チェルノブイリ医療支援からみた日本)「情報を開示し子供と妊産婦を守れ」菅谷昭さんは語る #sugenoya #chernobyl #fukushima #matsumoto RT @tiniasobu
2011/06/13
金融ファクシミリ新聞 というメディアに掲載されたものです。
菅谷医師の取り組みを応援してきた者の一人として、紹介します。太字にした部分
は、安渓遊地による強調で、もともとのサイトのものではありません。
http://www.fng-net.co.jp/itv/
情報を開示し子供と妊産婦を守れ
松本市長 菅谷 昭 氏
聞き手 編集局長 島田一
――今や日本国民は何を信じればいいのかわからない状態だ。チェルノブイリ原発事
故の医療支援活動を5年半にわたり従事されたご経験からいかにお考えか…。
菅谷 もはや、国、東電、安全保安院の3つとも信じられないというのが一般論だ。
日本国民は、自国の政府が信じられないという一番不幸な状態にある。また、そういっ
た大変な状況にあるということを、政治家たちの多くが認識していないということも、
さらに日本国民を不幸にしている。そんな中で民主党だの自民党だのといがみ合って
いる日本という国は、国際レベルで馬鹿にされても仕方がない。残念だが、海外から
の日本の評価は本当に落ちてしまっている。国家の使命とは、国民の命を守り、国を
守ることだ。確かに産業経済も大事かもしれないが、国民の命があってこそ、その上
に産業経済があり、金融があり、国際的な立場がある。私は今のような状況を見てい
ると本当に残念で、寂しくて仕方が無い。
――次から次に後出しで悪いニュースが発表されている。このような政府の対応の仕
方については…。
菅谷 非常にまずい。それは、誰も原発事故を身近に経験したことがないために、何
もわからないからだ。私は、チェルノブイリで経験してきたことをもとに、事故発生
時から「最悪の事態を想定して対策を考えておくべきだ」と主張してきた。しかし結
局、今回の事故で政府や東電は何ひとつ対応出来ていなかった。すべて経験がないか
らだ。そもそも、自然災害と原子力災害が全く違うものだという認識も、今の日本人
には少ないと思う。被災者には大変お気の毒だが、地震や津波の瓦礫だけであれば、
みんなで力を合わせて片付ければ、そこは必ず復興して住めるようになる。阪神淡路
大震災の時も、日本人の皆が頑張って、その能力や財力を集中したことで現在の兵庫
県のように見事に復興した。しかし、放射能災害では汚染された場所に再び定住する
ことは基本的に難しい。実際にチェルノブイリ原発事故が起きた周辺30キロゾーン
は、25年たった今でも強制避難区域が解除されていない。それだけ土壌汚染が酷い
ということだ。
――避難区域にしても、徐々に拡大させるような方法ではなく、まずは50キロ圏外
に避難させて、その後、安全を確認しながら範囲を狭めていくような方法をとるべき
だった…。
菅谷 私は事故当初からマスコミなどの取材に対して、最低30キロ圏外に避難する
ように言ってきた。そして、最悪の事態を想定して、放射性ヨウ素による内部被曝か
ら子供を守るために、無機の安定したヨウ素剤を飲ませるという放射性物質のブロッ
ク策を提言していた。しかし、内部被曝がどういうものなのかも知らず、中央政府に
は、松本という地方から発せられた声はまったく届かなかったのだろう。暫くたって
から、そういった提言が当たっているということで報道関係等から呼び出しがかかる
ようになったが、放射性物質が体内に入ってしまってからヨウ素剤を内服したところ
で、もう遅い。一旦、体内に入った放射性物質は身体の中にとどまって被曝し続ける。
そういった意味でも、日本は本当に不幸な国だ。
――内部被曝の問題は、今一番の心配事だ。特にこれからの日本を担う子供たちのこ
とを考えると、放射能被曝基準をもっと慎重に議論する必要がある…。
菅谷 基本的にICRP(国際放射線防護委員会)では、一般の人の年間許容被曝量
を、内部被曝と外部被曝を合わせて1ミリシーベルトと定めている。20ミリシーベ
ルトというのは、放射線に携わる人たちが非常事態に陥ったときの許容量だ。「非常
時」と「居住する」という状況では訳が違う。もともと原発推進派だった小佐古東大
教授も、20ミリシーベルトを小学生などの基準に認めることは出来ないとして内閣
官房参与の辞表を出したが、 あの時、彼の口から「自分の子供だったら」とい
う言葉が出た。それが本当の人間のあるべき姿だと思う。私は外科医なので、手術を
する場合は必ず、「患者が自分の子供だったら、妻だったらどうするか」と考え、当
事者意識を持つようにしている。
――食品の安全性については…。
菅谷 原発大国日本において、これまで食品における放射性物質の基準値がなかった
というのは驚くべきことだ。今回の事故があって初めて厚生労働省は、ICRP(国
際放射線防護委員会)とWHO(世界保健機構)とIAEA(国際原子力機関)が決
めている値を参考にして、日本独自の暫定規制値を定めたのだが、私はその時の食品
安全委員会への諮問に呼ばれて参加した。委員会のメンバーは、基本的には学者ばか
りで実体験のない人たちだ。私はそこで、「規制値は出来るだけ厳しくした方が良い」
と提言した。もちろん、私も自治体のトップという立場から、生産者の立場も理解し
ており、何でもかんでも厳しくしてしまうのが良いわけではないということも理解し
ている。ただ、今回の場合、子供たちのためを思うならば、厳しくしておかなくては
