みんなちがってみんな変)「うんこ人類学」の翻訳における「ひる・まる・こく」考 RT @tiniasobu
2014/04/06
4/6 増補が続々と重なってたちまち ver 5 です。
増補1 三河方言のききとり、逆でした。大訂正いたします。
増補2 ちびる考 追加
増補3 くしゃみも ひる ものだよ
増補4 古代日本の「ひすまし」という仕事について
たくさんシェアしていただいている、全京秀教授の http://ankei.jp/yuji/?n=1971 の記事、
もとGoogleさんによって「糞ヌた」などと機械翻訳されていましたので標
準語的な
「糞した」などと訳しました。
日本語ではどんな動詞があるのでしょうか。
妻に聞くと日本の三河地方出身の彼女のおばあちゃんは、小便は「しいこ ま
る」、
大便は 「うんこ ひる」と使い分けていたそうです。
「まる」は古語で、「放る」という字をあて、移動式便器の「おまる」に生きてい
ます。
「ひる」は、屁にも大便にも小便にも使われる言葉です。方言研究者の知人の教え
では、くしゃみも「ひる」ものだそうです。
狭いところを圧力をかけて中から外に出すイメージ。
私も京都育ちの母から「あんたをひり出した時は痛かったわぁ……」と言わ
れたことがあります。
静岡方言についての例文が、以下に載っています。
http://homepage3.nifty.com/hachimankotoh/hiru.html
少量のおしっこをもらすことには、「ちびる」という特別の動詞があります。鉛筆
などが小さくなる「禿る」とは別です。これも、「ひる」の派生語かと思われます。
私が中学一年生の時の母の言葉から。
「遊地について英語の塾のF先生のところに行ったら、女先生があんまり怖くて>おしっ
こちびったわ」(どんな塾だったかは、http://ankei.jp/yuji/?n=1904)
全京秀先生の記事には出てこないけれど、おならは「屁をひって尻つぼめ」という
から、標準的には「ひる」ものでしょう。
この方面では有名な『宇治拾遺物語』第50話には、貴人のおまるをきれいにする係
というのが登場します。「ひすまし」といい、「ひ」には「樋」という字を宛てたり
していますが、「ひったもの」を「清ます」つまりきれいにする、という意味だと考
えられるでしょう。
http://edosoko.edoblog.net/%E2%97%86%E5%AE%87%E6%B2%BB%E6%8B%BE%E9%81%BA%E7%89%A9%E8%AA%9E%EF%BC%88%E5%B7%BB%EF%BC%93%EF%BC%89%20/%E5%B7%BB%E4%B8%89%E3%80%80%EF%BC%88%EF%BC%95%EF%BC%90%EF%BC%89%E5%B9%B3%E8%B2%9E%E6%96%87%E3%80%81%E6%9C%AC%E9%99%A2%E4%BE%8D%E5%BE%93%E3%81%AE%E4%BA%8B%EF%BC%88%E5%BE%8C%EF%BC%89 なお、最近の研究については、以下を参照。
http://ameblo.jp/sumumu/entry-11179929807.html
さて、本論にもどって、「屁をひる」のほかに、方言っぽいけれど「こく」も使い
ます。
うそやほらも「こく」ということがあるので、やはり定まりなく拡散するはた迷惑
なものを出すことかな。それなら、タバコも「吸う」ではなく「こく」(せめて西表
式に「吹く」 例文。B‘a tabo fukan. 私はタバコを吹かない)が正しい日
本語かも。だって吸うだけならちっとも迷惑じゃない。
わざと(攻撃的に?)屁をかける時は「かます」を使います。噛ますという字をあ
てることもあります。哄笑と涙なしには聞けない さだまさしさんの名曲「建具屋カ
トーの決心」
http://j-lyric.net/artist/a0004ab/l0102e2.html
の中にでてくる、賢治さんの「雨ニモ負ケズ」のパロディーに、こんなのがあります。
西に生意気な娘があれば
行ってやさしく屁をかましてあげよう)
ともあれ「ひる・まる・こく」は、固・液・気にわたる排泄の世界観の構造比較を
試みにあたって大切な語彙であることに気付きました。翻訳には反映していま
せん。この
民俗語彙をめぐる討議はまた、全教授との意見交換のうえで発表したいと思います。
と書いたとたんに、芭蕉の句 「蚤虱(のみしらみ) 馬の尿(ばり)こく まくら
もと」(「泊船集」)を思いだしてしまい、理論構築の一郭があっけなく崩れる予感。
もっとも、これは下品というので、「蚤虱 馬の 尿(しと)する まくらもと」と
改作したと、むかし読んだ覚えがあります。
(いま検索してみると、以下の記事がありました。
1972年小学館版『日本古典文学全集ー松尾芭蕉集』
「尿 曾良本に「ハリ」と振り仮名。「ばり」と読む説もあるが、本文の「尿前」
を「しと」と読んで、同字をすぐ「ばり」と読むのは不自然。芭蕉は推敲のたびにだ
んだんおとなしい形に直すのが常だから、初案はともかく、『おくのほそ道』中では
「しと」がよい。」
http://ameblo.jp/muridai80/entry-10782714119.html )
ウン!国際文化学の蘊蓄はなかなか深いですぞ。
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公立大学法人 山口県立大学
地域共生授業担当
国際文化学部国際文化学科 学科長
教授 安渓遊地(あんけい・ゆうじ)
〒753-8502 山口市桜畠3丁目2番地1号
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