奄美大島での共同調査始まる(新聞報道)
2006/08/30
いま、奄美大島にいます。地元の新聞に取材してもらって、今日の新聞2紙に載り
ました。
以下は、記者発表用に準備した資料の写しです。
総合地球環境研究所の総合調査始まる
理科と文科のわくを超えた視点から地球環境問題の解決をめざす、総合地球環境研
究所のプロジェクトチーム(奄美・沖縄班)の研究者が、2006年8月31日から、9月
6日までの予定で、奄美大島と加計呂麻島での第一回目合同調査を予定している。
分野の異なる研究者グループによる総合的研究としては、九学会連合以来の調査と
なるもの。
全体のプロジェクトの目標は、世界の中でも生物多様性が高い日本列島の自然をと
りあげ、これほど多くの人が住みながらも、自然との共存が可能だったかに見える過
去の状況を復元し、それが、どのようにして破壊されてきたかの過程をあきらかにす
る。それによって、われわれの暮らしの未来へむけたあり方を、具体的に提言するこ
とをめざしている。とりわけ奄美・沖縄は、日本列島のなかでもきわだって高い生物
多用性を誇ってきた場所であるだけに、全体のプロジェクトの中でも重要性の高い地
域(ホットスポット)と位置付けられている。
今回参加するメンバーは、プロジェクトリーダーの湯本貴和教授(地球研・生態学)
をはじめとする総勢13名。名瀬に集合したあと、加計呂麻島と大和村で「奄美にお
ける人と自然の関係の歴史」を共同の研究テーマに実地調査を実施する。
奄美・沖縄班リーダーの安渓遊地(あんけいゆうじ)教授(山口県立大・人類学)
は、祖父が瀬戸内町の西阿室出身。同じくメンバーの貴子夫人(山口大学非常勤講師・
生態学)とともに、8月17日から奄美に滞在し、すでに700キロを走って共同調査のた
めの下しらべや準備にとりくんでいる。
主要なメンバーは、木下尚子教授(熊本大学・考古学)が、6世紀から8世紀にかけ
ての遺跡から大量に出土する夜光貝について、当時すでに乱獲がおこっていたのでは
ないか、という仮説に基づく計測を学生とともに実施する。安渓教授は、隣りあう集
落や島の間の物々交換システムの研究を計画し、与路島などにも足をのばして、琉球
弧全体を視野に入れた研究を計画している。安渓貴子氏は世界の有毒植物の毒抜き法
との関連で、奄美の蘇鉄食文化を見なおしたいと語っている。沖縄県からも3名の研
究者が参加。沖縄県史料編集所の当山昌直主幹は、戦争中に米軍が撮影した鮮明な
空中写真をもちいて、当時の土地利用の復元研究をめざす。渡久地健氏(琉球大学非
常勤講師・地理学)は、さんご礁と生活の関連の解明をめざしている。
その他、気鋭の大学院生などもくわわり、地元のみなさんとも、活発な討議をおこ
ないながら、共同研究をすすめたい、と意気込んでいる。
◎総合地球環境学研究所
略称「地球研」。京都にある。文部科学省が設立した最後の国立研究所。現在は、
独立行政法人化している。地球環境問題の解決が、従来のように自然科学的な研究方
法だけでは不可能であるという気づきから、文理融合型の研究プロジェクトを外部審
査によって選び、5年間のうちに、具体的な成果を出すことを義務付けている。現在
の所長は、生物学者の日高敏隆氏。
「日本列島の自然史」プロジェクトは、研究所所員の湯本貴和教授(生態学)がリー
ダーで、100人以上の第一線の研究者をあつめて、理論的な研究と、北海道、東北
から奄美・沖縄までの各地での地域テーマの研究を開始している。
とくに、普通、亜熱帯は、サハラ砂漠などのような極端な乾燥地であるのに、奄美・
沖縄の島々は、他には例を見ない湿潤な亜熱帯地域である。希少な生物の住み処であ
る深い森や、マングローブ、サンゴなど、世界の自然からみてもきわだって価値の高
いホットスポットである。この自然は、しかし、さまざまな開発によって危機に瀕し
ている。この自然を破壊することなく住民生活の向上が図れるような、そして、若者
たちが将来にわたって住みたいと願うような、新しいライフスタイルを見つけること
が、これからの地域の未来にとって大切である、という共通認識にたち、地域住民が
伝承してきた、自然の中に神を見るという価値観を重視しながら、研究と提言をおこ
なうことを、奄美・沖縄班ではめざしている。