福島原発事故)破局は避けられるか――広瀬隆さんの報告 @tiniasobu #genpatsu #fukushima #ikata #hamaoka
2011/03/16
http://diamond.jp/articles/-/11514?page=1
からの引用です。ネットがこみあって見られない方のためのミラーです。
【第140回】 2011年3月16日
ジャーナリスト 広瀬隆
破局は避けられるか――福島原発事故の真相
;
2011年3月11日、東北地方三陸沖地震が起こって、福島第一原発1号機で格納容器内
の圧力が異常に上昇し、そのあと建屋が爆発。続いて3号機も同じく爆発。さらに2号
機は、格納容器内にあるサプレッションプール(圧力抑制室)が破損した。破損が進
めば絶望的な破局に向かう。これと並行して、日本人の頭の上に大量の放射能放出を
始めた。一体、何が起こったのか。
「想定外」の言葉を濫用する電力会社とマスメディアの異常
津波そのものによる天災は、避けることができない。これは日本の宿命である。し
かしこの悲惨な原発事故は人災である。それを起こした責任者は、電力会社だけでは
なく、これまで何もこの事態を警告をしなかったテレビと、テレビに出てデタラメを
解説している専門家と呼ばれる大学教授たちである。
2011年3月11日14時46分頃、北緯38.0度、東経142.9度の三陸沖、牡鹿半島東南東13
0km付近、震源深さ24kmで、マグニチュード9.0の巨大地震が発生した。マグニチュー
ドが当初8.4→次に8.8→最後に9.0に修正されてきたことが、疑わしい。原発事故が
進んだために、「史上最大の地震」にしなければならない人間たちが数値を引き上げ
たのだと思う。これは四川大地震の時に中国政府のとった態度と同じである。
地震による揺れは、宮城県栗原市築館(つきだて)で2933ガルを観測し、重力加速
度の3倍である。しかし2008年の岩手・宮城内陸地震では、マグニチュード7.2で、岩
手県一関市内の観測地点で上下動3866ガルを記録している。今回より大きい。
NHKなどは「1000年に1度の巨大地震」と強調するが、この東北地方三陸沖地震の実
害と、原発震災を起こした原因は、津波であった。では、津波の脅威は、誰にも予測
できなかったものなのか。日本の沿岸地震では、ほんの100年前ほどの1896年(明治2
9年)の明治三陸地震津波で、岩手県沿岸の綾里(りょうり)では8.2m、吉浜(よし
はま)24.4m、田老(たろう)14.6mの津波高さが記録されている。「想定外」の言葉
を安っぽく濫用するなとマスメディアに言いたい。被害が出たあとに、被害を解析し
てくれても困る。事故後に、「想定できなかった」ということは、専門家ではない、
ということだ。すべて私のごとき人間に想定でき、昨年8月に発刊した『原子炉時限
爆弾』(ダイヤモンド社刊)に書いたことばかりが起こったのである。電力会社が「
故意に想定しなかった」だけであり、想定しなかったその責任は、被曝者に対してき
わめて重大である。
冷温停止に至っているのは
;原子炉11基のうち3基だけ
昨年のことから理解しておくべきである。昨年3月25日に、1971年3月26日に運転を
開始した福島第一原発1号機について、東京電力は、この原発が40年を迎えるという
のに、超老朽化原発の運転続行という暴挙を発表し、60年運転も可能だと暴言を吐い
て、原子力安全・保安院がそれを認めた。これは福井県の敦賀原発・美浜原発に続く、
きわめて危険な判断であった。さらに昨年10月26日、営業運転開始から34年が経過し
た老朽化原発・福島第一原発3号機でプルトニウム燃料を使った危険なプルサーマル
営業運転に入った。
福島第一原発は設計用限界地震が、日本の原発で最も低い270ガルで建設された、
最も耐震性のない原発である。そこで今、炉心熔融が起こったのだ。福島県内には、
70キロを超える双葉断層が横たわり、マグニチュード7.9が予測される。
地震発生時の運転状況は、
○福島第一1・2・3号機は運転中→スクラム(緊急自動停止)。4・5・6号機は定検停
止中
○福島第二1・2・3・4号機はすべて運転中→スクラム。制御棒が挿入され、核分裂反
応は、全機が停止した。
しかし……
地震発生後、原発は「止める」「冷やす」「閉じ込める」機能があるので大丈夫だ
と宣伝してきたが、ほかの原発も含めて、自動停止した11基の原子炉のうち、原子炉
内の温度が100℃以下で、圧力も大気圧に近い状態で安定した「冷温停止」に至って
いるのは、地震4日目の14日現在、福島第二原発3号機と女川原発1・3号機の3基だけ
であり、残り8基が迷走運転中である。
炉心溶融(メルトダウン)は2800℃どころか、わずか600℃で起こる
電気出力100万kW原子炉では、熱出力がその3倍の330万kWある。この原子炉では、
原子炉自動停止しても、その後に核分裂生成物が出し続ける崩壊熱は、1日後にも、1
万5560kWもある。またその発熱量がどれほど小さくなっても、永遠に熱を出し続ける
ので、燃料棒が原子炉にある限り、それを除去し続けなければならない。なぜなら、
原子炉という閉じ込められた容器内では、熱がどんどんたまってゆくからである。
それを除去できなければ、水は100℃で沸騰するから、水がなくなり、燃料棒がむ
き出しになる。そうなれば、超危険な放射性物質が溶け出し、燃料棒の集合体が溶け
