入会権の研究)時効はあるのか?アンケート調査の結果
2006/09/30
以下のように、入会権をめぐる訴訟が提起されています。
これをめぐり、三重県で開かれた第14回全国雑木林会議に参加して、ポスター発
表をおこない、アンケート用紙を配って、回答を得ました。
ここでは、第三項目目のアンケート結果の第一次集約分だけを集計します。
とりあえず20の回答がよせられています。
これを見られて、あらたにアンケートへの回答を寄せてくださるかたは、
添付のワードファイルに書き込んで、noma@ses.usp.ac.jpあるいは
t@ankei.jp あてにメールでお送りください。
(@を半角にして送信してください)
ファックスで083-928-5496にお送りいただいてもかまいません。
入会権が時効?山口県・上関原子力発電所予定地に関する最高裁の判断に注目
野間直彦・安渓貴子・安渓遊地
山口県・上関町では、電力会社の不法行為がまかりとおり、入会権が奪われようと
している。「入会権の時効」をめぐる最高裁の判断が注目される
・前提
入会権には2種類がある。ひとつは、共有の性質を有する入会権と、地役の性質を
有する入会権がある。それぞれ、民法263条と民法294条の別の権利として規定
されている。(わかりやすい例えで言えば、前者は分譲マンションの権利、後者は賃
貸しマンションの権利である。)
・入会権の時効という判決
上関原子力発電所建設予定地にある共有地の入会権裁判の控訴審において、2005年
10月20日の岩国高裁は、1)共有の性質を有する入会権が、地役の性質を有する入会
権に変化したこと、そして、2)地役の性質を有する入会権には20年という時効が適
用されうること、さらに、3)問題の共有地が伐採されなくなってすくなくとも30年
はたつことから、時効により地役の性質を有する入会権が消滅しているとみなされる
という判決を出した。
・法律家による批判
わが国における入会権研究の第一人者のひとりである野村泰弘教授(島根県立大・
総合政策学部・民法)は、この判決の不当性を次のように指摘する。1)共有の性質
は変化していない。2)一見使っていないようでも、「もうすこし木が育ったら使お
う」と判断している場合は地役権の行使にあたるし、最近では切らずに環境保全の機
能を果たさせていることも地役権と認められるという判断が有力。3)そもそも時効
を適用する前提(上記の1と2)がなり立たないが、民法では起算点が明確でなけれ
ば時効が適用できない。何年何月何日をもって使用が終了したと立証できなければ、
時効とは言えない。従来の裁判所の判断では、地役入会権の消滅は、利用する団体の
解散などの例のみであるので、時効の適用が認められると明示した、わが国で初めて
の驚くべき判断をした判決である。
・最高裁の判断を注目
今回のように、開発をもくろむ側が、予定地の中で共有入会権を有する者の一部の
同意をとりつけて、共有地の改変と開発の既成事実を作ってしまうという、わが国の
「人と自然」の未来にとってきわめて悪質な手法を、司法が容認してしまうかどうか、
の分かれ目となる重要な判断なので、注目していく必要がある。
・里山の未来にも暗雲
万一、このような政治的な判決が確定するような事態になれば、例えば田舎にUター
ンをした人が、共有林を利用しようとしたとき、その権利は時効により消滅している
とみなされる事態も憂慮される。
・里山保全運動への反省点
里山にかかわるとりくみや自然保護運動の中で、民法の定めている二つの入会権の
区別とそれぞれの意味をしっかり理解しておく必要がある。法律で使っている言葉や
概念を理解することが、法律家や弁護士との協力体勢の出発点であり、今後の望まし
い里山保全への出発点であろう。
アンケートへの回答
アンケートにお答えくださり、ありがとうございました。
三番目の質問についてのお答えを中心に、みなさまからいただいたメッセージを、
順不同で収録させていただきます。
1 (記載なし)
2 否。ゆるせません!! が、しかし、私が将来相続等では問題になりそうな上記
の件(120名の名義の共同所有地)は、心配事として関心があります。4代前の関係
者(共同登記者)の子孫に連絡をとろうにも‥‥ある程度の人数そろえば過半数とか
‥同意で議決できるか。またNPO組織に変更できないか‥‥。「法の見直し」は、必
要と考えますが「曲解」はゆるせません。
3 野間先生の、そして安渓先生のお話を聞き、おぼろげながらわかってきました。
実際に伐採していなくても、地域の森として景観を楽しんだり、愛情を持ってふるさ
との山として心に残る森のはず。
4 登記簿上、「○×部落有林」としか記載されていない森林はたくさんある→当然
使われていない。登記簿上、「○×△外何名」もある。登記簿上、A.B.C.D.共有の
場合も、使っていない場合は?
5 不当です。
6 地上権を持っていれば消滅しないはずではないか。
7 20年間のうちに他の目的に使われていたならば権利の消滅もしかたないと思う
が、手が入っていないだけならば権利の消滅はおかしいと考える。共有地・入会地に
はいいまだに樹木が残っているので、その活用法甫うは権利者に決定権があるのでは
ないか。
8 いつまでも地域の共有地は地域の共有地であってほしいと感じる。
9 使う意志を持ちながらさわっていない場合は消滅はない。
10 20年で消滅ということがあらかじめきめられているわけでないのなら、消滅
するのはおかしい。
11 (沖縄島北部・国頭の事例紹介)
12 (1)原則としては司法判断は良いと思う。(2)できれば共有入会地として
活用するか公有地にしてほしい。(3)司法判断の結果が別の目的に利用されること
については賛成できない。
13 人と森林との関係が模索されている現在、入会権の議論はもっとされるべきで、
そのような場を担保しているような権利として司法の判断に疑問を持ちました。
14 私有権とちがう共有地。社会システムが変わる中で、とり残されたとは言え、
社会ストックである。一方的に消滅するとは信じられない。
15 まったく根拠ないと思います。
16 この様な権利の話が最高裁までもちこまれているという事実を今日はじめて知
りました。上記の司法判断には、反論の余地がおおいにあると思います。ぜひとも、
入会地の継続を希望します。
17 入会権は消滅しないであろう。何故なら、入会地といわれる場は1年や2年の時
間では考えられない。10年単位で考える場と思われる。つまり20年、30年~100年の
単位で考えないとならないのではないか。
18 使う使わないは所有側の意志に基づくと思うので、時効消滅はおかしいと思い
ます。こんな判断が通ることがあったら、今後、私たちの運動に影響するので、絶対
NO!です。
19 地役権を行使してきた人々の意向が重要ではないかと思う。もし地役権を行使
してきた者達の意向が無視される様な状況なら、民権の危機といわざるをえないと考
える。
20 入会地という権利があったのは良く知りませんでした。ただ、地域で決めてい
ることに対して法律上の問題として司法が判断する事が本当に正しい事なのだろうか
という疑問はあります。たとえ時効があるとしても、改めて地区のルールに決めを戻
すべきだと思います。
