上関)生態学会からの過去の主な要望書
2024/02/03
日本生態学会では、過去に総会で何度も、上関原発計画に対してもの申しています。
電力会社の仕事で、環境影響評価の現地調査をして、報告をまとめる仕事をする企業で働く人達なども会員ですから、例えば、「原子力反対」といった、方針が共有されているわけではありません。そもそも、学会は、反対運動を展開する主体でもありません。
上関原発の予定地は、他にない、すばらしい自然のあるところです。こんないいかげんな調査で壊してはいけません。もっとちゃんと調査をしてください。これなら、みなさんの同意が得られやすかったのです。
中国電力の山下社長(当時)は、くわしく調べれば、この程度の生物多様性は、どこにもある、と発言されましたが、私どもの調べた結果とはちがっています。https://ankei.jp/yuji/?n=852
以下、日本生態学会のサイトの関連頁のミラーを残しておきます。
Home > 学会について > 活動・要望書一覧
https://esj.ne.jp/esj/Activity/index.html
https://esj.ne.jp/esj/Activity/2011Kaminoseki.html
中国電力による上関の海面埋立工事の即時中断を求める緊急要請
日本生態学会自然保護専門委員会 委員長・矢原徹一
瀬戸内海周防灘長島の上関原子力発電所建設予定地において,2011年2月21日深夜から強行された海面埋立工事について,下記理由により、即時中断を求める緊急の要請を行うものである。
生物学研究者の組織である3つの学会(日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会)は,当該海域が世界に誇る内海の生物多様性の宝庫であり,将来の瀬戸内海の生態系の再生にとって不可欠の場所であることを,これまで再三にわたって指摘してきた。しかし,今ここで,中国電力株式会社による原子力発電所の建設計画が強引に進められている。環境影響評価(環境アセスメント)はきわめて問題の多いものだった。上記の3学会およびそれらの学会の自然保護関連の委員会は,これまで合計12件もの要望書を事業者や監督官庁に提出し,自然豊かな海域を破壊する強引な埋立工事の中断と,適正な調査の実施を強く求めてきた。さらに,日本生態学会は,昨年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の関連イベントにおいても,この問題の重要性を強調したところである。
しかるに,中国電力株式会社は,これらの研究者の声を全く無視し,2011年2月21日深夜から海面埋立工事を強行している。
日本生態学会会員が1999年以来実施してきた現地調査によって明らかになったところでは,埋立工事海域には以下のような保全が必要な希少野生動植物が生息・生育している。
腕足動物,カサシャミセンなど2種;軟体動物(貝類),ナガシマツボなど27種;環形動物(ゴカイ類),オミナエシフサゴカイなど4種;棘皮動物,イボカギナマコ;脊索動物,ヒガシナメクジウオ,ミミズハゼ類7種;海藻・海草類,スギモクなど3種。これら45種の希少野生動植物は,海岸や海底に生息・生育する種であり,現在進行中の岩石・土砂等の投入により生息が直接的に脅かされ,生息地が破壊されるものである。
また埋立工事海域は,国際的希少野生動物であるスナメリ,オオミズナギドリ,ウミスズメ,カンムリウミスズメなどの回遊・飛来・子育て域であり,多数の作業台船の来航はその生息を脅かすと共に,埋立工事はこれらの種の餌場となる海洋生態系を破壊するものである。さらに,ミサゴ,ハヤブサなどの海岸域を生活場とする鳥類にとっても,工事による環境撹乱は生息の脅威になると考えられる。本委員会の調査によって,長島の原発建設計画地周辺では,山口県のレッドデータブックに記載された鳥類が40種確認されているが,そのうち今回の埋立工事の影響を強く受けるものは11種にのぼると考えられる。
