福島炎上)核の惨事を解剖する。オーストラリアの放射線医師の書いた記事 #fukushima #genpatsu #higai #australia RT @tiniasobu
2011/06/01
福島炎上:核の惨事を解剖する
http://peacephilosophy.blogspot.com/ のブログおよびMLからの引用です。
煙流のところの誤記を修正して掲載します。
オリジナルももとのブログで読めます。
以下引用です。
ピーター・カラモスコス
(オーストラリアの放射線専門医。同国「戦争防止のための医学協会」会計役でも
ある)
翻訳 田中泉
原子炉が過熱すると何が起きるのか?
炉心が冷却剤の欠如で過熱した場合、最終的には溶融する。残りの水はただちに蒸
気に変わるため、水の補給が妨げられ、圧力容器の健全性が揺らぐ。さらには原子炉
の圧力容器までもが溶融する可能性がある。第一次および第二次格納建造物(コンク
リート)がダメージをこうむっていれば、溶融した燃料は外に漏れ出し、環境中に放
出されうる。使用済燃料は25度前後の冷却プールの中に数十年間保管されている。
この温度を保つために水が継続的に補給されなければならない。補給に失敗して水が
カラになると、使用済燃料は過熱・発火し、含有する放射性毒物を放出する。注意し
たいのは、炉心の中で放射線を照射されていた時間が長ければ長いほど燃料には核分
裂生成物が蓄積されるため、よりいっそうの放射性を帯びるということだ。また、そ
の汚染によって燃料の寿命も限定される。燃料棒中のウランのうち実際に原子炉の中
で消費されるのは約1-2%に過ぎない。環境中に放出された際に最大かつ直ちに危
険となるのは、これら核分裂生成物なのである。
放射性降下物とその健康への影響
原子炉から出る放射性降下物は、2つのグループに分けられる。化学反応性が非常
に低く、比較的半減期が短い希ガス(キセノン、クリプト133)の同位体は体内に
はとどまらず、土壌にも沈着せず、空中に分散・残存する。そのため、健康におよぼ
す有害な影響は限定的である。2番目のグループは、おもにヨウ素、セシウム、そし
てテルリウムの放射性同位元素に代表される、より危険な放射性降下物である。これ
らの元素は大気中で微細な浮遊物(エアロゾル)を形成する。それらは大気中に放出
されると自身の重みによって徐々に地表に降下し、そのときにすべての植生、衣服な
ど、あらゆる表層を汚染する。水資源も含まれる。
最も健康への脅威となるのは、セシウム137(半減期30年)とヨウ素131(
半減期8日)である。ヨウ素131はベータ放出体で、吸入と(食物)摂取を通して
血流の中に吸収され、甲状腺によって集中的に取り込まれる。主として18歳未満の
若者にとっては、きわめて[甲状腺における]発がん性が高い。セシウムはガンマ及び
ベータ放出体である。やはり呼吸器系統と胃腸系統を通じて体内に吸収される。やが
て血流にも入り、体中に溜まっていく。セシウムはその半分が体から排出されるまで
に10日から100日を要するので、いちど吸収されてしまうときわめて危険だ。数
か月で危険性をほぼすべて失うヨウ素131とは異なり、セシウムは環境中に数百年
間、有害なものとして残る。
ではどれだけの放射性物質が放出されたのか? チェルノブイリと比較すると?
