の切り売りだけではすまされず、そのバックボーンをなす研究が大切になりま
した。
研究成果が社会に役立つには時間がかかります。これまでの日本社会はゆっくり時
間をかけて研究することをよしとしてきました。
しかし、すぐに役に立つものを社会が要請するようになってきました。そんな状況
でも、10年先に本当に役立つ知識を学生に授けられることが大切だと思います。
いよいよ教員の風格が問われる時代が来たということです。
◎山口県立大学のめざすもの
本学の教育研究目標と4つの基本理念を確認しておきましょう。
なによりも教育を重視します。そのための学部再編を今年度から始めました。
学生を大切にする大学。学生が楽しい、満足できるキャンパスライフを送れるよう
に支援します。
地域に密着した開かれた大学。生涯学習コースなどを様々に開設しています。
国際化への対応として、世界の6大学との交流協定を結んでいます。
地域貢献大学として県民から温かい支援をうけているが、それに甘んじてはいけな
い。
◎教員は夢を与える高度専門職業人
ここで、前任校でのエピソードを紹介しましょう。
ある学生がスーパーに行きました。そうしたら、バーゲンセールの売り場で下着を
選んでいる教授の姿を見てしまいました。それをみて、その学生はその場から逃げた
そうです。それまで「教授」というものにもっていた自分の像ががらがらと崩れてし
まった、というんです。それを聞いて、私は、「生活者としてそのような行動をとる
ということは、教授であろうと誰であろうとやむをないことだよ」と学生の理解を求
めはしました。学生の見方が正しいということではありませんが、大学教員たるもの
は、学生や県民からいつも見られているということから自らを律していかなければな
りません。
福沢諭吉の『学問ノススメ』。この本が出たのは明治7年のことです。男子が独立
して一人で生活するようになり、家も家財もそろえ、結婚し、子どもにもひととおり
教育をほどこし、お金もためてきたとする。自ずからこの暮らしに満足している。そ
ういう人をまるでりっぱな仕事をなしえたように、世間の人は独立不羈の人と評価い
たします。しかし、諭吉が見るに、それでは蟻と同じことをしただけだというんです。
それだけではなくて、人間として世の中に役立つような真実を求める必要がある、と
書いているんですね。
教員は、夢を与える高度専門職業人です。一方では真実もきわめなければならない。
だから社会は普通人以上の教養と高い道徳を期待しています。だから給料も高いんで
す。自己に忠実に、しかし、過度な個人主義でなく、組織の一員であること肝に銘じ
て自己に忠実に生きなければなりません。
◎若干の助言
そのために若干の助言をさせていただくならば、
他人のことに過度に興味をもたず詮索しないこと。
他人を非難する力が自分にあるか、それをいつも反省すること。
他人の立場にたって行動すること。私は医者ですが、患者の気持ちになることはど
うしてもできません。しかし近づこうと努力することはできます。
教員が学生に合わせることも必要と思う。
教員は原則として奉仕する立場。これを忘れては勤まりません。
社会からかけはなれて生きていくことはできません。
本学独自の教風を作り上げていきたいものと思います。(拍手)
2.基調講演
文部科学省から杉野剛(つよし)さんが、大学への社会の風当たりを紹介しながら、
大学人を励まし応援してくださいました。
3.退職教員表彰と学生表彰があり、
4.サムルノリ・サークルの乗りのいい公演に引き続いて
5.シンポジウムは、「これからの山口県立大学のあり方を考える」で、
参加者と主な発言をひと言でいうと、次のようなものでした。
・杉野剛さん 文部科学省 「目的意識をもって果敢にチャレンジしてください」
・中澤晶子(てるこ)さん 山口大学監事 「近くて遠い大学から近くて近い大学
になりましょう。山口大では監事として業務監査をしています。中期計画へきちんと
進行しているかを監査する仕事です。県立大学の中期計画は具体的で数値目標をかか
げておられる。1年次の学生全員が◎◎をする、と書いてあります。りっぱだが、と
ても大変。学生の到達した能力をいかにはかるか。それが難しいですね。」
・川久保賢隆さん 会社社長 「外から自由な立場で好きなことを言わせてもらい
ます。3年前に「山口まち大学」を考えました。小さい町に3つも大学がある。市民
としてこれを使わない法はなかろう。これまでのところ大学はPR下手。県立大はへた
くそもいいところですよ。いいアイデアいっぱい持っているじゃないですか。街中で
なく、徳地みたいな田舎にサテライトキャンパスをもつなんて、すごいアイデアだと
思いますよ。先生たち、あまり人の言うことを聞いたことがなかろう? どんどん大
学の外の連中と思ったことを言いっこするようにしましょう。外から見ても何をして
いるかわかる大学になるように」
・城(じょう)菊子さん 「山口女子短大出の卒業生の声を届けます。女子専門
学校以来の伝統が生かされていて、信用があります。しかも時代の新しい風を取り入
れて、進化しています。落ち着いていますが地味です。男子学生がいても、エネルギー
を発散する場所がないのではないですか。女子だってそうです」
・磯村裕佳さん 栄養学科学生 よさこいサークルのメンバー 「小規模で目立た
ないけれど、和気藹々として、あたたかな、ほっとする雰囲気がある大学です」
6.フロアからの発言の時間に
奉職33年という副学長の三島正英さんが司会者です。私は、大学院の小川全夫(た
けお)さんと、県のスローツーリズム計画をめぐって情報交換しておくことがあった
ので、彼の横、一番前の方に座っていたのですが、「安渓さん、何かいいたそうやね」
という三島さんの誘いにのって、こんな発言をしました。
本命は小川さんだろうと思って、でしゃばらないように言葉をはしょって話したの