中国電力は,こうした多くの希少野生動植物の生息状況の把握,全体的な生物多様性の把握,その保全対策が極めて不備なまま,埋立工事を強行している。こうした姿勢は,企業にも環境倫理が強く求められる今日の社会では,到底許容されるものではない。また,このような事態は,日本国にとっては,COP10における以下の国際的合意(愛知ターゲット目標11)に反することになる。「2020年までに,少なくとも陸域及び内陸水域の17%,また沿岸域及び海域の10%,特に,生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が,効果的,衡平に管理され,かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され,また,より広域の陸上景観又は海洋景観に統合される。」さらに,山口県が定めた以下の環境基本条例第三条2の条項にも反する。「環境の保全は,環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われることにより,健全で恵み豊かな環境を維持しつつ,環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会が構築されることを旨として,行われなければならない。」
本委員会は,海面埋立工事の中断と,生態系の適正な評価及び保全対策の再検討,そして瀬戸内海の自然に対して大きな責任を負っている中国電力の真摯なる姿勢の表明を強く要望する。また,日本政府と山口県知事に対しては,国際的な公約である生物多様性保全(わが国が誇る代表的な「ホットスポット」の保全)の見地から,海域埋立工事の一時中断を中国電力に対して指導することを強く要望する。
以上
送付先:中国電力社長,山口県知事,日本政府(経産省,環境省,首相)
Copyright(C) 2014 The Ecological Society of Japan
https://esj.ne.jp/esj/Activity/2001kaminoseki.html
上関原子力発電所に係る環境影響評価についての要望書
日本生態学会は、2000年3月25日の第47回大会総会において「上関原子力発電所建設予定地の自然の保全に関する要望書」を決議し、(1)スナメリ、ハヤブサ等の希少種の絶滅リスクの把握、(2)温排水の生態系への影響評価を要望した。
2000年10月18日、中国電力株式会社は「上関原子力発電所(1, 2号機)に係る環境影響調査中間報告」を通商産業省に提出した。通産省は環境審査顧問会・原子力部会を2000年11月9日に開催し、その内容を了承した。さらに山口県知事は、2001年1月29日付けでこの中間報告書においては、「1999年11月25日付けの知事意見は、基本的に尊重されている」との見解を経済産業省資源エネルギー庁あて送付した。
日本生態学会は、この「中間報告書」について、以下に示す5項目の問題点を指摘し、このような環境影響評価に基づく開発により、日本で唯一残されたと言ってよい内海の貴重な海の生物と生態系に取り返しのつかない影響が及ぶことについて強い危惧を表明するものである。
1.「中間報告書」には影響評価の基礎となるべき、動植物のリストが(陸産貝類を除き)脱落しているばかりか、あらゆる項目において、不十分な検討のまま「温排水や海域埋め立てが各種生物に及ぼす影響が小さい」という趣旨の性急な結論が下されている。
2.生物が生息している環境としての生態系への影響評価は、環境影響評価基本法(アセス法)や「影響評価準備書」への山口県知事意見の中でも求められているにもかかわらず、欠落している。
3.貴重な生物種の生息場所及び近傍の環境の改変がそれらの絶滅リスクをどれほど変化させるかなどの定量的な予測がないため、中間報告書の随所に見られる「影響は少ないものと考えている」などの記述は、既に「科学的でない」と知事意見等できびしく指摘された点である。
4.ハヤブサの繁殖失敗の原因について何ら調査されておらず、ハヤブサが頻繁に利用している発電所予定地の重要性が検討されていない。また、この海域が単なるスナメリの回遊域ではなく、瀬戸内海に残されている唯一のスナメリの繁殖産地である可能性を見落としている。そのため、開発のこれら生物への影響が余りにも過小に評価されている。カクメイ科については,科レベルでの調査があるのみで、影響評価の前提である種の同定さえ行われていない。底生生物についても既知の希少種の記載すらない。リストのある陸産貝類の種の同定には明らかな誤りがある。小島及びその対岸の断崖を生育場としているビャクシンの「移植」など極めて非現実的である。
