勝手に公開授業・もぐり受講者募集中)地域学特論ゼミ2018年10月から毎週木曜日14:40-16:10 場所は、山口県立大学北キャンパスB505教室
2018/10/11
本日10/11から公開開始。今日の話題は、防府市でみつかった、台湾の画家・陳澄波の絵をめぐる波瀾万丈の物語です。
地域の方へのお知らせです。小さなクラスでアットホームな学びをしてみませんか。現在受講生2名、講師は、私とたいていボランティアで安渓貴子が出ます。
以下の授業を「勝手に公開授業」にいたします。 以前は、大学の指定する地域公開授業でしたが、ことしは、その指定から外れています。ということは……
ご希望の方は、も ぐ り で来て下さい! 予約不要、途中退席可 無料です (さしいれ歓迎)。
ただし、非常識講師の安渓が勝手にやっておりますので、事務室で尋ねたりなさらないようにお願いします。
以下は、昨年度と同じシラバスですが、たいてい中身はその後の研究の進展や情勢の変化などでだいぶん変わります。これまでの受講で聞き漏らされた方などもおすすめです。 11月22日は、沖縄・奄美の出張で休講です。
本日10月11日は2回目です。1回目までにお知らせしなかったのは、大学院の受講生がいない場合は開講されないからで、ご了承をお願いします。
来年度は開講されません。
山口市桜畠の山口県立大学・北キャンパスの入り口の駐車場で車を駐めて、長ーい階段を上って、看護学部棟の1階から山側へ出て、そこから更に戸外の階段を登ったところにあるB号館(エレベーターあり)の5階、左手の方です。旧国鉄の宮野駅から歩いていただくときは、ウォーキングのおつもりで、30分ほどかけてゆっくりこられることをおすすめします。
非常識講師 安渓遊地 (おといあわせは、y@ankei.jp )
科目名 地域学特論
後期(10月から)毎週木曜日 14:40-16:10 B505教室
担当者名 安渓遊地
授業概要
地球人の驚くべき多様性をつかもうとする「人類学」、自分の暮らす足下に埋もれている宝を掘り進む「地域学」、そしてその中で自分の果たすべき役割を探す「自分学」。この授業では、とても欲張りに、この3つを並行して勉強してみたいと思います。
大切な考え方として、3つの反省を忘れないで進めたいと思います。それは、以下の3つです。
1.わたしは、すべてのいのちたちという兄弟姉妹とともに、この奇跡の星に属している。だから人間が一番偉いなどと思いあがらない。
2.自分の文化や「くに」が最高だと思ったら、誰もがそのような気持ちをもつはずだと気付いて立ち止まろう。いわゆる先進国の経済を支えている、土地所有や、利息や、時間給などはすべて人間のつくった勝手なファンタジーにすぎない。
3.研究する者が研究・調査される者よりも尊重・優先されるべきだと感じたら、そのとき、りっぱな「バカセ」の候補者になっていることに気付こう。
この3つは、地球のどこでも、いつの時代も大切な反省のようですが、それぞれの反省は、山口県ゆかりの3人の大先輩に教えられたものです。1. は油谷出身で屋久島で没した詩人・山尾三省さん、2.は柳井出身で人間の経済を研究した玉野井芳郎さん、3.は周防大島出身の百姓といつも名乗った民俗学の宮本常一さんです。忘れられた日本人たちの記憶をよびさまし、地域から元気をもらいつつ、地域を元気にしていく智恵をわかちあいましょう。
到達目標
大陸の東の端の列島が、歴史の中で揺れ動くとき、いつも今日「山口県」と呼ばれるこの地域には大きなエネルギーと智恵が集まりました。そして、人々は地域の境を越え、海を越えてうごきまわりました。ともすれば現在の県境の中に押し込めて考えがちな、「やまぐち」。それはもちろん地球の上の偉大なアジアの小さな民の住まう場所です。大河ドラマなどが都合良く創り上げた「やまぐち」像ではなく、みずからの足下の暮らしとつながる何かを再発見し、地域を再定義してみようという意欲をもちましょう。さまざまな記録と無名の民衆の記憶を統合して、あたらしい地域学としての「新やまぐち学」の地平をともに切り開きましょう。
