地域研究)瀬戸内海がよみがえる日 上関原子力発電所計画と周防灘の未来
2004/10/20
地域研究)瀬戸内海がよみがえる日 上関原子力発電所計画と周防灘の未来
というタイトルでエッセイを書きました。
広島KJ法研究会 の機関誌 『地平線』37号(2004年10月20日発行)
に載ったものから写真を少し減らしたものです。雑誌そのものへのお問い合わせ
は、広島市西区草津東3-3-10の寺島洋一さんにおねがいいたします。1部
500円だそうです。
冒頭の部分と、なぜかずっととばして注の部分を本文に出して
おきましょう。全文は、PDFファイルで添付してあります。
原発計画にゆれる周防灘の現在
◇生物たちの楽園
瀬戸内海のもっとも西にあたる周防灘。その東の端の、伊予灘との境界に近い
ところに長島という島がある。その中に田ノ浦というひときわ美しい浜がある。
ここには、今日の日本ではほとんど見られなくなった希少な生物種が生息する
場所でもある。例えば、世界最小のクジラであるスナメリのなめらかな背中が
ちらりと見えるかもしれない。岩礁・鼻繰島の頂き付近からは、ハヤブサのつ
がいが空高く舞い上がる。
田ノ浦の風光 左ビャクシンの崖、右鼻繰島
海に面したけわしい崖には、全国でも珍しくなったビャクシンの野生木がしがみ
ついている。ゆるやかな斜面は、豊かな照葉樹林に覆われている。石積みの古い
護岸の後ろには、湿地がひろがっている。これは、20年以上前に放棄された水田
のあとである。踏み分け道をたどって登り、里山の自然を訪ねれば、今では希少
となってしまった草花が咲き、みごとな技でくみ上げられた石垣に守られた棚田
とため池の跡も見ることができる。また、田ノ浦の浜そのものには考古学遺跡が
あり、土器
周防灘の東に位置する長島と田ノ浦
や石のやじりなどが出土する。ここに人が住み始めてから少なくとも2500年の時
が流れている(上関町史編さん委員会、1988:117-120)。
田ノ浦の磯には、あとでも触れるように、貝類をはじめとする海の生き物の種
類が奇跡のように多く生き残っていることが最近になってわかってきた。
沖に目をやれば、田ノ浦の目の前4キロメートルの海に、祝島が見える。祝島
は万葉集にも登場する瀬戸内海航海の大切な目印であり、危険に満ちた旅を守
護する心の支えだった。
◇VIPなみの散策
最近では、長島の田ノ浦を自然観察などのためにおとずれると、背丈を超える
頑丈な柵が随所に張り巡らされていて、自由に歩き回ることは難しい。しかも、
いく人ものガードマン達があらわれて、あなたがのってきた自動車のナンバー
をそれとなく控える。田ノ浦の自然観察に行くと、24時間どこへ行くにもエス
コートがつくのだ。道からはずれようとすると、ボディガードが警告してくれ
る。それでも進もうとすると、ホイッスルを吹いて止められてしまう。そう、
ここは広島市に本社がある電力会社が瀬戸内海に計画している上関原子力発電
所の予定地なのだ。
注1 ちなみに、原子力発電を推進する側の人たちは原子力発電所を略すときは
「原電」という。「原発」とは言わないし、1発、2発とも数えない。なんだか
暴発しそうで怖いからだと思う。
注2 例えば、2002年度の9電力会社の広告費は、東京電力の203億円から沖縄電
力の11億円までで総額800億円を越えているが、なぜか中国電力だけが、ずっと
広告費を公表していない(http://www.nikkei-koken.gr.jp/study/01.html)。
また、島根県では、原発の3号機増設計画を受け入れた鹿島町に4年続きで今年
も匿名の寄付があった。2004年の寄付額は8億7000万円だが、2004年9月11日の毎
日新聞の記事には「匿名中電寄付金」なる表現があって笑える。
「同町は来年3月末に松江・八束8市町村の枠組みで合併することが決まって
いるが、合併協議中の首長会で『匿名中電寄付金』の取り扱いについて、寄付
者の意向を尊重して、合併後も寄付された自治体のために使うことができると
の申し合わせが成立している。」