書評)花崎皋平さんが『出すぎる杭は打たれない』をおすすめしてくださいました
2010/03/18
北九州の水巻町で『北九州かわら版』というミニコミがあり、最近は『田を作る』
と改題されて発行されてきています。その発行人の村田久さんとのご縁で、こんな書
評をしていただきました。
花崎さんとは1992年、木戸宏さんの「シサムの会」が主催するアイヌモシリの
旅に家族で参加させていただいた時にお会いしました。敬愛する先輩からの暖かい書
評に、感激です。
安渓遊地・安渓貴子著『出すぎる杭は打たれないー痛快地球人録』(みずのわ出
版、二〇〇九年)のおすすめ
花崎皋平
安渓遊地・安渓貴子著『出すぎる杭は打たれないー痛快地球人録』(みずのわ出版、
二〇〇九年)を読みました。とても快い読後感が残りました。著者がかかわりを持っ
た痛快地球人の6つの例を、軽やかな筆致で紹介しています。
世界一周した看護学生、自社の公害輸出を告発した労働者夫婦、エリートビジネス
の世界や国際協力活動に従事した後、生まれ育った種子島へもどって暮らす人、自然
農法の農業と菓子作りを両立させている自由人、スペインで農家民宿を営んでいる家
族、屋久島の詩人などが登場します。
「出すぎる杭は打たれない」という書名となった人は、私たちに親しい村田久、和
子夫婦です。三菱化成黒崎工場で働きながら、マレーシアのブキメラ村に作った同社
の子会社が放射性物資を含む廃棄物を周囲に棄てて住民に健康被害をもたらしたこと
を知り、二人だけで会社を告発する運動を始め、ついに撤退させた痛快物語が、二人
の人生の歩みと共に語られています。
最後の第七章は、「足元から平和を作る」という見出しで、著者の日常が語られて
います。瀬戸内海の周防灘に注ぐ山口市ふしの川の最上流部に住み、家を手作りし、
田んぼを作り、そこで取れた玄米を食べ、産業廃棄物処分場建設を食い止め、環境を
守る活動、瀬戸内の原子力発電所建設に対し、原子力によるエネルギー供給への反対
に加えて、地元の海の生物多様性を失わせることになるということでも反対する運動
へのかかわり、足元からの、一人でできる反戦平和運動などを追求している姿はさわ
やかです。遊地さんは人類学、貴子さんは生態学の研究者ですが、上空から下を見下
ろす研究態度ではなく、地に足を着けて生きる人びとの仲間になりながら研究する「
はだしの研究者」タイプなのでとても好感が持てます。私はアイヌの人びとと交わり
ながら、研究と称する搾取と利用の例を見聞きしてきましたので、お二人のあり方に
尊敬を覚えます。
亡くなったアイヌの長老萱野茂さんの民具資料館には安渓さんが寄贈したアフリカ
の民具がありました。
この本は、知識や理論に生きる人相手ではなく、地域に根ざして環境、食べ物、水、
人権、平和といったことに実践を通じて取り組んでいる人を相手として、実践の交流
と連帯を願う本であると思いました。肩肘張らずにするすると読める本ですので、ぜ
ひ一読して下さい。
おまけ、花崎さんの本Wikipediaより
著作 [編集]
生きる場の哲学―共感からの出発 岩波書店 ISBN 978-4-00-420147-2
生きる場の風景―その継承と創造 朝日新聞社 ISBN 978-4-02-255246-4
アイデンティティと共生の哲学 筑摩書房 ISBN 978-4-48-084224-4
静かな大地―松浦武四郎とアイヌ民族 岩波書店 ISBN 978-4-00-002656-7
タイ・カンボジアを歩く―民から民へ 岩波書店 ISBN 978-4-00-003258-2
風の吹きわける道を歩いて―現代社会運動私史 七つ森書館 ISBN 978-4-82-280881-5
共同著作 [編集]
社会的左翼の可能性―労働運動と住民運動 清水慎三 花崎皋平 共著 新地平社 ASIN:
B000J6N8EK
あきらめから希望へ 高木仁三郎 花崎皋平 共著 七つ森書館 ISBN-13: 978-48228870
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