生態学会)3/6 #生態学的リスク からみた #原発 と #再生可能エネルギー @静岡 RT @tiniasobu
2013/01/21
3月1日修正
毎年3月、生態学会の大会の季節がめぐってきます。
自然保護専門委員として、シンポジウム屋と化した感のある安渓遊地は、ことしも
やることになりました。
これまでの記録をちょっとふりかえってみます。
2012年滋賀県での シンポジウム3時間
天災と人災の生態学――エネルギーと生物多様性の未来を問う
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/59/S03.html
2011年3月11日の直前、札幌での 企画集会2時間
日本の海の生物多様性保全のために学会ができること
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/58/T13.html
おもいおこせば、2007年の 大規模開発につける薬(3)――生態学は政治・
司法に発言できるか
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/ESJ54/sympo_index.html#S04
からしばらくは、おとなしくしていたのでした。
さて、今年は、以下のようなプログラムです。飯田てつなりさんもきてくださるこ
とになっています。残念ながら、一般公開ではない、学会員限定で、当日参加には、
参加費がかかります。
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/60/S02.html
2013年3月5日(火)~9日(土)
静岡県コンベンションアーツセンター(グランシップ静岡)
静岡県静岡市駿河区池田79-4
シンポジウム S02 -- 2013年3月6日 9:30-12:30 C会場
生態学的リスクからみた原発と再生可能エネルギー
企画者: 安渓遊地(山口県大・国際文化), 加藤 真(京大・地球環境)
原子力発電の生態的なリスクとそれにかわるものとしての再生可能エネルギーの可
能性およびリスクについて、検討する。
第1部では、福島第一原子力発電所の損壊で、環境に放出された大量の放射性物質
の生物への影響を検討する。人間への影響は、心理的あるいは経済的影響と分離して
見極めることが「ただちには」難しい面がある。しかし、動物に与えた生物学的影響
を評価することは可能である。2種の昆虫を用いてその影響を迅速に検出した二つの
実験・観察を紹介する。
第2部は、数十年にわたって故郷の駿河湾の海の生物を見つめてきた立場から、原
子力発電所ができてからの著しい生物相の変化について報告する。
第3部は、わずか15年で、エネルギー自給率をゼロから70%に押し上げて,再生
可能エネルギー普及の取り組みでEUのトップランナーのひとつとなった、スペイン
北部のナバラ自治州でのフィールドワークから、政府と大企業主導の「自然にやさし
い生活」が必ずしも生物多様性への十全な配慮をともなうものではなかったことを指摘
する。
脱原発をかかげる飯田哲也氏や孫正義氏らと行動をともにする若き研究者からのコ
メントを求めたのち、フロアとの忌憚のない総合討論を行う。
全体司会:佐藤正典(鹿児島大・理)
1)福島第1原発の事故の生物への影響
2)原子力発電所の温排水の影響
3)再生可能エネルギーの導入とその問題点
コメント:分山達也(自然エネルギー財団)
総合討論、コーディネーター:安渓遊地(山口県大・国際文化)
S02-1 ヤマトシジミにおける福島原発事故の生物学的影響
大瀧丈二(琉球大・理)
福島第一原子力発電所の損壊では、大量の放射性物質が環境に放出された。この事
故が動物に与えた生物学的影響を評価するための迅速で信頼性のある実験系はこれま
でに考案されていない。本論文では、日本で一般的なシジミチョウであるヤマトシジ
ミ(Zizeeria maha)に対してこの事故が生理的および遺伝的な障害を与えた
ことを明らかにする。我々は、第一化の成虫を2011年5月に福島地域で採集したが、
その一部には比較的軽度の異常が認められた。第一化の雌から得られた子世代F1に認
められた異常は重度が高く、それは孫世代F2に遺伝した。2011年9月に採集された成
虫の異常は、5月に採集されたものと比較して重度が高かった。非汚染地域の個体に
対する低線量の外部被爆および内部被曝により、同様の異常が実験で再現された。こ
れらの結果により、福島の原子力発電所に由来する人為的な放射性核種がヤマトシジ
ミに生理的および遺伝的な障害を与えたと結論される。
S02-2 福島県高放射線量地域のゴール形成アブラムシに多発する形態異常と遺伝的影
響
秋元信一(北大・農)
福島第一原子力発電所の事故によって広範囲に飛散した放射性物質が生物にどのよ
うな影響を及ぼすかを客観的に評価する試みは、現在、喫緊の課題である。本研究で
は、放射線に影響されやすいと考えられる生物を用いて、形態的変異に焦点を絞って
調査を行った。アブラムシ科ワタムシ亜科のヨスジワタムシ属Tetraneuraに
注目し、越冬卵から孵化してくる1齢幼虫の形態を、福島県川俣町の集団(空間線量
4μSv/h)、北海道の集団、千葉県柏の集団の間で比較した。さらに、原発事故以前
に採集された多量の博物館標本との比較を行った。
アブラムシは春から秋まで無性生殖的に増殖し、常にメスの腹部には成長中の胚子