空気伝搬の場合には、風向き、汚染の分散が始まる前の高度、放出開始から終了ま
での時間など、変数が多数存在しているため、汚染の広がりは均一になりにくい。し
たがって、原発からの放射状のゾーンについて語られているが、放射性物質の降下は
同心円を描くというよりも、むしろ煙流になる可能性が濃厚であ。煙流になる可能性
が濃厚である。さらにいえば、ジェット気流が向かう先である米国の西海岸の方が、
例えばより日本に近いカナダ北部に比べておそらく高いレベルの汚染(とはいっても
これだけの距離があるのでごく微量だが)に見舞われるだろう。汚染は北半球全域に
広がるとみられる。たしかに、北半球のほぼすべての観測地点ですでに微量が検出さ
れている。赤道には、汚染が南半球に到達するのを阻止する「エア・カーテン」とも
いえるものがある。
原発の爆発が起きてからまもなく、20km圏内が避難指示区域に設定され、20-30km
圏内の住民たちには屋内退避勧告が出された。IAEAと米国の原子力規制委員会は、こ
れを不適切であると示唆し、80km圏内への避難指示区域の設定を助言した。
包括的核実験禁止条約(CTBT)放射線核種探知観測所のデータを使ったオーストリ
ア中央気象・地球力学研究所の計算によれば、最初の3日間に放出されたヨウ素の活
量はチェルノブイリの全放出量の30%にあたり、セシウムでは60%であった。チェル
ノブイリから放出された降下物の量は、現在までの福島の量をはるかに上回る。とは
いえ地球上の人間や環境に対する危険のおおよそは、ヨウ素131とセシウム137
によるものである。そして、それらが福島の降下物の主要な構成要素なのだ。
また福島には使用中及び使用済燃料1700トンがある。そのどれだけが損傷して
いるのか不明だ。一方チェルノブイリの場合、燃料はわずか180トンしかなかった。
したがって人の健康に関していえば、チェルノブイリと福島の比較は有効である。
当初に比べれば低い度合いとはなっているが、以後も放出は続いている。だが、福
島沖の海が広範に汚染されていることにも留意したい。原子炉の冷却に使われたあと
の汚染された海水の流出は衰えるところを知らず、一日7000トンのペースで続い
ている。法的限度量の4300倍にあたる放射性ヨウ素の集中度が計測された。汚染され
た海水を意図的に海中に排水する方法も検討されている。海水汚染はしばらく近海の
魚資源を危険にさらすだろう。津波をかろうじて免れた残存漁業も、これによって破
壊されている。
フランスの放射性防御・核(原子力)安全研究所(IRSN)は、「原発から20km圏内
の汚染濃度はチェルノブイリを超えるだろう」と予測している。また「福島周辺60km
にまで及ぶ高濃度汚染区域」ができ、チェルノブイリの同様の圏内と比べて汚染度は
低いものの、「劇的な影響でなくとも、計測可能な影響」がみられるだろうとしてい
る。その汚染区域外では250km先まで計測可能となるだろうが、人体への影響は測定
レベルには至らない。
IAEAが勧告(そして日本当局が無視)した、さらに広い避難区域についてはその正
当性が立証された。原発から43kmほども離れた地点のホットスポットの存在を示す観
測結果がのちになって出たためである。そこでの活量のレベルはチェルノブイリの強
制避難区域に匹敵するものだった。
電離性放射性物質(IR)が人体にその有毒な影響を伝達するメカニズムは2つあ
る。まず、生物組織中の原子に電離性放射物質のエネルギーが移ると、その原子は電
気量が変化し、フリーラジカル(訳注:少なくとも対を成さない原子1つを持った原
子または分子団)が形成される。それが次に細胞内の遺伝子(DNA)を損傷し、遺
伝的な変異につながる。 そして、電離的放射性物質が細胞核の中を通過するので、
その過程で直接的な遺伝子の破壊が起こる。するとこれによって細胞の通常のメカニ
ズムが働かなくなり、ガンが起こりやすくなる。ガンは10-50年、またはもっと
長いあいだ発症しないかもしれない(潜伏)が、白血病の場合たった5年ということ
もありうる。電離性放射性物質は、世界保健機構の国際ガン研究所によって第一級の
発がん物質に分類されている。その発がん性の確かさから最上位に入れられているの
である。
電離性放射性物質による人体への影響は2種類認められている。
まず、確定的影響である。確定的影響の重大度は、吸収された放射線量に直接的に
比例する。これには、皮膚の損傷と、骨髄への影響による血液疾患も含まれる。例え
ば皮膚の放射性火傷などは、放射線量が高ければ高いほど結果は悪い。これらには、
個人差があるとはいえ、それ以下は発生しなくなるしきい値が存在する。このしきい
値は、造血作用が損なわれ始める約100ミリシーベルト(mSv)である。約100
0ミリシーベルトを超えた場合の確定的影響から来るのは、嘔吐、下痢、呼吸器・胃
