大学改革)学生の授業料は100%教育に使うという金沢工業大学の挑戦
2007/09/26
2007年9月26日午後、山口県立大学の新キャンパスF204教室で、教職員の研修(FD)がありました。
授業の素晴らしさで、日本一の認定をいろいろ受けている私立・金沢工業大学の藤本元啓先生のお話をうかがいました。タイトルは「
教職員の協働による学生主役の大学づくり」です。
副題は、①学生の学習意欲を育む実践教育について
②教育GP組織的取組体制の確保について
安渓遊地の気まぐれに、お話しの一部をメモしたものです。
◎ユニバーサル教育をめざす地方の単科大学
学生4000人
教員・職員がそれぞれ300人程度
東京虎ノ門にもキャンパス、現在の3学部から4学部をめざしている。
3割が石川県出身。
21世紀は戦前のエリート教育でも戦後のマスプロ教育でもない、ユニバーサル教育をめざす。
ものづくりの技で就職、関東・関西・東海へ送る。
◎学生の納めたお金は教育に100%使うという方針への転換
研究力を高めることが大切と思っていたが、合衆国をみてきた理事長以下が目が覚めたこと。大学は教育に金とエネルギーを100%注いでいる。学生からの納付金が収入の90%であるのに、それを研究に使うとはなにごとであるか、ということを理解して帰ってきたが、口で言っても、先生方がそのことをとうてい理解できないという現実があった。
そこで、
アメリカの15大学へ教職員を5チーム、57名派遣(1994年)した。
さらに、9チーム、118名派遣(1995~8年)して、流れを変えた。
◎学生も教員も年に300日大学へ出てくる
すべてを学生の目線で行う。
例えば、講義について。先生がたの講義はそれぞれ面白いが、ばらばら、相互の交流がたりない。
学生の修学満足度とはなにか。
授業は150人、祝日を抜くと150日。この150日を大学で何かできるようにする。先生も300日出てくる。これ以外には、地方の単科大学が生き延びる道はない。
「夢考房」へ向けた仕掛けづくり。情報コンセントが学内に6500か所、アパートに3500か所。
平成7年からノートパソコン所持を義務づけている。これは大変よかったと考えている。
24時間オープンの自習室。220室。グループで自習している。個人勉強は図書館を利用。
ゲームセンター化が当初危惧されたが、熱心なグループ学習の学生たちという良貨によって自習室から駆遂された。
24時間パトロールで安全を確保。
◎個別指導などで基礎を教える
積み重ねが必要な勉強、基礎を教えるコースをつくらなければ学生に不利益。
数理工の科目について、ひとりで先生を訪ねて1時間おしえてもらう課外授業。それだとプレッシャーが大きいという学生には、課外クラスなども設ける。
問題の解き方が分からない、といってくる。それで、どこが分からないか、をレベルを戻しながら突き止めて行く。すると、他の先生でもそこから指導を引き継げる。
自由に物づくり・人づくりにかかわる夢考房へ。ロボコンはあとから派生。工具によっては事前にライセンスを得て使わせる。
企画・予算書を大学に提出。企業は内容には口を出しませんが、金を出してもらう。医師が常駐して安全面を管理。
授業外学習プログラムの利用者は、のべ17万5000人程度。多くが1年生で、1年生の85%が利用している。
◎現代の学生の特徴に合わせた支援
すぐ結果を求める。マニュアル世代というが、マニュアルすら読まない。すぐキレる。
新入生への学習支援計画書。シラバスに盛り込む。授業アンケートは全部Webで公開する。
(ポートフォリオシステムを全面的導入して進めていくという取組について、詳しい説明があったが、割愛。)
◎教職員の研修(FD)
大学のFDというのは、こういう講演会に何人が出たか、というようなひとまとめのことではなくて、実際に一人一人の先生がどうなっているんですか、という問いかけになってくる。それに答えられる証拠を残しておかなければならない。それがいやなら先生はやめなくちゃいけない。
学期末試験を廃止して、プロセス重視。達成度確認試験、これは全体100点満点のうちの40%分までで評価する。←学生は試験結果についての異議申し立てができる。
