本作り)『奇跡の海―瀬戸内海・上関の生物多様性』という本がまもなく出ます
2010/09/02
8月はじめに、沖縄の久高島から山口にもどって、激しい日々に突入しました。
生物系の研究者たちの原稿をまとめる本作りです。7月末に締め切った原稿を編集
するだけ、ならまだ簡単ですが、もう締め切るよー、とアナウンスしたのが7月25日
ですから、むちゃくちゃです。のんびりしていた人には1週間しかありません。
それでも10月に名古屋で開かれる第十回生物多様性条約締約国会議(COP10)まで
に本にしようというスケジュールですから、もう8月中に原稿がすっかり完成しなけ
れば、望みはありません。
しかも、すぐ印刷屋さんに渡せる形(版下)になっていないと間に合いません。
でも、そもそも自分の原稿だってできていないのです!
自分でも書きつつ・他の人の原稿を督促しつつ・届いたものからチェックして修正
をお願いし、版下づくりのソフトウェアに挑戦というマルチな仕事を、シンガーソン
グライター学者の山下さんと進めました。版下ができてきてからは、お互いに読みま
したが、佐藤正典さん(鹿児島大)が、非常に丁寧にみてくださり助かりました。い
ろいろな山を越えて、おかげさまで、今日、印刷所に渡すことができました。
おもえば10年まえ、初めてワープロソフトに写真や図を貼り込むことを覚え、1週
間で70頁ほどの報告書をつくりました。屋久島からもどって西アフリカのガボンに
行く間の10日ほどの間でした。そうやってできたのが
『長島の自然―周防灘東部の生物多様性』です。
http://www.esj.ne.jp/chugokushikoku/research.html
2年前から丸1年かけて 数学者のKnuth先生が開発したTeX(テフ)を日本語用に移
植したpLaTeX2eという組み
版ソフトでB5版614頁の本をまとめました。アフリカのバンツー語のアクセント
記号が打てるソフトがほかにみつからなかったからです。図を500枚貼り込むのは大
仕事でした。
安渓貴子著『森の人との対話-熱帯アフリカソンゴーラ人の暮らしの植物誌』
http://www.aa.tufs.ac.jp/book/publist/new_pub2008.pdf
そして、こんどは、Adobe社のInDesign CS4 です。これは、沖縄の友人の当山さん
にそその
かされて買ってあったのですが、いよいよ尻に火がついて、手探りで始めました。機
能の10分の1ほどしか使っていないのでしょうが、それでもだんだん使えるように
なるから、実際にやりながら覚える(OJT = on-the-job trainingの)力で、写真を貼
り、図を入れ、表を
作り、最後にカラー口絵を作りました。
前書きと目次と宣伝ビラをご覧下さい。
良い本です、きっと。いろんな方に読んでもらいたいです。たとえば、
電力会社での勉強会に使いたいとまとめて注文がこないかしら。
以下引用。
はしがき
白砂青松の瀬戸内海が開発によって失われて何十年かの年月が流れました。ところ
が,瀬戸内海の西の端の周防灘には失われたはずの生き物たちが生きのびている奇跡
の海が今もあったのです。それがこの本でとりあげる山口県の上関の海です。そして
ここに原子力発電所の計画が浮上してやがて30年の歳月がたちます。
原子力発電所建設を進めることを前提として事業者がつくった環境影響評価書の内
容を知った私たちは,やむにやまれず,手弁当での現地調査を重ねました。その結果,
このままではこのすばらしい海が失われてしまうことに気づきました。私たちは今,
子や孫の世代に,瀬戸内海がよみがえる喜びの日を迎えることができるかどうかの瀬
戸際にあるのです。
私たちの研究の結果を踏まえて,日本生態学会・日本ベントス(底生生物)学会・
日本鳥学会が学会として公式にこの原子力発電所計画への異議を申し立ててきました。
とくに,4000人の会員がいる日本生態学会では,自然保護専門委員会をもうけて大切
な自然を守るための活動の一環として,「要望書」という形で学会の意見をまとめて
います。この本の執筆者の多くは,上関原子力発電所にかかわる要望書が実際の効力
をもって生き生きと働くようにするための「日本生態学会上関要望書アフターケア委
員会」のメンバーです。1~3章の意見は執筆者個人のものです。学会の公式見解は第
4章をごらんください。
私たちは,日本の原子力政策に学会として反対するという立場ではありません。す
ばらしい日本の自然とその生物多様性を将来に手渡すために,いまこそ真実の研究を
し,その成果を社会に発言していかなければならないと感じています。それが,ボラ
ンティアでこの「もうひとつの環境影響評価書」をつくった原動力となっています。
この本では,いろいろな分野の専門家が,できるだけ難しい言葉を使わないで身近な
自然のすばらしさを具体的に紹介しています。ですからお好きなところからページを
開いていただければ幸いです。
執筆者を代表して 安渓 遊地
(日本生態学会上関要望書アフターケア委
員長)
目 次
口 絵1
はしがき 安渓遊地7
序章 瀬戸内海の原風景と生物多様性 加藤 真11
第1章 奇跡の海の生物たち
1.1カサシャミセン 加藤 真24
1.2 長島田ノ浦周辺の海産貝類 山下博由27
1.3 上関の多毛類相 佐藤正典46
1.4 長島のイボカギナマコ 今岡 亨55
1.5上関のナメクジウオ 佐藤正典57
1.6ミミズハゼ類の聖地 加藤 真62
1.7 カンムリウミスズメとオオミズナギドリ 飯田知彦64
1.8 瀬戸内海のスナメリの現状と保全 粕谷俊雄76
第2章 海をはぐくむ山の豊かさ
2.1カラスバトとハヤブサ 野間直彦・飯田知彦110
2.2長島の植物 安渓貴子・野間直彦114
2.3長島の哺乳類 金井塚 務124
2.4長島の昆虫 加藤 真133
2.5長島田ノ浦海岸のヒトハリザトウムシ 鶴崎展巨139
2.6長島田ノ浦のベンケイガニ類 佐藤正典142
2.7長島田ノ浦付近の地形・地質 小泉武栄146
第3章 市民科学者の時代へ
3.1上関原子力発電所の環境影響評価の問題点 安渓貴子 158
3.2入会地の利用を証明する 野間直彦172
3.3生き物たちの声に耳を澄まして 高島美登里180
3.4高木仁三郎市民科学基金がめざすもの 菅波 完189
3.5瀬戸内海がよみがえる日 安渓遊地195
第4章 学会の要望書
4.1 上関原子力発電所建設計画への学会の取組 安渓遊地・佐藤正典206
上関原子力発電所計画をめぐる主な出来事(年表)207
4.2 日本生態学会関係208
4.3 日本鳥学会関係220
4.4日本ベントス学会関係224
4.5 三学会合同232
執筆者紹介 235
写真等の情報提供協力者一覧236
編集後記 安渓遊地237
長島田ノ浦の主要生物リスト(希少種・絶滅危惧種を中心に)
貝類42
多毛類(ゴカイの仲間) 53
植物122
哺乳類125