成績評価の方法と基準
あらかじめテキストを配っておき、それに基づいて討論するという形の授業を随時おこなうので、その中で討論することを学ぶ。コミュニケーションボードでの論評などの平常点と最終回での5分間プレゼンテーション(テーマ、プレゼンの方法は自由)によって成績評価する。
(1) やまぐちの自然と文化の多様性を東アジアの中に位置づけて理解する
(2) 上山満之進・宮本常一・玉野井芳郎・山尾三省・國分直一といった山口県ゆかりの知の巨人たちの足跡を知る。
(3) 人と自然の関係をみなおして自らの暮らしを変革するアイデアを学ぶ
(4) 学んだことを、だれにもわかりやすく伝える力を身につける
授業の項目と内容
(1)自分学(1)毛利家の武道・種田山頭火・蒙古からの引揚──母の記憶
大正時代のある女の波瀾万丈の物語。戦争のなか、竹槍訓練に参加せず、「非国民」と呼ばれた過去を忘れないために、息子に軍歌を教えるという不思議。
(2)地域学(1)地域に巻き込まれる方法/1枚の絵をめぐって、防府の市民と台湾をおとずれて交流する
防府図書館にかかっていた一枚の油絵。それが台湾の画家の描いたものだとわかったところから、地域の物語がうごきはじめ、大学と地域住民で台湾を訪れ、台湾からも防府にやってくるという交流の輪がひろがった。
自主学習課題(2)
http://ankei.jp で上山満之進 や 陳澄波で検索してみましょう。
(3)人類学(1)人間の経済の根っこを考える──玉野井芳郎のエコノミーとエントロピー論
資本主義経済は、土地と労働量の商品化というフィクションにもとづいて成立していることを喝破したのは宇野弘蔵だが、玉野井芳郎は、エントロピー概念をもちこみ、ヨーロッパ起源のグローバル経済の専横を乗り越える方法を模索した。
(4)自分学(2)地域で叱られる/宇部小野田で炭坑と観光を考える
初めてのフィールドワークで安渓は「バカセなら毎年何十人も来るぞ!」と言われてしまう。その後も叱られることが多い。渋沢敬三がみた西表島の炭坑と、宇部小野田の炭坑や観光ルートになっている三池などを対比しながら、もっとも弱い立場の人たちに共感するという基本的な姿勢を共有したい。
(5)地域学(2) 鎌倉時代・重源上人の大仏再建と昭和の有馬実成師のNGO活動
山口市徳地に伝わる鎌倉時代の仏教僧・重源(ちょうげん)という人物の伝承。
(6)人類学(2) 九学会連合を育てた偉大なるパトロン・渋沢敬三──学問の壁を越える
民俗学を志し、それを遙かにこえて生涯に16万キロを歩いた宮本常一の師匠の渋沢敬三は、あらゆる学問分野の人々が大きな支援をうけたパトロンであり、自身も研究者であった。
(7)自分学(3)幕末維新の長州真宗僧・香川葆晃と第2代朝鮮総督・曽根荒助
明治始めの廃仏毀釈の嵐から仏教を守った4人の真宗僧が山口にいた。そのうちもっとも知られていない葆晃の足跡をひ孫である安渓遊地が追う、現在進行形の謎解きの報告。
(8)地域学(3)山口県にある日本一──周防灘の奇跡の海・上関の生物多様性を例に
山口県の面する瀬戸内海に計画されている中国電力上関原子力発電所。その予定地は生物多様性の宝庫だった。どうすればこの人と自然のすばらしい関係を次の世代に渡せるか。日本生態学会での取り組みを紹介する。
(9)人類学(3)熱帯アフリカの森と大河の暮らし──人々の智恵とお金にたよらない経済のしくみ
アフリカの大河のほとりの物々交換の市場。なぜお金が普及したいまもなぜ物々交換? その疑問が安渓遊地の理学博士論文になった。
