2005 年度の文化人類学I で感心したレポートから
2006/04/12
1年生のOMさんのレポートに大変感心しましたので、ご本人の了解を得て紹介し
ておきます。
みじかくぴちぴちとした文章で、話の流れも引き込まれるような魅力がありました。
中国から来たお姉さん~そこから変わった私の視点~
「え?中国から来るって、国際結婚なの?」これが叔父が結婚することになったと
聞いた時の私の第一印象だった。花嫁は海を越えて中国からやってきた。もう6年に
なる。その当時私は中学2年生で、中国人と会ったことないし、テレビでは中日関係
は悪いという報道を聞いていたのであまり良い印象は持っていなかった。しかし彼女
に会って、彼女と付き合うようになって、私は変わり始めた。
言いたいことははっきり言う。おしゃれに敏感な上海っ子。日本に来て日本語を覚
え、今では会話に全く不自由しないようになった勉強家。お姑である寝たきりの祖母
を本当に大切にしてくれる、彼女はそんな人だ。始めは心配した親戚一同も、今では
「彼女がお嫁に来てくれて本当によかった」と言う。
その頃の私は外国語に興味を持っていて、学ぶなら英語かヨーロッパのどこかの言
語にしようと思っていた。欧米に対してきらきらしたイメージを持っていて、アジア
やアフリカなど考えたこともなかった。しかし、そんな風に狭かった自分の視野は序
所に広がっていった。大学での第二選択言語はもちろん中国語を選び、夏に短期語学
研修で中国にも初めて行った。頭の中には勝手に欧米しか選択肢はなかったはずなの
に、今では中国に留学したいと思うようにさえになった。
夏に中国に行ったことを話すと、多くの人は「大丈夫だった?」と聞いてきた。私
はそれがとても悲しかった。きっと彼らはまだ中国についてよく知らない。以前の私
達家族のように、ただテレビのニュースや新聞でしか知らないのだ。一対一でつきあっ
てみると、本当にいろいろなことが見えてくる。もちろんそれは良いことばかりでは
ないし、文化の違いもあるし、ここはお互い譲れないというところも持ち合わせてい
る。私自身中国の文化に慣れないところもたくさんあるし、まだまだ中国を勉強中だ。
だからテレビや新聞、本などで言われることは、もっともなことを論じているかもし
れないが、私は実際に付き合ってみないとわからないことってたくさんあるはずだと
思う。
黒川欣映は著書『中国人との付き合い方』(1992年発行、213ページ)で、中国人
が語ってくれた言葉で「人間と人間とは、それが日本人と中国人であっても、お互い
につきあっていれば、仲がよくなるものです。日本人と中国人は、昔から仲がよかっ
た。それを政治がぶち壊してしまった。ただこわすだけでなく、双方の心の中に深い
傷をつけてしまったのです。 ~中略~ 日本人も中国人も、心の底のどこかに、そ
の傷は残っているはずです。それを完全に癒すこと、それはわれわれ民衆の営みなの
です。少しずつ、少しずつ、癒していかなければなりません。」と述べている。
この言葉を中国人が言ってくれたというのが、本当に意味のあることだと思う。歴
史で、日本が中国に対して行ったことは日本人として反省し忘れてはいけないことで
あると思うし、距離を置き続けるのではなく、お互い歩み寄り、お互いに受けた傷を
お互いによって癒していくことが大切なのだと思った。
日本人ばかりでなく、中国人が変わってくれたのも経験した。夏に行った中国で、
毎朝太極拳を習った。教えてくれたのは中国の大学の先生の息子で、学生だった。最
後の朝に先生から聞いたことだが、当初彼は日本に対してあまり良い印象を持ってな
かったらしい。先生である母親が日本にくる時も一緒に行かないかと誘っても断って
いたという。しかし、私たち日本人と初めて生でつきあってみて日本を好きになって
くれたと言っていた。そして、日本から私たちに付き添ってきて来てくれたM先生は
「みなさんの行動は、ここでは日本の代表としての行動になるのです。」と語ってく
れた。自分が日本の代表とは感じにくいけれども、きっとその行動は受けた人のその
国への印象になるだろうし、皆が日本代表として、胸をはって行動して欲しいと思う。
人と付き合っていく中で、お互い無理矢理仲良いふりはしなくてよいし、全てを受
けいれる必要もない。お互いの存在を認めること、これが大事であると考える。きっ
かけは足元など、身近なところに転がっている。それをたまには近くからよく見てみ
ること、あるいは離れてみたら見えることもあるだろう。中国からやって来た彼女の
存在が私にそれを教えてくれた。
<引用・参考文献>
黒川欣映『中国人との付き合い方』(1992年発行、学生社)