ならない。大人については、基準値以下であれば仕方が無いとして口にするものでも、
せめて、子供や妊産婦はきちんと守ってあげなければならない。しかし、会議では「
甲状腺がんは性質が良いから命には関り無い」と、平然と言う学者もいて愕然とした。
私はチェルノブイリで、小さい子供が癌の手術を受けて、毎日切ない思いを抱えてい
るお母さんたちを実際に見ているから分かる。こういった思いを抱える人たちを、こ
れ以上出したくないから、規制値も厳しく設定すべきだと思う。しかし、そういっ
た光景を目の当たりにしたことの無い人たちには、癌に侵された子供や、その母親が
どれだけつらいものなのか、どれほど切ないものなのか、わからないから、放射線の
専門家という立場で意見を述べ、それをもとに規制値が決まっていく。日本ではこう
いった実体験を持たない人たちが、政府の諮問委員会に入って色々な物事を決めていっ
てしまうということを初めて知り、驚いた。国民の本当の立場など考えていない。そ
れはとても恐ろしいことだと痛感した。私は、食品に関しては、汚染されているとい
うことが分かっているのであれば、乳幼児や学童、妊産婦はできる限り口にしない方
が良いと思う。被曝許容量にしても、学者によって20ミリシーベルトで大丈夫と言
う人もいれば、駄目だと言う人がいるが、それは結局、放射線被曝に関して将来のこ
とがよく分かっていないからであり、そうであれば、厳しい基準を適用するのが当然
だと思う。「あまり厳しいことを言うとパニックになってしまう」と考えて緩い基準
を推奨し、「でも、30年後のことは私にはわかりません」というようなことは、無
責任ということに尽きる。
――チェルノブイリ事故では、政府が情報を隠蔽してしまったことが一番の問題だっ
た…。
菅谷 当時、旧ソビエト連邦の中で一番大きな祭事だったメーデー直前の4月26日
にチェルノブイリ事故は起きた。それは国民に知らされること無く、子供たちは学校
のグラウンドで、国をあげての一大イベントのために一生懸命リハーサルに励んでい
た。その結果、被曝した子供達が癌に侵された。放射性物質に汚染された地域と知り
ながら、今もその場所に住み続ける人ももちろんいるが、そこに住む子供たちは、免
疫力の低下で感染にかかりやすく、貧血の症状も出ている。また、そういった母親た
ちから新たに生まれる子供たちも、子宮内胎児発育遅延で、低出生体重児や未熟児と
なる確率が高くなっており、早産も多いという。こういった現実を、日本の人たちは
知らない。政府や東電、安全保安院は、時間をかけて小出しに情報を公開していけば
国民の気持ちが収まると考えているのかもしれないが、とんでもない。それは、放射
能の怖さを知らなすぎる行為だ。今、現実に日本で汚染された地域に住んでいる人た
ちは放射線を浴び続けている。それは、チェルノブイリとまったく同じ状況だ。先日
ようやく発表されたメルトダウンという最悪の事態についても、放出された核種が何
で、どの時点で、どの程度放出したのか、汚染状況がまったく国民にオープンにされ
ていない。測れないといっているが、そういうことを言っている事自体、本当に日本
は不幸な国だと思ってしまう。きちんと数値を把握して汚染マップを細かく出さなけ
れば、日本国民は納得しない。二度とチェルノブイリのようなことをしてはいけない。
情報はきちんとディスクローズし、とりわけ子供と妊産婦を守らなければならない。
――福島の子供たちは、皆疎開させるべきだ…。
菅谷 松本市では、市営住宅や教員住宅を利用して学童を持つ避難家族の受け入れを
行っている。こういったことは、政府が考えなくてはならないことだ。先日発表され
た米国のデータをみると、福島県が広範に汚染されていて、それはかつて私が住んで
いたチェルノブイリの汚染地の値よりも高いものだ。正確に内部被曝検査をするには
高度な設備が必要で、大人数を一気に行うことはとても難しいが、せめて子供たちに
は長期にわたり定期的な健康診断を行う必要があるのではないか。
――現在、汚染された地域にいる人たちが自分の身を守るには…。
菅谷 放射能災害から自分の身を守るには、とにかく逃げるしかない。本当に心
配するのであれば海外へ、日本国内であれば西の方へ。それも難しければ、比較的汚
染の少ない場所に住むしかない。放射性物質は大気中に浮遊し、風によって飛んでい
く。そして、雨が降ることで地表に落ちる。チェルノブイリでは、原発から300キ
ロ離れたところまで放射性物質が運ばれて汚染地になったところもある。日本で
も、神奈川県のお茶の葉や長野市の汚泥からセシウムが検出されたことを考えると、
放射性物質はあらゆるところに飛んでいると考えられて当然だ。そういった国民の不
安を少しでも解消するために、地域毎にセンサーを設置して放射線量を明確にし
たり、食品に安全表示を義務付けたりする必要がある。こういったことに対して、国
はもっと迅速に動くべきなのに、まったく国民の気持ちが分かっていない。この政府
の危機意識の無さは、経験が無いからなのだろうか。日本の政治を動かしている方々
が党派を超えて、今の福島の状況をもっと自分のこととして捉え、「自分の子供だっ
たら、自分の孫だったらどうするか」という思いで、すべてのことに、政治屋ではな
く、真の政治家として真正面から取り組んでもらいたいと、つくづく思う。(了)
菅谷昭氏……01年にベラルーシ共和国より帰国し吉川英治文化賞受賞。04年3月
14日に松本市長選で初当選。同28日に同市長に就任。