で、伝わらなかった部分もあったのですが、ここでは、はしょった部分を〔 〕に入
れて補っておきましょう。
安渓遊地のコメント
山口大に12年、県立大に12年奉職した立場で申し上げてみます。〔生活者として、
あるいは庶民として生きる力、それこそがこれからの若者が身につけるべき大きな力
だと思っています。今朝も、新一年生全員と30名近い教員が、基礎セミナーという授
業で、学内から出る1週間分のゴミの分別と計量をやっていたんです。それでこうい
うラフな格好でシンポジウムにでてきたんですけれど。〕今年度から始まった地域共
生演習という授業では、〔徳地のサテライトキャンパスに学生50人、地域の方50人、
教員をあわせて110人ほどの人が集ってお互いを知るというオリエンテーションをやっ
て、〕現場のさまざまな暮らしに共感がもてる力を付けることをめざして、地域に出
かけます。先週は、10人の1年生で日本海側の阿武町に行き、材木を刻んで井戸の
小屋を建てました。〔みんなで泊まるわけですけれど、そうするとなかなか大学では
語らない言葉も出てきます。〕夜、リーダーの上級生の学生がぼそっというんです。
「県立大はいいです」って。なぜ?と聞いたら――これは、普通ホームページには載っ
てないことですからよく聞いてください――2,3年前にアルバイトで、清掃会社に
入ったそうです。便所掃除の仕事もあり、複数の大学で働きました。名前は言いませ
んが某大規模校では、女子トイレがとーっても汚いんだそうです。うちは比較になら
ないほどキレイだといいます。〔神は細部に宿り給うといいますか、脚下照顧といい
ますか〕県立大学では家庭教育〔と家庭的な雰囲気での大学教育〕がきちんとなされ
ているということではないでしょうか。〔宮野駅舎が3000万円という市の予算を
かけてりっぱな宮野交流ステーションに生まれ変わり、非常によく活用されているの
も、女子専門学校時代の卒業生が夫と二人で訪れて、駅の便所の汚さに大きなショッ
クを受けて手紙を書かれたのがことの始まりと聞いています。〕ささいなことのよう
でも、非常に大切なことだと思っています。
小川全夫(たけお)さんのコメント
過疎だとか少子高齢化だという地域で、大学がどこまでがんばれるか。僕はよく例
にだすんですけれど、アメリカのアパラチア山脈のところにベレア・カレッジという
大学があります。ここは、アパラチア地方の人たちのために、地域で実際に役立つこ
とだけを教えていくという姿勢です。学内には農場もあれば、パン屋さんもホテルも
ある。そこで学生は実際に働くんです。先生たちもスタッフとして働いている。しか
も、アパラチア地方からの学生には全員奨学金が出て、学内での労働からのお金とあ
わせて、自己負担なしに学ぶことができるというシステムになっているんです。
参照 http://www.kyushu-u.ac.jp/magazine/kyudai-koho/No.12/12_06.html
7.来年度へ向けての若干の反省点
ア.聴衆のやる気が見えない
2階もあわせて600人はいる講堂に、ほぼ教職員だけの聴衆。教員の無断欠席が
10人だったそうですから、まあ100人程度の参加者で、座っている方は平気です
が、壇上の来賓からはいかにも寒々として見えただろうと思います。しかも、多くの
人たちは後ろの方に席をしめ、出席が厳しいから仕方なくでている授業での学生たち
の行動パターンをみごとに踏襲しているように見えてしまっていました。
イ.テーマが地域や学生に開かれていない印象を与えた
「これからの大学を考える」「これからの山口県立大学を考える」では、地域の方
は、自分たちに関係のある話だと思わないし、大学生も自分が卒業するまでの話では
なさそうだと思ったのかもしれません。私も、正直いうと教員用のFD(研修)だと
思ったのですが、内容はずいぶん力の入った豊かなものでした。とくに、お客様〔=
学生〕を呼び捨てにする従業員〔=教員〕がいるサービス産業〔=大学〕はかなり珍
しいと常日頃おもっている私にとっては、江里さんの話は共感するところがありまし
た。(蛇足ですが、「教格」に関して。私はいま、地域共生演習の授業の一環で、学
生たちといっしょに地域の自転車再生をしていて、自転車置き場の屋根の葺き替えと
ペンキ塗りからやっているため、ときどきへんてこな格好で学内を歩いています。実
は、私が初めて教員の職を得た大学の初出勤の日、学長に紹介されたとき、学長先生
は便所の扉のペンキを塗っておられました。お金がない大学のために教員が作業服を
着てペンキ塗りをすることは、教員の品格を高めるものだと思っております。)
川久保さんが言われていたように、上手にPRすることは、中味と同じほど重要で
しょう。いい宣伝コピーを書いて発信することは、とっても大切です。「大学の未来・
地域の未来」なんかをたたき台に学内の智恵を集めて、魅力ある中味を反映した魅力
的な表現を見いだす必要があります。学内で足りなければ、金をかけて学外にも求め
ていいかもしれません。先日学会で鳥取大学に行きましたが、駅に置いてあった鳥取
大学の宣伝パンフ群の中ののコピーは、「人間力はどうだ?」でした。粗野だけれど、
エネルギーが感じられ、それなりに金をかけてつくったのだと思います(写真)。
ウ.企画とアナウンスの統一がとれていない部分があった
大学が学生から公募したドリーム・アドベンチャー・プロジェクトの成果が入り口
付近に展示されていたのに、そのことがアナウンスされなかったため、私のように知
らずに帰った参加者もいました。
エ.地域を巻き込むしかけを
昨年までは、グリーンデーなどとして、宮野自治会とともに清掃活動をして、昼の
お握りを一緒に食べたりしていたので、あのような乗りで、ついでに話しもきいてし
まったら案外面白かった、というような自然な感じに持ち込めたらいいな、と思いま
した。