教科書づくり)「キャンパスを飛び出そう――フィールドワークの海に漕ぎ出すあなたへ」まもなく出版 #fieldwork #textbook #YPU RT @tiniasobu
2012/03/02
山口県立大学国際文化学科の授業「フィールドワーク実践論」とそれを踏まえた「
地域実習」のための教科書を担当者で作っています。
http://ankei.jp/yuji/?n=1600 でお尻を叩かれて、愛情こめてとりくむことにしました。ようやく3月21日の卒業式にまにあって印刷できそうな段取りになってきました。
また、みずのわ出版@周防大島のお世話になることになりました。
前書きと表紙案を掲載しておきます。
はじめに
フィールドワークとは、机の上での勉強とちがって、五感のすべてを駆使して全身
で学ぶことです。現場では、あらかじめ立てておいた予定や、出発前の予想が裏切ら
れ、思いもよらない展開になることがよくあります。そんな時は、第六感も働かせな
がら全身全霊で切り抜けなければなりません。人生と同じで、フィールドワークは、
誰かが書いたシナリオにそってゲームを進めるのではなくて、事前に勉強した教科書
やマニュアル通りに行かないところこそが面白いのでしょう。
こういってしまうと、フィールドワークの教科書や事前学習そのものを否定するよ
うに聞こえるかもしれませんが、けしてそうではありません。フィールドワークを自
動車のドライブに例えるならば、どんな状況になっても守らなければならないルール
はあります。車を運転するということは、自分がある確率で人を殺すことがある、と
いう運命を受け入れることだということをあなたは考えたことがありますか。
もしもあなたが自動車事故を起こした末に「ひき逃げ」をしてしまえば? 人間と
して絶対に踏み外してはならない、そうしたルールはちゃんと守る。それができる人
だけが、自動車を運転していいように、フィールドワークにもルールがあります。そ
れが守れることを立証できた人だけが、大学から飛び出してフィールドワークを経験
してもいいのです。
山口県立大学国際文化学科では、地域でのフィールドワークを中心とする地域実習
科目を受講するためにひとつの条件をつけています。それは、フィールドワークの基
礎をたたき込む「フィールドワーク実践論」という科目に合格していることです。仮
免許をもらってから、はじめて路上教習に出るようになっている、日本の自動車教習
の方法に対応していると考えると理解しやすいでしょう。
もちろん、フランスのように、いきなり路上に出て練習を始めるシステムもあれば、
一九八〇年代の西アフリカ・マリ共和国のように、バックで縦列駐車ができるか、と
いう課題ひとつが実技試験のすべてというような国もあります。島国の左側通行には
慣れていても、いきなり大陸の右側通行では事故を起こすかもしれません。時速に下
限はあっても上限のない道路もあれば、車検制度がない国もあります。世界は、あな
たが想像しているよりもっと多彩で、ずっとへんてこりんなのかもしれません。
この本は、あなたが異文化を生きる人々の間でのフィールドワークという「みんな
ちがってみんな変なのがあたりまえ」という世界に飛び込んだとき、パニックをおこ
すことなく、できれば上手に波に乗って、無事にもどって来れるための手引きとして
書かれています。
第一章は、なぜあなたが大学まで来たのか、これからあなたは、誰の人生をどのよ
うに生きていくのか、を問うています。子どもっぽさを捨てて、大学の四年間という
時間の中で自分をきたえ、自分の海図を見つけて外の世界に立ち向かおうという励ま
しのメッセージです。
第二章では、グローバル化の中で、さまざまな異文化がダイナミックにぶつかりあ
う「国際文化学」の現場に体当たりしてみて初めてわかるフィールドワ-クの醍醐味
を具体的に語っています。危険もあるでしょうが、そこにはあなたの未来を大きく変
える出会いがきっとあります。
第三章は、実際に、山口県立大学の先輩学生たちが行なったフィールドワークを例
にフィールドへスムーズに入っていく方法を手ほどきしています。たんなる技法を越
えて、量的な調査と質的な調査を人間的に統合したところに、一歩先のフィールドワー
クがあることに気づいて下さい。
第四章には、人権に配慮したフィールドワークのあり方を考えます。自分自身を守
るとともに、他者の人権をもきちんと尊重できなければ、フィールドワークに出る資
格はありません。プライバシーと肖像権・著作権の基本はしっかり押さえておいてほ
しいところです。
第五章は、実際に国際文化学科の卒論として取り組まれたフィールドワークへの教
員の率直な評価が中心です。どんなに素晴らしいフィールドワークをしてもそれを言
葉で表現してきちんと他者に伝えることができなければ意味がありませんし、受け入
れてくださった地域の方々とのつきあいもこれで終わりではありません。
第六章では、予期せぬ発見があった時、そこから生まれた疑問を暖めながら訪問を
くりかえし、立証可能な仮説に育てる技を紹介します。地域との人間的信頼関係を通
して、あなた自身が「自分」というわくから解放され、地域というジグソーパズルの
かけがえのないピースになる時が来るかもしれません。
それぞれの章の執筆者の記事に添えて、フィールドで出会った、印象的な例や大切
な考え方などを、コラムとして挿入しました。もっと勉強したい人のために、巻末に
読書案内をつけ、簡単な索引を用意しておきました。
この小さな本が、大学生活から始まるあなたの未来を、わくわくするような発見に
満ちたものに変えるきっかけのひとつになれば、こんなにうれしいことはありません。
二〇一二年二月 執筆者一同