講演記録)河野太郎氏が語る「再処理工場の秘密」60兆円のお荷物を止めたくてもやめられないわけ
2009/10/09
このたびの自民党総裁選に出て敗れた河野太郎氏が、
2006年8月11日に仙台でおこなった「再処理工場の秘密」と題する講演の記録があ
ります。
http://vanillachips.net/archives/20060816_1625.php など
わかりやすい講演で、おわりのへんには、「やめたくてもやめられない政治家・官
僚・電力会社の三すくみ」など、内幕暴露的な話もあり、河野氏がLPガスの族議員
であることをさしひいたとしても、たんなる政治家の発言を越えて実に興味深いもの
です。
■核燃料サイクルとは何か
みなさん、こんにちは。河野太郎でございます。話に入る前に、使用済み核燃料と
高レベル放射性廃棄物の違いがわかるという方はどれくらいいらっしゃいますか。そ
れでは、そこの説明から入りましょう。
(ホワイトボードに書く)
ウランです。ウランをとりあえず鉱山から取ってきて、加工してウラン燃料という
ものを作ります。ウラン燃料をどうするかというと、原子力発電所で燃やして発電し
ます(注1)。ここまではいいですよね。
ウランを燃やすとウランの燃えかすが出てきます。これが使用済み核燃料。使用済
み核燃料とは何かというと、ウランを燃やして出た燃えかすです。本来なら、燃料を
燃やして燃えかすがでました、燃えかすを処分しましょうで終わりです。しかし、使
用済み核燃料の場合はそうではありません。この使用済み核燃料を再処理するとプル
トニウムが採れて、高レベル放射性廃棄物という第二段階のごみが出ます。
このプルトニウムを高速増殖炉または英語でFast Breeder Reactorというもので燃
やすと、投入した以上のプルトニウムが出てきます。今から3、40年前に、日本で原
子力発電をやろうよと言ったときに、その頃の人は何を考えたかといいますと…。
ウランというのも貴重なものであります。日本ではあまり出ない。ウランを取って
きて、ウラン燃料を作って原子力発電所で燃やして使用済み核燃料が出てきて、それ
を再処理するとプルトニウムというものが出てきて、プルトニウムを高速増殖炉で燃
やすと、不思議なことに投入した量以上のプルトニウムを取り出すことができるので、
そのプルトニウムをもう一度使って発電して…。
これができるとウラン燃料とプルトニウムで千年単位で発電することができるよう
になります。だからこれを夢の核燃料サイクルと当時は言ったわけです。当時も今も、
日本は石油が出ませんから、中近東から石油を買ってこなきゃいかん。石油ショック
というものがありましたので、何とか日本独自のエネルギー源を開発しなきゃいかん。
ウランはどこかから買ってこなきゃいけませんから、必ずしも国産ではありませんが、
使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムは準国産。
だから、高速増殖炉でプルトニウムを増やしていけば、中近東の石油に依存せずに
日本はエネルギー源を確保できる。すばらしい夢の核燃料サイクル。これをやらなきゃ
いかんと、だいたい30年くらい前に国の方針を決めたわけであります。
なかなかすばらしいアイデアですよね。若干いくつか問題がありますが。大筋から
いくと非常にいいじゃないかとなるわけですが。問題がいくつかあります。一つはこ
の核燃料サイクルを実現するためには高速増殖炉でプルトニウムを燃やさないとなり
ません。高速増殖炉というのは30年前にはなかったんです。高速増殖炉でエネルギー
を取り出して商業的に収支が合うようになる、要するに高速増殖炉が実用化されるの
は30年後だと、その30年前に言っています。
政府の文書でも、30年経ったら高速増殖炉ができるから、プルトニウムをそこで燃
やすことができると書かれていて、なるほどすばらしい、と思って30年経った。しか
し、高速増殖炉は完成しませんでした。最近出した政府の文書ではなんと2050年まで
は高速増殖炉はできないと言っています。
30年前に30年後と言っておいて、30年経ったら50年後だと言う。50年たったらどう
なるかわかりませんが、ひょっとしたら100年後くらいになると言っているかもしれ
ません。
「もんじゅ(注2)」って聞いたことある人いらっしゃいますか。だいたいみなさ
んご存じですね。「もんじゅ」は高速増殖炉の実験炉ですから、あれで技術を確立さ