5.温排水の影響については触れられているが、スナメリの餌の一部となるアジ類、コノシロ類が海水温が1℃上がった場合には、どのような挙動を示し、それがスナメリの生活にどのような影響をおよぼすのかという予測と影響評価がされているとは言い難い。冷却水のとり込み(冷取水)についてはまったく触れていない。すなわち、今回の発電所の冷却水取込み量は1ヶ月間で、平均水深50mの海域の1km(沖合) x 10km(海岸線)の全ての海水を取水するほど厖大であり、そこに生息している浮遊性の卵・幼生・稚仔を壊滅させ、それらの親であるベントスや魚にも致命的な影響を及ぼす危険性に触れていない。
以上指摘したように、このたびの中国電力の中間報告書は、第47回生態学会総会決議で要望した希少種の絶滅リスクの把握、生態系への影響評価のいずれにもまったく対応していない。前回の要望内容が、「アセス法」が規定する「自然環境の体系的保全」の項目として不可欠のものであることを踏まえ、日本生態学会は、上記の問題点を考慮して、建設予定地の生物多様性に対応した科学的な観点からの環境影響評価を「アセス法」にそって実施するよう、要望する。
以上決議する。
2001年3月29日
日本生態学会第48回大会総会
https://esj.ne.jp/esj/Activity/2000Kaminoseki.html
上関原子力発電所建設予定地の自然の保全に関する要望書
中国電力(株)は、2011年の1号機運転開始をめざして山口県熊毛郡上関町大字長島に原子力発電所(出力137.3万kWの改良沸騰水型原子炉2機)の建設を計画している。しかし、建設予定地とその周辺には、以下のような希少生物の生育が確認されている。(1)近年瀬戸内海では激減しているスナメリ。(2)希少なハヤブサ、オオタカ(いずれも絶滅危惧種II類)などの猛禽類。(3)貝類の系統進化を解明する鍵として国際的に注目されつつも、従来きわめて稀にしか報告がなかったカクメイ科のヤシマイシンとその近似種。(4)世界でも建設予定地でのみ発見されているワカウラツボ科のナガシマツボ。(5)絶滅寸前とされる腕足動物のカサシャミセン。このような希少生物が集中して生育しているのは、立地予定地の海域が大規模な開発を免れ、例外的によく保全されてきたからである。日本の渚がいたる所で壊滅的な危機に瀕している今日、立地予定地の環境はかけがえのない価値を有している。このような海域の開発・改変にあたっては、きわめて慎重で周到な環境影響評価が必要なことは論をまたないが、中国電力が1999年4月に提出した「上関原子力発電所(1,2号機)環境影響調査書」は、大型事業でありながら、1999年6月施行のアセス法に対応したものではなかった。そのため「生物の多様性の確保および自然環境の体系的保全」という新法の観点にたつ追加調査が必須であるとする山口県知事意見、環境庁長官意見、通産大臣勧告が出されている。これらを受けて、中国電力は、2000年1月から10月をめどとして追加調査を実施中である。しかしながらその調査方法は「これまでに実施した調査法と同一」とされており、上記の希少生物の保全に役立つ追加調査にはならないことが強く危惧される。また、予定地は半閉鎖海域に計画されている日本でも初めての原子力発電所であるため、毎秒190トン排出される温排水が希少生物の生育に対して与える影響に関する正確な予測評価が必要である。
日本生態学会は、本予定地の生態系の重要性の認識の上に立って、中国電力による追加調査の方法を以下の点について緊急に見直して、新しい時代の要請に答えるものとすることを強く要望する。
現在行われている追加調査を見直し、希少種の分布や個体数を正確に把握できる方法を採用し、絶滅リスクを予測評価できる内容とすること。
生態系への影響評価を実施すること。とりわけ温排水が与える影響について正確な評価を行うこと。
建設予定地に生息する希少貝類は、特殊かつ微小な生息地に適応しているため、調査によって生育環境が悪化しないように注意すること。
以上決議する
2000年3月25日
日本生態学会第47回大会総会