自主学習課題(9)
コンゴ川上流部に物々交換市をたずねて(英語)http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/68325/1/ASM_S_4_89.pdfを参照。
(10)自分学(4) 土着の研究から着土の実践へ──山口広葉樹灰研究会と花咲か爺の夢
アフリカの物々交換の智恵を足下のやまぐちでできないか。そうした挑戦の日々の紹介。
(11)地域学(4) 与那国島に残る500年前の記憶と伝承──済州島民との心の交流
台湾にほど近い沖縄件与那国島に残る最後の伝承者からの聞き取りを紹介。文字に頼らない民衆の記憶力が500年の時を距てて蘇る。
(12)人類学(4)スペイン・ナバラ州の人たちの挑戦──再生可能エネルギーと農家民宿の旅から
フランシスコ・サビエルの縁でつながった山口県とスペイン・ナバラ州。その果敢な挑戦を紹介。
(13)自分学(5)あるく・みる・きく・つくるやまぐちの先人たちの実践を受け継ぐために
地域の伝承を聞くことは、資料を掘りおこすことは、未来へ向けた責任を背負うことでもあります。先人の足跡をどうやって受け継いで行くべきか、ともに語りましょう。
自主学習課題(13)
安渓遊地・安渓貴子『島からのことづて聞き書き・琉球弧の旅』には、島々で託された島びとたちの言葉があります。http://ankei.jp/yuji/n=126
(14)地域学(5) 文化力と自然力──やまぐち人が東アジアで輝くために
やまぐちを現在の山口県の境界の中にとじこめて考えるのはやめにしたい。東アジア全体の中に位置づけながら、そのアイデンティティを再定義することが今必要ではないでしょうか。
(15)まとめ)わたし・地域・地球受講生による5分間の発表と5分程度の質疑応答
あなたにとっての「自分学・地域学・人類学」を、何か具体的なテーマを選んで、自由な形で5分程度でプレゼンしてください。紙芝居でも、うたってもおどってもいいのです。そのあと、そのプレゼンを受けて、全員でやりとりをします。発表のメッセージがはっきり伝われば合格です。会場とのやりとりの内容が豊かなものになれば、よい成績になるでしょう。
テキスト、参考書、教材
教科書 宮本常一・安渓遊地、2008『調査されるという迷惑──フィールドに出る前に読んでおく本』みずのわ出版(1080円のところ、1000円。授業中に販売します)。
参考書 山口県立大学COCブックレット「新やまぐち学」シリーズ
(4巻と9巻以外は、https://www.yamaguchi-ebooks.jp/で 「山口県立大学」を検索していただくと無料でよめます)
第6巻『東アジアに輝く』
第7巻『上山満之進と陳澄波』
第8巻『つなぐ・つくる・こえる──やまぐちのあらたな光を観るために』
第9巻『Yamaguchi Studies: a sourcebook for alternative tourism』
受講生へのメッセージ
教えるとは希望を語ること。学ぶとは誠実を胸に刻むこと(フランスの詩人ルイ・アラゴンの言葉)。
いま、やまぐちでどんな希望がつくれるか、それを問いかけながら進めて行きましょう。
履修条件及び備考(レポート評価基準・その他の具体的評価内容基準等)
平常点を重視します。授業中に質問やコメントをしてください。最終プレゼンをもってレポートにかえます。評価は、気づき(自分や自分の社会のこととして実感をもって受け取る力)と学び(具体的知識とその正確さ)と表現力(わかりやすく上手に伝える能力)で評価。地元の大学院って案外面白そう、と思う人を増やしたい。地域の方への「勝手に公開」授業でもありますので、ともに学びましょう。