せておいてさらに商業化に向けて前に進めようというものです。特に「もんじゅ」で
難しいのは、普通の原子力発電は冷やすために水を使いますけれども、「もんじゅ」
は冷やすために液体ナトリウムを使う。ナトリウムというのは空気に触れると、大変
な化学反応を起こして燃えるので、ナトリウムをどう扱うかというのが難しい。「も
んじゅ」でなんとかその技術を身につけようとしていたわけです。
ただ、「もんじゅ」がうまくいったからといったってすぐに商業的な電力発電がで
きるというわけではなく、原型炉である「もんじゅ」を成功させて、さらに、実証炉、
商業炉と、規模もどんどん大きくしなければならないし、そのたびに取り扱うプルト
ニウムもナトリウムも増えて、技術的にもどんどん難しくなっていきます。危険もま
すます高まることにもなります。
ナトリウムの火災事故で、もう十年以上「もんじゅ」は止まっているけれど、「も
んじゅ」を再開したからといってすぐに高速増殖炉が完成するかというと、そんなこ
とは実はないわけでありあります。その「もんじゅ」すら、今は止まってしまってい
るということで、高速増殖炉の実現への道筋は今、見えないわけです。
もう一つは、高レベル放射性廃棄物、あるいは使用済み核燃料などの放射能物質を
どうやって処理するかというのが残念ながら今の日本では確立しておりません。すで
に日本は、海外に使用済み核燃料の再処理を委託してきていますが、その海外での再
処理から出てきた高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体といって、溶けたガラスで
固めて放射性物質を閉じこめています。それを六ヶ所村で一時貯蔵しています。
数十年かけて冷やしたガラス固化体は、地下数百メートルに埋めて、最初の三百年
ぐらいは人間がモニターしながら管理します。そしてその後は、地層処分と言われ、
地層のなかで人間社会から完全に隔絶した状態でずうっと置いておかれることになり
ます。
一方の再処理する前の使用済み核燃料については、いったん原発サイト内でプール
に貯蔵してあります。それから、六ヶ所村の再処理工場内の貯蔵施設に移して再処理
するというのが現在の方針です。
使用済み核燃料を再処理せずにそのまま最終処分する手段もあります。これをワン
ススルーなどと呼んでいます。使用済み核燃料のままでも高レベル放射性廃棄物でも、
いずれにしろ最後は地層処分しなければなりません。
しかし、最終的にどこでどうやって処理するか、日本では決まっておりません。と
いうのは、地中深く埋めるわけですけれども、地震があったりしてそこに埋めたもの
が動いて放射能が漏れるということがあってはいけませんし、そのへんに地下水があっ
たり温泉があったりすると、水に乗って地上に出てきてもいけない。これぐらいの島
国で、やたら火山がいっぱいあって、地震もいっぱいあって、温泉もいっぱいあると
ころで、どうやってこれを処理するかという処理方法が残念ながら、決まっていませ
ん。本当に決まるんでしょうか。
注1)原子力発電所では、ウランに核分裂を起こさせて、発生する熱で水蒸気をつく
り、タービンを回転させて発電している。
注2)福井県敦賀市にある高速増殖炉の原型炉。1994年に臨界を達成し、1995年8月に
初送電を行う。同年12月ナトリウム漏れ事故を起こし、その後現在まで停止している。
■溜まり続けるプルトニウム
その処理方法の話は若干後回しにするとして、問題はこの夢の核燃料サイクル。プ
ルトニウムを取り出すところまでは何とか来たけれども、プルトニウムを燃やす高速
増殖炉がなかなかできません。
ここで、普通の政府ならどうするかといえば、高速増殖炉ができるのを一生懸命応
援をして、早く技術を確立しようということになると思うんですね。高速増殖炉がな
ければプルトニウムを燃せないわけですから、プルトニウムを作ってみても始まらな
い。使用済み核燃料を再処理したって、再処理してできたプルトニウムをどうするか。
どうしようもないわけです。
普通、常識的なら使用済み核燃料を50年間とりあえず中間貯蔵しておくでしょう。
計画によれば50年経ったら高速増殖炉ができるわけだから、そうなったら再処理を始
めてプルトニウムを取り出して、プルトニウムを高速増殖炉で燃やそうじゃないか。
そうすれば日本は中近東にエネルギーを頼らなくてすむと、まあ、そういう決断に本