落ちる。それが炉心熔融であり、メルトダウンと呼ばれる。燃料棒の集合体が次々に
溶け落ちると、炉の底にたまって、ますます高温になり、灼熱状態になる。やがて原
子炉圧力容器の鋼鉄を溶かし、お釜の底が抜けると、すべての放射性物質が、外に出
て行く。これが「チャイナ・シンドローム」と呼ばれる現象である。
一方、燃料棒被覆管のジルコニウムが水と反応して酸化されるので、水素ガスを発
生する。水素ガスの爆発限界は、最小値が4.2%であるから、この濃度になれば爆発
する。
原子炉の正常な運転条件は、福島原発のような沸騰水型では、280~290℃、70気圧
である。従来は燃料棒の過熱温度が2800℃で炉心溶融が起こるとされていたが、スリー
マイル島原発事故などの解析によって、実際には600℃で起こることが明らかになっ
た(2009年7月6日~7日にNHK・BS1で放映されたフランス製ドキュメント「核の警鐘
~問われる原発の安全性」)。NHKなどは、御用学者を動員して「史上空前のマグニ
チュード9.0」を強調しているが、建物の崩壊状況を見て分る通り、実際の揺れは、
兵庫県南部地震(阪神大震災)のほうがはるかに強烈だった。この地震被害の原因は、
揺れではなく、ほとんどが津波であった。
地球の動きがもらたす
;「原発震災」が日本で現実化した
福島第一原発では、地震から1時間後、15時42分に全交流電源が喪失して、外部か
らの電気がまったく来なくなった。あとは、所内の電源が動かなければ、何もできな
い状態である。ところがそこに津波が襲って、15時45分にオイルタンクが流失して、
さらに配電盤などの配線系統が水びたしになって、内部はどうにもならなくなった。
初めは炉心に水を注入するためのECCS(緊急炉心冷却装置)を作動したが、すぐに注
水不能となった。非常用ディーゼル発電機はまったく作動しない。電気回路が大量の
水を浴びて、配線系統がどうにもならない。コンピューターも何もかも、電気がなけ
れば何もできない。
このような所内電源と非常用ディーゼル発電機による電力のすべてが失われた事態
に備えて、原子炉隔離時冷却系と呼ばれるECCSの一種がある。これは、炉心の崩壊熱
による蒸気を利用してタービンを起動させ、ポンプを駆動して注水する装置である。
しかし、これも制御機能が失われれば、駄目になる。
そもそも、地震発生当初から、非常用ディーゼル発電機がまったく働かないという
のだから、電源車が到着したかどうかに鍵があるのに、その最も重要なことについて
さえ、報道されなかった。テレビの報道陣が、いかに原発事故について無知であるか
をさらけ出した。
そして1号機の原子炉内の水位がぐんぐん下がり始めた。非常用復水器と原子炉隔
離時冷却系によって、何とか水位の復帰につとめたが、格納容器(ドライウェル)内
の圧力が、設計上の使用最高圧力4気圧をはるかに上回る8気圧に達している可能性が
高く、加えて、除熱ができていないので、水位が下がってゆき、4メートルの燃料棒
の頭は、1メートル以上が水の上に顔を出した。
格納容器の圧力が高まると破壊されるので、バルブを開いて、高圧になった気体を
放射性物質と共に外部に放出する作業に入ったが、事故の経過を見ると、悲観的にな
らざるを得ない。しかしもうすでに、事故解析の原稿を書いている段階は過ぎたよう
だ。15日昼頃には、敷地内での放射能が通常の350万倍に達した。テレビでは、コメ
ンテーターも政府もみな、微量、微量と言い続けた。ここまでくれば、みな、おそる
べき犯罪者たちである。さらに2号機では、格納容器の破損が起こり、4号機では建屋
内の使用済み核燃料のプールが沸騰を始めたという。ここには、原子炉より多くの放
射性物質が入っている。作業者が近づけない場所であるから処理はおそらく不能であ
ろうと、15日の午後5時時点で、私は推測するが、この推測が間違ってくれるよう祈っ
ている。福島第一原発の6基のうち、1基がメルトダウンすれば、そこには職員がいら
れなくなる。すべてを放棄して逃げ出すだろう。あとは連鎖的に事故が起こる。
この発電所には、全部合わせて、事故を起こしたチェルノブイリ原発の10倍を超え
る放射能があると思われる。あとは、この放射能が無害であると、政府と原子力安全・
保安院と電力会社とテレビの御用学者たちは言い続けるはずだ。もし日本の国民が愚
かであればそれを信じて、汚染野菜を食べることだろう。明日、すぐには死なないか
らだ。しかしかなりの高い確率で発癌することが分っている。子供たちを守れるのは、
事実を知っているあなただけである。
『原子炉時限爆弾』で、私はこう書いた。
--「10年後に、日本という国があるのだろうか」と尋ねられれば、「かなり確率の
高い話として、日本はないかも知れない」と、悪い予感を覚える。…(中略)…この
先には、まったく報じられない、とてつもなく巨大な暗黒時代が待ち受けているのだ。
その正体は、想像したくもないが、人知のおよばない地球の動きがもたらす「原発震
災」の恐怖である。--と。
その通りになってしまったのだとすれば、悔やんでも悔やみきれない。
※大地震による原発災害の危険性を指摘した
『原子炉時限爆弾~大地震におびえる日本列島』 広瀬隆著/2010年8月/ダイヤモ
ンド社刊
以上引用おわり
公立大学法人 山口県立大学
教授 安渓遊地(あんけい・ゆうじ)
〒753-8502 山口市桜畠3丁目2番地1号
山口県立大学国際文化学部