あのころ)腸カタルの菌が心臓に来て15歳の私は急に大人になった #奈良女子大学文学部附属高校 RT_@tiniasobu
2020/07/05
高校の同窓会誌に何かかかんかと言われて書いたものです。はるかな後輩で、文化人類学を専攻している人から『調査されるという迷惑』の著者のひとりが高校の先輩だったなんて、とメールがあったのは、うれしい驚き。
腸カタルの菌が心臓に来て15歳の私は急に大人になった
安渓 遊地(あんけい・ゆうじ、昭和45年卒業、山口県立大学名誉教授)
附高の3年間、私は「心臓が弱い生徒」扱いで、水泳の授業は見学だった。発熱と下痢を主な症状とする胃腸炎が「心臓に来た」のだ。医学的にはあり得ないこのできごとには、先生方の熱意だけではカバーしきれなかったお金の問題が潜んでいる。
きっかけは夏場の水泳の授業だった。水道代が高くて水を入れ替えられなくて、緑の水をたたえたプール。初めての水球の練習の後、その日は某大学の物理の先生の家を訪れる曜日だった。数学の勉強と物理の雑談が終わって西大寺駅まで歩く途中、道路が波打って見えだしてきた。とても歩き続けられない。先生の家にもどり不調を告げると、医師の往診を頼んでくださった。熱とその他の症状をみて、腸カタルという診断がつき、お尻に抗生物質の注射をしてもらった。硫酸カナマイシンというその名前は空前の痛さとともに記憶された。原因は、その日の授業中にプールの水がのどに入ったこと以外は思い当たらない。
さて、当時の私の主治医は、宇治市大久保で小さな診療所を営むH先生だった。「よう効く薬はこわい」が口癖で、薬袋には「高貴薬」の赤いハンコが押されていた。なんとか今後は水泳の時間を見学で済むような診断書をとお願いした。
H先生「子どものころから腸が弱いため水泳の授業を休むように、というのでは学校が困るやろなぁ……。そや! どうも君は、心臓が人より小さいようだぞ。そう書いておこう。」
その診断書を学校に提出したあとのこと。職員会議での報告があったのか、通学電車で隣り合わせた先生方が心配でたまらないような表情で声をかけてくださるのだ。
「君、心臓が弱いそうやな? 大丈夫なんか?」
なぜ心臓が弱くなってしまったのか、本当の理由を説明できるはずもなく、
「え? あぁ、はいはいはい。なんとかそれなりに元気でやっております。ありがとうございます。」
と答えながら、附高の先生方の暖かさに包まれて、自分が急に大人になっていくのを感じていた。
附属高校の想い出 http://ankei.jp/yuji/?n=1951
武部利夫先生 http://ankei.jp/yuji/?n=1694