来ならなるのではないかと思ったのですが、なかなかそうならないのがこの国の不思
議なところでありまして、高速増殖炉が50年経たないとできないのだけれども、再処
理だけはどんどんやろうと言って、六ヶ所村に再処理工場を造った。
お隣りの北朝鮮で、プルトニウムっていうのが今50キロ、まあ、人によっていろい
ろな説がありますが、どうも50キロくらいプルトニウムがあると言われていますが、
北朝鮮が50キロのプルトニウムを入手したらどうなったかというと、六カ国協議です。
六カ国協議でアメリカもロシアも中国も韓国も日本も参加して、大騒ぎをやっている
わけであります。
今日本が保有しているプルトニウムがどれくらいあるかというと、約40トンが海外
にあります。イギリス、フランスに使用済み核燃料の再処理を頼んで、とにかくプル
トニウムを取り出して高速増殖炉をやるんだといって、お願いをしていたんだけれど
も、高速増殖炉はできないで、プルトニウムだけできちゃいました。こういう状況で、
このプルトニウムはいったい全体どうすんねんと。この他に日本国内に数トン。キロ
じゃないですよ、トンですからね。50キロで六カ国協議だと、4万キロあったら、何
千カ国協議くらいのことをやらないと(笑)。国連がいくつあっても足らないよって
いう感じで。
まあ、40数トンといっても、国内には数トンですが、返してくれと言ったら40トン
返ってきますし、いや言わなくてもいずれ返ってくるでしょうし、北朝鮮とは少なく
とも桁が違う。桁が違うというか、単位が違うぐらいのプルトニウムを、日本は今、
国内外に保有しているわけであります。
できちゃったプルトニウムが40数トンありますということで、普通に考えるならば、
この40数トンどうしましょうっていう話になるわけであります。ところがその六ヶ所
村の再処理工場でどれくらいのプルトニウムができるかというと、1年間に8トンでき
ると言われていますから、本格稼動すると、今持っている40数トンにプラスして、年
に8トンずつプルトニウムが増えていっちゃう。
今40数トンあるのが、来年50トン超え、再来年60トン、その次は70トン近くなる。
そういうことになってしまう。これ、何の意味があるのでしょうか。実はウランより
もプルトニウムのほうが、テロリストフレンドリーなんですね。私もあまり詳しくは
ないのですが、プルトニウムというのは、例えば、吸い込んで肺にプルトニウムが入
ると致命的なんだそうです。ところが、そうでもしない限りプルトニウムは持ち運び
に便利な核物質なんだそうです。ウランを持ち運ぶよりはプルトニウムを持ち運んだ
方が、よっぽど安全だと。
そうすると、そんなテロリストフレンドリーなものを日本に何十トンも保管してお
いて、しかも日本はどういう保管形態か、これはどういう保管形態というのは機密に
なっているからあまり言わないことになっていますが、おそらく、テロリストからし
てみると非常に好都合に丸腰の警備員が守っているような警備形態になってるだろう
と。
実はこのプルトニウムというのはロシアもその核兵器を解体して、プルトニウムを
取り出して、そのプルトニウムを持っているという状況になっているのですが、アメ
リカ政府はロシアに対して、取り出したプルトニウムは必ずスパイクしろと言ってい
る。
スパイクしろっていうのはどういうことかというと、純粋なプルトニウムだとテロ
リストフテロリストフレンドリーで持ち運びしやすいから、このプルトニウムを、もっ
と汚い核物質で汚せと。つまり、放射能レベルを高くするわけです。そうすると汚さ
れたプルトニウムはなかなかテロリストも運びにくいから、プルトニウムをきれいな
ままで保管をするなと。このプルトニウムを必ず汚せという申し入れを、アメリカは
ロシアにかなり強硬にしています。
日本もこのプルトニウムをいや、ウランと混ぜていますと言うんですが、専門家は
日本のやり方はだめだと。日本のやり方だと化学処理したら全部プルトニウムが分離
できちゃうような混合形態になっているんで、それはとてもスパイクしているとは言
えない状況にあるのだそうです。
これは国際的に見てもさすがに許されない状況です。テロリストのターゲットにな
る、核兵器の材料になるような物質を日本だけが野放図に、使用目的もないのにどん
どん溜め込みますなんていうのはですね…、北朝鮮はミサイルを上げたときに人工衛
