上関)長島の自然を「瀬戸内海最後の楽園」として『赤旗日曜版』が紹介
2010/06/11
赤旗・日曜版 2010年6月6日版に掲載された記事です。
一面全部使った記事を画像とpdfで、本文の一部で研究者が協力した部分を以下に
テキストで紹介します。
◎よみがえれ里山と水辺 山口県上関 瀬戸内海最後の楽園
中国電力が原子力発電所を建設しようとしている山口県上関(かみのせき)町。希
少な生物が生息する生物多様性の宝庫(ホットスポット)であることがわかってきて
います。〝瀬戸内海の最後の楽園を埋め立てないで〟と市民や研究者が声をあげてい
ます。
君塚陽子記者
山口県の南東に位置する上関町長島。その突端にある田の浦湾が埋め立て予定地で
す。湾を囲む森林はほんのり明るく、薪炭林として利用されてきた典型的な里山です。
潮が引いた浜にはいくつもの潮だまりが。
埋め立てや護岸工事によって瀬戸内海は、自然海岸がわずか2割に。ところが長島
の75%は自然海岸のままです。
「広島で育ち、上関に来て、こんなにきれいな瀬戸内海があったのかと驚いた」と
話すのは、「長島の自然を守る会」代表の高島美登里さんです。
「会」や研究者が調査した結果、ほかの地域では絶滅や絶滅にひんしている生き物
が数多く見つかりました。
京都大の加藤真教授はその理由を、「上関など周防灘には、自然のままの磯や干潟
や藻場が残され、生物多様性が豊かで、水産資源が豊富だった瀬戸内海の原風景が残
されているから」と説明します。
瀬戸内海は多くの川(水)が流れ込むため栄養が豊かで、低塩分・低温という特徴
があります。冷水性のイカナゴが育ち、独特の食物連鎖を形づくりました。加藤さん
は、「日本は先進国でも随一の海の生物多様性を誇ります。その背景にはこうした内
海の豊かさがあります。これをつぶすことは瀬戸内海再生の可能性を奪い、国益を損
なう」と警告します。
今年2月、日本生態学会、日本ベントス(底生生物)学会、日本鳥学会は合同で、
国と中国電力に「埋め立て工事の一時中断と適正な調査の実施」を求めました。3学
会は、2000年から繰り返し、のべ12回に及ぶ要望書を国や中国電力に提出。こ
れは「異例」と政府も認めます。
研究者が特に危機感を持つのは、原子力発電所が海に与える影響です。海水を冷却
水として取り込み、水温を7度上昇させた温水として吐き出すからです。その量は1
カ月間で、水深?50㍍、沖合1㌔㍍×海岸線10㌔㍍の海域の海水を入れ替えるほ
どの量です。
鹿児島大教授の佐藤正典さんは、「閉鎖的な内海にこれほど大量の温水を出し海を
温暖化するだけでなく、発電所のパイプに生物が付着しないよう塩素が投入されます。
多数のプランクトンが冷却水と一緒に吸い込まれ、熱と塩素で殺されます。魚介類の
子も含まれます」と危ぐします。
予定地では森林を切り開き、陸地部分の造成が急ピッチです。山口県知事は中国電
力に公有水面の埋め立てを許可しました。
高島さんは、「不登校の子どもたちが潮だまりで遊んで初めて笑顔を見せてくれま
した。自然はそんな生きる力を与えてくれます。生物多様性条約の締約国会議が今秋、
日本で開かれるのに」と顔を曇らせます。
◎上関原子力発電所計画って
中国電力が山口県上関町長島に、137万3千㌔㍗2基の改良沸騰水型原子炉を建
設する計画。1982年に計画が浮上。環境影響評価や用地買収を進め、2009年
12月、経産相に1号機の原子炉設置許可申請書を提出。(
◎上関周辺で見られる生き物①カンムリウミスズメ 日本にのみ生息 写真
2008年に生息が確認された。体長約24㌢㍍の海鳥。世界中で日本近海のみに
生息し、その数は推定4千~1万羽。一生を海で過ごすため生態になぞが多く、「ヒ
ナも含めて見つかったのは珍しい」(日本鳥学会鳥類保護委員会副委員長、佐藤重穂
さん)。国指定の天然記念物。
◎上関周辺で見られる生き物②スギモク 限られた生息条件 写真
全長20~40㌢㍍、日本海沿岸に分布する海藻。瀬戸内海では田の浦と姫島のみ
に分布。水深2㍍前後、砂が堆積(たいせき)する岩場、塩分が低い、など限られた
条件下に生息します。
◎上関周辺で見られる生き物③カサシャミセン 生きた化石 写真
古生代に栄えた「生きた化石」の腕足類。笠状の殻を岩に密着させて生息し、大き
さは数㍉㍍~1㌢㍍。貝に似ているが、海水をろ過して餌をこし取る独特の器官を持
つ。汚染・汚濁に弱い。
◎上関周辺で見られる生き物④ イワタイゲキ 各地で絶滅が危ぶまれ 写真
海岸の岩場に根を張るトウダイグサ科。関東以西の本州、四国、九州などに生息す
るが、埋め立てや護岸工事で姿を消しつつある。準絶滅危ぐ種(広島)、絶滅危ぐⅠ
類(香川)などに登録。