腸系統の粘膜の脱落、骨髄抑制と不妊などの急性放射性障害である。いったん線量が
3000-5000mSvを超えてしまえば、数日ないしは数週間で死亡する可能性が高い。
つぎに確率的な影響である。確率的というのは、本来「見込み」ということだ。言
い換えれば、線量が高ければ高いほど発生のチャンスは高いが、いったん発生すれば
その重大度は元の線量がどうあれ同等ということである。確率的影響の主なものはガ
ンである。電離性放射性物質の線量が低いほど、ガンにかかるチャンスは低くなる。
しかし、ガンの種類と最終的な結果は、ガンの進行に関するリスク係数とは無関係で
ある。それは現在、1000mSvごとに約8%(12に1)となっている。またガンによ
る死亡は5%(20に1)とされている。
米国国立科学アカデミーは、100mSv以下の低レベル電離性放射性物質のもたらす影
響について、報告書の中で次のように結論づけている。「・・・電離性放射性物質へ
の被曝と人間における固形がんの進展との間には、線量と反応という直線的な関係性
がある。それ以下になるとガンが誘発されないという、しきい値は恐らく存在してい
ない」。
職業的な許容線量の上限が250mSvまで引き上げられたため、現在福島の緊急労働者
のあいだには確率的影響が出てくる可能性が高いだろう(それまでの総許容線量は5
年間で100mSvだった。公衆の年間許容線量は1mSvだ)。2号炉の高濃度放射性汚染水
に入った2人の緊急労働者の足に放射性火傷が誘発される事例が起きているが、その
一回の事故の線量は計180mSvだった。
職業的な被ばく線量を抑えるために、600人の労働者がローテーション体制で雇
われている。改定版の許容線量を超えないために、今や海外からの人材の雇用も必要
となった。これらの労働者の中に、被ばくによってガンを発症し、死亡する者が出る
可能性はひじょうに高い。現在までに、急性放射性障害の例は報告されていない。
長期的にみた確率的影響についてみきわめるのはさらに難しいだろう。[日本は]も
ともとがんの発症率が比較的高い国だし、平均寿命も高いからだ。あの避難区域は不
十分だが、原発からほど近い地域の住民のすみやかな避難が行われれば、かつ放射性
物質降下の多い日の海からの風を避けるならば、これらの影響は最小限に抑えられる
だろう。またヨウ素131の甲状腺への摂取を阻止するために、リスクが大きい子ども
や若者に対してヨウ素を持続的に投与すれば甲状腺がんの進展は大きく抑えられるこ
とになるだろう。
ガンの誘発に関するリスクモデルを使うことは、これからの60年間のガンの発症
を予測するために可能ではある。だがしかし、一般大衆のあいだにガンがどれだけ増
えても、我々がその実数を知ることは決してないかもしれない。たとえ事故から数十
年経ったのちであっても。それは、そこに統計的な限界と、多数の不安定要素がある
からである。これは非常な低線量の場合にとりわけ当てはまる。唯一の例外は、甲状
腺がんだ。甲状腺がんは悪性腫瘍としては珍しいので、統計的な検出も簡単だろう。
危機の解決にはどれほどの時間がかかるか?
すべては何をもって「危機の解決」とするのかによる。原発から大気、海水、土壌
への[放射性物質]排出が続いている。それを止めるために日本政府は「数か月」とい
う目標を立てた。これは願望であり、必ずしも実現可能性が高いわけではない。その
ことに注意が必要だ。原子炉の全体を石棺化するなど、もっと大胆な手立てが必要だ
と考えられる。石棺化のコストは推定120億ドル以上だ。もちろん福島第一原発す
べてがご破算にされるべきである。ダメージを受けていない5号機と6号機でさえ、
汚染が重大だからだ。放射性物質で汚染された場所の清掃には莫大な費用と時間がか
かるし、とても危険だ。もし原発をコントロール下におくことが可能だとしても、原
子炉を廃炉にし、敷地を除染するのには30年以上かかる。費用は「120億ドル以
上」だろう。
もちろん、それは日本の悩める納税者に対する賠償額の上限とは別だ。バンカメと
メリルリンチは、福島の惨事による経済的損失に対する[東電の]賠償額は最高1300億
ドルと見積もっている。廃炉の工程だけでも東電は破産する見込みが高い。そうなる
と反則的に日本の納税者に莫大な債務がのしかかる。
世界の原発ではすべて、事業者は主要な事故の際の賠償責任に上限がない限り、稼
働の開始を拒否する。それと違って1961年の原子力損害賠償法では、被害補償額に上
限が設けられていない(訳注:電気事業連合会のホームページには「2009年(平成21
年)の原賠法改正により、現在1サイトあたり最高1200億円となり、適用期間が10年
間(2019年末まで)に延長されました」とある)。だがもし事業者が倒産すれば、債
務は納税者へと移行する。この惨事が過ぎ去ったのちに日本の納税者たちは気がつく
だろう。保護が必要なのは核(原子力)企業ではなく我々の方だ、と。
引用終わり