星と言っていたわけですが、日本だって人工衛星を上げているわけで、人工衛星上げ
ている国がプルトニウムをこれだけ持っていりゃ、そりゃ六カ国協議やりたくもなり
ますわね。
■敗戦処理としてのプルサーマルと莫大なコスト
日本は被爆国だから自分は決して核兵器を持たないと言っているのですが、他の国
は本当はどうかなと思っているかもしれません。とにかくこの再処理でできたプルト
ニウムを使わなければいけないというので、しかたなく、ここで出たプルトニウムを
ウラン燃料と混ぜて、MOX燃料というものを作って燃やすことにしました。
MOX燃料とはウラン9にプルトニウム1くらいの割合で混ぜたものですが、これを普
通の原子炉で燃やすのがプルサーマルです。プルサーマルっていうのは何のメリット
があるのかというとですね、ウラン燃料が節約できるんですと関係者は言っているわ
けです。ウランは貴重な物質だから、プルトニウムと混ぜることによってウラン燃料
が節約できますと。
だけど、節約できるったってプルトニウムが最大1割くらいしか混ざらないのです。
プルサーマルでのウランの資源節約効果は約1割です。最初に言っていた核燃料サイ
クルはプルトニウムを高速増殖炉で燃やすから、投入量以上のプルトニウムが産出さ
れるので、長期間にわたり日本のエネルギー源は確保されます。でもプルトニウムを
ウランと混ぜてMOX燃料にしてプルサーマルで燃やしたら、プルトニウムが混ざった
分だけウランが節約できるという話で、ウランが1割節約できるだけです。
今や、わが国はこのMOX燃料を作ってプルサーマルで燃やすことを核燃料サイクル
と言い始めたんですね。おいおい核燃料サイクルって、プルトニウムが高速増殖炉で
増えるのが核燃料サイクルだろと。ウランを1割節約するのが、何で核燃料サイクル
なんだと。要するに、高速増殖炉はあまりできそうにない。少なくともこの50年はで
きないと政府も認めちゃったわけですから、困って、MOX燃料をプルサーマルで燃や
すことを核燃料サイクルと言い始めた。
この核燃料サイクルで何ができるかというと、ウラン燃料が1割削減できるわけで
すが、この再処理をするために莫大なコストがかかります。政府の見積もりで19兆円
トータルでかかると言っています(注3)。ただし、六ヶ所村の再処理工場を造るの
に、予算では7千億円と言っていたのが、完成したら2兆円を越える費用がかかった。
3倍かかっているわけですから、19兆円かかりますというのを3倍すると60兆円くらい
かかっちゃうわけです。60兆円かけてウランの1割節約をやることに何か意義があり
ますか。それならば60兆円の何分の1かでウランを買って備蓄したほうが安いです。
このプルサーマルというのは、まったく敗戦処理なんですね。やろうと思った本当
の核燃料サイクルができなくて、プルトニウムが余っちゃったんで、このままにして
おくと、使用目的のないプルトニウムを何で持ってるんだと言われるんで、MOX燃料
と混ぜてプルサーマルをやりますという完全に敗戦処理、要するに当初の計画通りに
はいきませんでしたということなんです。でも、今、電気事業連合会なんかは胸を張っ
てわが国は核燃料サイクルを始めますと言ってます。嘘つけっていう感じであります。
で、プルサーマルをやろうと思ったら、このMOX燃料も試験データがでたらめで、1
回ボツになった。まだこのプルサーマルは始まっておりません。まだこの40トン以上
あるプルトニウムをプルサーマルで燃やし尽くしましょうということも始まっていま
せん。まだ燃やし尽くしてないというんじゃなくて、まだ燃やし始めてない状況なの
に、さあこれから毎年8トンものプルトニウムを取り出そうという計画に何か意義が
あるんですかね。
政府、大本営発表19兆円ですからね。大本営発表19兆円でたぶん60兆円くらいの金
がかかる新規の再処理をこれからやる意味が何かあるのかといえば、おそらく私はな
いと思います。これが高速増殖炉ができましたというならば、まったく別な議論をし
なければならないわけですが、少なくとも高速増殖炉がない以上、プルトニウムを金
かけて取り出す必要はまったくない。今あるんですから、40数トンも。とりあえずこ
の40数トンを処理するのが先だと思います。
そして40数トンのプルトニウムを処理するためにはプルサーマルで燃やすしかあり
ません、だからしょうがないからプルサーマルやらしてくださいというなら、まずプ