が含まれる。福島の孵化幼虫は、原発事故以来、初めての有性生殖の結果出現した世
代であり、それまでの無性生殖の過程で蓄積されてきた遺伝的変異が特定の個体に集
積されている可能性がある。また、孵化幼虫(1齢幼虫)に注目しているために、成
虫まで到達できない虚弱個体や形態異常が検出できる可能性がある。孵化幼虫は、体
長が約1mmで、孵化後ハルニレの新葉に閉鎖型のゴール(虫こぶ)を形成し、その中
で成長・繁殖する。
福島の集団では、北海道や柏の集団と比べて、高い頻度で形態異常が見いだされた。
捕食によらない死亡個体の割合も高かった。形態異常はいくつかのカテゴリーに分類
できたが、この中で高度に異常を示す個体が約1%含まれた。これらは、2つの分岐し
た腹部、脚状突起、腫瘍状組織によって特徴づけられた。軽度の異常としては、脚部
の萎縮、成長途中での付属肢の欠損が含まれた。全体として、福島の集団では10%の
個体に異常が認められた。ところが、無性生殖によってゴール内で産出される第二世
代には、全く形態異常が認められなかった。世代間の差から、「原因物質」の作用の
仕方を考察する。
S02-3 駿河湾の生物相:その変貌と浜岡原子力発電所
加藤 真(京大・地球環境)
遠州灘から駿河湾西部にかけて、白砂青松の遠浅の海岸が続いており、砂浜とその
沖に続く細砂底は、特徴的な砂地の生物相をはぐくむ場所として知られていた。遠州
灘と駿河湾を隔てる御前崎には、泥岩が露出しており、特徴的な磯の生物群集が存在
していた。ところが、御前崎の西に位置する砂丘の上に、浜岡原子力発電所の建設が
計画され、1976年に1号機が運転して以降、現在、5基の原子力発電所が建設され、現
在に至っている(うち、2基は廃炉が決定し、3基は東北地方太平洋沖地震後の官邸か
らの要請を受けて、停止中である)。この地域の海岸に生息する生物や打ち上げられ
る貝殻を約50年間にわたって見てきた経験などをもとに、生物相の変遷とその原因に
ついて考察する。
この海域の生物相は、岩礁上のホンダワラ類やアラメ、ワカメなどの海藻類の繁茂
と、砂浜潮間帯のチョウセンハマグリやフジノハナガイ、キンセンガニ、砂浜潮下帯
のヒナガイ、ベンケイガイ、ダンベイキサゴ、ミクリガイ、ミオツクシ、カズラガイ、
ヤツシロガイ、ボウシュウボラ、泥岩中に穿孔するニオガイ、カモメガイ、シオツガ
イ、イシマテなどの生息によって特徴づけられて来た。しかしこの20年ほどの間にこ
の海域の生物相は大きく変化した。もっとも顕著な変化は、磯の海藻の消失と、砂浜
海岸の貝類相の衰亡である。かつては普通に見られた打ち上げ貝のうち、オオモモノ
ハナ、アリソガイ、ザルガイ、イセシラガイ、シドロ、トウイト、ミオツクシ、シチ
クガイなどは近年、ほとんど見られなくなった。この海岸周辺ではこの時期に、砂浜
海岸のコンクリート護岸の建設、突堤の建設に伴う漂砂系の変化、大井川などの流入
河川へのダム建設に伴う砂供給量の減少、浜岡原子力発電所からの温排水の放出が見
られた。これらの外因を分析しつつ、生物相の変貌の原因について考察したい。
S02-4 再生可能エネルギーの急速な発展と保全の課題: スペイン・ナバラ自治州の場
合
安渓遊地(山口県大・国際文化)
山口県と姉妹自治体のスペイン・ナバラ自治州は、1992年のリオデジャネイロ会議
のあと、再生可能エネルギーの導入に取り組んだ。1994年の州都パンプローナ周辺の
山地を手始めに2005年までに33か所に約2000基の風車を建て、2002年に畑のワラを燃
やすバイオマス火力発電所が稼働、2007年には太陽光を集め、溶融塩を利用して日に
15時間の発電をおこなう装置が稼働している。現在は、原発・石炭石油火力・大型ダ
ムに依存せずに、再生可能エネルギーの電力に占める割合は80%とEUのトップランク
にあり、エネルギー自給自治体をめざしている。一方、政府主導で拙速に導入した結
果、鳥類の衝突死もまた多発し、2000年3月からの1年間で、猛禽類472羽、シロエリ
ハゲワシGyps fulvus 443羽、その他の鳥類7185羽、コウモリ類749匹の死亡
が確認された(日刊紙 Diario de Noticias 8/5/2002)。これらの経験を日本に引き
つけて考えるなら、自治体単位での取り組みの大切さ、学会や自然保護団体との協働
によるゾーニングの必要性が指摘できよう。
コメントと全体討論
これらの4本の発表に引き続き、分山達也氏(自然エネルギー・ローカル・エンジ
ニアリング)を迎えてコメント「エネルギーの地域分散化・分権化をめぐる世界の趨
勢と日本の現
状」をお願いし、2013年1月の「世界自然エネルギー国際会議」(アブダビ)や2月
の「第2回世界コミュニティパワー国際会議」(山口県宇部市) の成果についても
紹介していただく。
フロアをまじえた総合討論では、
1)生態学的な事実関係の確認をふまえて、
2)福島原発震災の生態学的・社会的位置づけを共有し、
3)今後のエネルギー政策のあり方およびアジア・アフリカへの原発輸出計画などに
ついても視野に入れつつ、
生態学会および研究者の社会的役割についての認識を深めたい。
この件についてのおといあわせは、
山口県立大学国際文化学部 教授 安渓遊地(あんけい・ゆうじ)
〒753-8502 山口市桜畠3丁目2番地1号
山口県立大学国際文化学部
メール y@ankei.jp