書評を書きました)杉田徹『ピアニシモな豚飼い』西田書店 #pianissimo #buta #minamisanrikucho #spain RT @tiniasobu
2011/10/02
台北とソウルで学会続きだったために、更新が少なくなっていますが、無事それら
を終えて、これから新学期に入っていきます。
「島からのことづて」という聞き書きシリーズを『季刊東北学』に連載させていただ
くようになって
東京新聞・文化部の大日方公男さんとのおつきあいができました。書評を頼まれまし
たので書いてみたら、9月25日号に掲載されました。
■書 評
ピアニシモな豚飼い
[著者]杉田 徹
西田書店 / 1680円
すぎた・とおる 1943年生まれ。養豚業・文筆家。共著に『韓国の石仏』『南島
紀行』など。
■地域社会で人の輪を楽しむ
「肉は売っても魂は売らない」をモットーに、宮城県南三陸町志津川の山の中で豚
を飼って二十年。家が焼ければ四十畳の宴会場つきの「風の宿」を建て、李政美や小
室等らのコンサートと丹精込めた手料理の宴をくりひろげる。交流の輪は広がり、恥
ずかし病の日本人たちもここでは心の扉が全開となる。
スペイン・アンダルシアで羊飼いとともに暮らした二年間で、「人間の魂」の合鍵
を著者は見つけたらしい。報道写真家という稼業に見切りをつけ、韓国の石仏詣でを
した後、スペインに家族と出かけ、四十六歳で豚を飼うようになった経緯は前作『フォ
ルティッシモな豚飼い』に詳しい。どんな小さな村にも人々が集うバルがあり、一杯
の飲み物で延々と語らうスペイン人の暮らし。田舎の家の夕食に招かれても食前酒は
バルに繰り出して飲むという人生の楽しみ方は、評者も北スペインの町に半年すごし
て心に残ったものだった。
三月十一日、南三陸町は中心部がまるごと流されてしまった。本書の各章の扉の被
災写真は、日本人が築いたと思いこんでいたものが、そのままがれきの山であったこ
とに改めて気付かせてくれる。電気と石油の供給が止まった時、本当に頼りになった
のは、人類がチンパンジーと分かれて以来親しんできた、木と火と水であった、と著
者は言う。被災地から歩いて一時間ほどの著者の家ではいずれもたっぷりと手に入る
ものだった。
本書では、人間が一万年の間に失ったものをタンザニアの採集狩猟民との対比で語
り、地域社会での実践と日々の思索の記録がつづられる。評者もアフリカで延べ三年
を過ごした後、著者と同じ四十六歳から山の中の村に移り住んで週末農業で米を自給
し、薪で暖房と風呂をまかなっている。いまこそ必要とされる人間らしい暮らしと、
ほんとうの贅沢(ぜいたく)とは何かを確かな手応えで感じ取ることのできる一冊で
ある。
[評者]安渓 遊地 (山口県立大教授)
http://www.tokyo-np.co.jp/book/shohyo/shohyo2011092503.html から
西田書店のページは
http://www.nishida-shoten.co.jp/view.php?num=249