ルサーマルで40数トン燃やして、ここで一度プルトニウムはなくしますということに
すべきなんじゃないでしょうか。で、高速増殖炉ができたら改めて使用済み核燃料の
再処理を始めてプルトニウムを取り出してこの本当の核燃料サイクルをやるかどうか
議論しようじゃないかというのが、私は政策的には正しいと思っております。
注3)2003年11月11日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電気事
業分科会の小委員会で電気事業連合会から再処理の総費用として18兆8千億円という
数字が示され、これが政府の再処理コストの見積もりの基礎となっている。
■使用済み核燃料が溢れる貯蔵プール
ところが今そうなってない。それはどうしてそうならないのかというのが、非常に
ややこしいところで。もちろん高速増殖炉ができたから、じゃあすぐ核燃料サイクル
が始められるかというとですね、例えば高レベル放射性廃棄物の処理をどうするのか
そういうことも決まらない段階で簡単にはやれないと思いますが、少なくとも高速増
殖炉ができなければそんな議論もやる必要はないわけであります。
なぜ今、政府、電力会社、与野党の議員…、この間民主党もやるんだと決定をしそ
うになって、民主党よお前もかと(笑)、その前に自民党をなんとかしろと言われちゃ
いますけど(笑)。なんでこういうことをやろうとしているかというとですね、今の
原子力発電所、ウラン燃料を投入すると、使用済み核燃料が出ます。この使用済み核
燃料をプールにためてるんですね。貯蔵プールと呼ばれるものの中に。この貯蔵プー
ルというのは原子力発電所のそばにあるわけですが、この原子力発電所のそばにある
貯蔵プールの中に使用済み核燃料をためております。
ところが、問題はこれがどんどんたまっていっちゃうわけです。福島あたりの原発
はもうそろそろ限界に来ている。貯蔵プールが一杯になると、燃えかすを出せなくなっ
ちゃいますから。燃えかすを出せなくなるということはどういうことかというと、燃
やすなということですよね。使用済み核燃料で貯蔵プールが一杯になっちゃうと、そ
の原子力発電所は止めないといけなくなる。止めると電力会社は一日あたり1億円っ
て言ったかな、その程度の損失になるそうです。で、電力会社は焦っているわけです。
このままいくとこれは止まってしまう。何とかせねばいかん。で、どうするかとい
うと、ここに天の助けがあるわけですね。なんと六ヶ所村の再処理工場には貯蔵プー
ルがあります。それはそうですよね。使用済み核燃料を再処理するわけですから。ど
んな工場だって原材料を置かなければならないわけだから。
電力会社が考えたのは、あるいは経済産業省が考えたのは、原子力発電所のそばに
ある使用済み核燃料の貯蔵プールに入っているものを、六ヶ所村の再処理工場の貯蔵
プールに移しましょう。そうすれば、原子力発電所のそばの貯蔵プールは空くわけで
すから。そうすると原子力発電所を止めずに操業することができる。これはいい考え
だからせっせと移そうと思ったら、実は世の中そうはうまくいかなかった。これで出
てきたのが青森県。
青森県いわく、ちょっと待ってくださいよと。うちはごみ捨て場じゃありませんか
ら。貯蔵プールに使用済み核燃料を持ってくるんだったら、これは必ずこの再処理工
場で再処理されて、製品になるんでしょうねと。再処理工場が動かないのに、貯蔵プー
ルだけ使ってそこへ全国各地の原発で出た燃えかすを持ってきて、青森県にボンと置
いて、ああよかったと、うちのプールがきれいになったということでは困りますよと。
だから青森県は使用済み核燃料を六ヶ所村の再処理工場の貯蔵プールに持ってくる
以上再処理工場を稼動してくださいという条件を付けました。ここに入ったものが単
なるごみではなくて、工場の材料なのだということを明確にしてください。そうでな
い限り、ものを持ってくるのは困りますというのが、青森県と電力会社、あるいはそ
こに経産省も絡んで、そういう約束になっている。だから使用済み核燃料を貯蔵プー
ルから六ヶ所村へ持って行くためには、再処理工場を動かさないといけない。
持っていけないと原子力発電所が止まって、原子力発電所が止まると、電力会社は
損失が出ますから、結論から言うと、じゃあ再処理工場を動かすしかないじゃないか
と言うんで、プルトニウムが40数トンプラス毎年8トンという現状になってしまった
わけです。
