上関)「中国電力には埋立阻止の人々を訴える資格はない」という投稿が届きました
2010/06/02
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下関の上里恵子(あがり・けいこ)さんから原稿を送っていただきました。
ありがとうございました。
中電の書類を読む、中電や県に申し入れをする、新聞などの情報を読む、その中で
知ることができた事柄をまとめたものだそうで、相模原で原発井戸端会議というグルー
プが発行しておられる、「I*do!(いど)」というミニコミ紙に掲載されたものに
加筆したものとのことです。
以下、引用です。
虚構の中の上関原発計画
[中国電力には埋立阻止の人々を訴える資格はないと思う]
上里 恵子
一昨年(2008年)10月、山口県は原発計画地田ノ浦湾等の埋立を許可し、計画
は一歩進んだかに見えます。行政も業者も、いつも一歩進めては「過去には遡らない」
と言います。しかし、それは適正な検討の下に進められていることなのでしょうか?
原発を造ることを既定の事実とし、その都合に合わせた積み重ねとしか思えないこ
とが、中電の提出書類の内容、県や国の対応などから分かります。
そもそも、瀬戸内海の埋立に関しては、「瀬戸内海環境保全特別措置法」第十三条
で「都道府県知事は・・」と県知事への義務付けがあり、「公有水面埋立法』第二条
一項の免許」に際しては、「瀬戸内海環境保全特別措置法」第三条一項の瀬戸内海の
特殊性への配慮が必要なはずなのです。
特殊性とは、『瀬戸内海が、わが国のみならず世界にあいても比類のない美しさを
誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国
民が等しく享受し、後代の国民に継承すべきもの・・』ということなのです。ところ
が、県が埋立免許を与えるに際して適用した法律は「公有水面埋立法」のみ。
それも、「埋立てて何ができるかは関係ない。」というのが申し入れで分かる県の
スタンス。温排水や放射能での追求をかわし、取り合えず埋立の既成事実を業者に作
らせて置こうということなのでしょうか。
折りしも四つの学会が合同で「稀に見る生態系の豊かさ」を理由として、埋立の見
直しを訴えているほどの計画地を、「埋立てないで」と申し入れている市民団体を前
にして、中電が「公有水面埋立免許願書」で目的を明記しているにもかかわらず、「
何ができるか関係ない」と発言するとは何とグロテスクな場面であることか。
さて、この「公有水面埋立免許願書」には「立地選定の理由」という項目があり、
二つの調査に基づくとあります。一つは1985年の「事前調査」。これは上関町に「適
格候補地である」と報告されたものです。理由は分かりませんが原子炉建屋の敷地で
のボーリング調査が希薄で、北からの取水・南側への放水に関わるパイプ位置では濃
厚な調査が行われているのに、埋立てる湾でのボーリング調査は全くありません。
もう一つの調査は、それを補うような個所でボーリングを行った、1994~1996年実
施の「立地環境調査」。この調査は、漁協の同意を得て行ったとしているのですが、
その結果については、どこにも報告をしなかったと中電は言います。では、免許を与
えた県は、どのようにして「立地選定の理由」を納得することが出来たのでしょうか。
自然の生態系の上からも非常に貴重でもあり、祝島を始めとして海の恵みに暮らし
を依存するものにとっても、埋立は絶対に困ると言っている計画地の、「選定の理由」
も定かでないままで、県は埋立の免許を与えてしまったのでしょうか。
さらに、この「公有水面埋立免許願書」には「環境影響調査書」が添付されていま
すが、その海藻調査には「スギモク」の記載がありません。1999年の環境影響評価準
備書面のあまりのズサンさに、知事が「情報が希薄であるため調査地点を追加して」
調査するよう求め、中電は2000年に追加調査を行うのですが、それすら完全なもので
はないことがこれで分かります。研究者によれば、スギモクは瀬戸内海では、ここ田
ノ浦と大分県姫島で特異的に見られるものと報告されています。(新井章吾氏・㈱海
中景観研究所)
中電は、田ノ浦を「どこにもある平凡な海であり、埋立てても特段困らない」とい
うスタンスを取ろうとするため、特異的にスギモクがあるとは認める訳にはいかない
のでしょう。
更に問題は、この「環境影響評価書」が、2001年、国によって「確定」されている
ことです。国立公園に作られようとしている原発の是非を考えるための書類がこのよ
うに手軽に扱われていることに驚くばかりです。
また、埋立対象の「取水・放水・原子炉建屋が設置される田ノ浦湾」では動・植物
プランクトン、魚卵、稚仔魚、4種の調査が行われていません。これらの生物が原発
からの温排水の影響を受けることが明らかであることが、(財)海洋生物環境研究所が
2004年にまとめた調査によって分かります。
この調査は、経済産業省原子力安全・保安院の委託をうけて1996年から2003年に行
われたものをまとめたものです。調査はこの4種の生物だけが対象となっており、温
排水の影響を考察する時に欠かせない生物だと分かります。その結果によれば、魚卵、
稚仔魚は取水口で取り込まれたものの内、30%位しか生き残れないことが分かったと
しています。
湧き水の恩恵を受け、海藻は豊かに茂りそこで命を育む小さな生き物たちが楽園の
ように暮らす田ノ浦湾の実態を、前以て明らかにしないで、闇雲に埋立てるやりかた
には、自然への畏敬などカケラもなく、「原発を造る都合に合わせただけの書類」に
基づく諸検討なのだと分かります。
肝心の温排水の拡散範囲の算出に当っては、用いられた指針は1987年のもの。関係
所管庁に保管されていないほど旧く、1991年の手引書の拡散目安と比較すると約3分
の1の過少評価になっていると思われます。中電は「設置許可申請書」の説明会で心
配する漁業者に対して「温排水の影響は広範囲に広がるものではない。」と話してい
ます。海水が入れ替わるのに1年半、平均38mの浅い海、干満が作る潮流のみという潮
の流れは、瀬戸内海に7箇所の停滞性水域を作っていますから、温排水拡散について
の検討は慎重でなくてはならないはずなのです。
このような状態の中、昨年12月、強引な印象で「原子炉設置許可申請書」を国に提
出しました。この中で、使用済燃料については「国内の再処理事業者において再処理
を行う」としていますから、放射能による環境汚染は免れないことがわかるのですが、
「放射能は五つの壁でガードして規定値以下とするので懸念することはない」と宣伝
しています。
こうして、作為的な情報を操って原発設置へと誘導する中国電力。まだ設置許可が
下りてもいないのに、町議選を前にして説明会を開いたことについても町民への誘導
作戦ではなかったかと疑問を持ちます。
これら無理な行為を重ねることでしか進めることができない計画を持つ中電には、
埋立に抵抗する人々に対して「妨害行為である」と訴える資格は無いだろうと考えて
います。
添付の図の説明:タイドプールで発見されたカクメイ科の貝を囲い込むこと
で「保全」するという中電の計画。
これで「専門家」の指導があると言えるのでしょうか?
http://www.energia.co.jp/atom/kami_eco1.htmlからの引用です。