実はこの貯蔵プールを使わない保管のやり方があって、貯蔵プールを使うのは湿式。
もう一つは乾式。要するに地上で、使用済み核燃料を保管させてください、そういう
技術が実は確立されている。貯蔵プールの代わりに地上でやらしてくださいと言えば、
まだ余裕はあるわけです。
あるいは全国の貯蔵プールには一杯のところと空いているところといろいろあって、
上手く使えば後二十年は一杯になることはないという研究も発表されました。だから
やり方はいろいろあるんです。
だからこの貯蔵プールが一杯になる前に、乾式貯蔵にするなり全国の貯蔵プールを
上手く使うなりなんなりして、とにかく使用済み核燃料は今後50年間、中間貯蔵です
と。50年間待ってみて、高速増殖炉をやるかどうかけりつけましょうと。30年待って
50年待ってできなかったら、もうあきらめた方がいいでしょうと。
50年後にひょっとすると高速増殖炉ができて、使用済み核燃料を再処理してプルト
ニウムを取り出そうということになるかもしれないから、とりあえず50年は使用済み
核燃料を中間貯蔵させてくださいと。50年経ったところでそこは判断をしようじゃな
いですかということに国の政策を変えて、とにかく50年間は使用済み核燃料を中間貯
蔵するんですということにすれば、何もこんな再処理工場を稼動させてプルトニウム
を取り出す必要はないんですね。
■やめたくてもやめられない政治家・官僚・電力会社の三すくみ
実は2004年頃に経産省の中にも核燃料サイクルがおかしいと思っている一派がいて、
そこがクーデターを試みて失敗したことがありました。
電力会社は核燃料サイクルに関連して、引当金を無税で積んでいるんです。今、電
力会社が再処理やめますと言うと、無税で引き当てたお金に対して、財務省から課税
しますと言われたら、何千億円にもなるので、とても払えません。だから電力会社と
しては自分からやめるとは言えないんで、経産省さん、言ってくださいと。
経産省は、役人は間違わないという伝説を守らなきゃいけませんから、うちは電力
会社が頭下げてきたら、そうかしょうがねえなあと、電力会社がそう言うんだったら、
うちはいいよと言うしかないと。ところが、電力会社は言えない。経産省からも言え
ない。お互い、言えない。さらに与野党の原発関連地域の議員は、補助金が来るのに
止めたら補助金が止まる、それは止めるなという三すくみで、物事が止まらない。
だからいいじゃないですか、その補助金しょうがない、約束しちゃったんだから補
助金払うから、これでさっきのフダさんの話(注4)じゃないけれど、公共事業でも
なんでもとりあえずやりなさい。で、電力会社が無税で引き当てたやつは無税で引き
当てといていいから、経産省ももうわかったからということにして、とにかく止めろ
と言えるのは政治しかないんですね。政治が出ていって、もうわかった。お互い悪く
ないことにしてあげるから、ほんとは悪いんだけど(笑)、誰が悪いかなんて議論を
するよりもみんなで手を引けっていうのが、一番いいんだと思ってます。
止めようと思ったらもうこれは政治が出ていくしかありませんが、自民党は電力会
社から金を貰ってますから、なかなか止められない。それから原子力発電所の補助金
を貰っている議員が、とにかく絶対再処理をやってもらわなくては困る。うちの原発
が止まったら補助金が…。
それから民主党は電力会社の労働組合に選挙でお世話になってますから、民主党も
再処理はやりましょうという党の政策を取りまとめてます。
という状況で、これはやっぱりこのままにはできないと思います。これ、ほったら
かしておけば大本営発表19兆円。おそらく60兆円くらい国民負担ですから。払うのは
みなさんですから。みなさんの電力料金に上乗せされることになりますから。別に国
会の議決もいらないままお金が取られるということになるわけであります。
やっぱりこの問題もう少し、ちゃんと国民の前で議論をして、これはやっぱりどう
考えても、理屈合わないよねということにしなければならないかなあと思っておりま
す。ちょっと喋りすぎましたんで、あとはみなさんの方からご質問があれば、お受け
をさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
(注4)講演が始まる前の主催者挨拶において、電源三法交付金、固定資産税など地
元自治体にもたらされる巨額の「核燃マネー」と、それが引き起こす利権の問題につ
いて言及した。