修学ポートフォリオを作って、毎日こまかく指導する。ひとりあたり50名ないし85名の負担。1年生について、30人ほどの教員に担当してもらっている。非常に大きな負担であるが、これをやらなければ学生は専門にあがれないし、先生も講義だけの担当なら非常勤で十分。
85人に10分ずつ面接すると、850分になる。学生にとっても面倒くさいことだが、満足率は高い。とくに、自分が何をしているのか、それが分かるところがいい、と学生がいう。
◎一番むずかしいのは、教職員の意識改革と協働実践
教員:研究者である前に教育者であれ
出勤日:月曜~土曜日(祝日除く)
授業がない曜日も出勤 → 学生指導、自己研究
標準担当授業コマ数:一学期10コマ、年間30コマ(3学期セメスター制)
教育50%、研究30%、学内外貢献20%
他大学の非常勤勤務は原則禁止
研究費はすべて外部資金(教育費は別)
理由なく科研を申請しないと、「それじゃ、あなたは研究室は要りませんね」といわれてしまう。
工学系は大きなお金が必要で、科研費では、7掛けぐら認められればいい方。企業からの委託研究費。
職員の行動目標:「顧客満足度の向上」
ここでいう顧客とは学生のことです。
しかし、一方的にサービスするだけではいけないので、課長の下ぐらいには、権限委譲をしている。→意志決定が早い。職場からの発想は貴重。
委員会は、縦割りにしない。職域を越えた協働とコミュニケーション。
学生が大学運営に参加する。院生はTAとなり、学部生はSAとなる。合計300人ほどいます。
◎いま、教育改革に求められているもの
1.大学全体での組織的なFD活動への取組
2.内容とスピードが必要
ゆっくり議論していては、時代に置いて行かれる。
3.多様な学習歴と多様な入試形態
教育の質と成果の保証
学生・保護者・社会に対する説明責任
4.教育は使命、研保証究は責務
5.職員は職務として学生のために何をなし得るのか。
「我々の常識は世間の非常識、世間の非常識がわれわれの常識」
年2回、全教職員の前でうちの理事長はそのように話す。
◎必ずしも1枚岩ではない
大学の教職員が一枚岩となって進めているわけではない。リードしているのは、約3分の1ほどにすぎない。
学生が5000名いて授業料を払ってくれなければ、教育の質を維持できない。
新任の先生たちは、3年間の時限雇用です。3年目に審査して、教育に関するペーパーやがなければ更新しない。
質疑応答
質問 百聞は一見にしかず、ということで、合州国の大学へ派遣された教職員ですが、職員と教員の割合と人選は?核となる人を中心にしたか、反対する人を選んだか、それともまんべんなく選んだのでしょうか。
初めての派遣の時、私は講師でしたが、参加したうちの職員が10名弱、のこり30人ほどは教員でした。今にして思えば、核となる先生だけを選んだわけではない。反対している人もいる。その後やめた先生もいる。
質問 うがった見方をすれば、とてもこれでは勤めていられないという現実を突きつけるために反対派の教員も入れたとか?
「こんなのは大学ではない!」といってやめた人が、私の講座だけで2人おられました。教育学と法学のの先生たちでした。
質問 教員の役割が大きいことはわかりましたが、学生同士のインターラクションは?(田中学生支援部長)
これはという返事があるわけではありません。TA(ティーチング・アシスタント)は大学院生の義務になっています。修士1年の時には必ずやることになっている。3年生の専門科目に入る。SA(学生アシスタント)は、教室には入れません。教材をつくるなどの手伝いをしている。それで、授業はこのようにつくられるんだよ、ということを体験させる。それから、学生スタッフとして図書館などで働く。恒常的に上級生が下級生を指導するシステムはまだできていません。
質問 研究より教育ということですが、さらに教育よりも経営というきびしい状況が全スタッフに共有されていた時代を先取りしたような職場にいたことがありますが、そういう経営第一という意識をいかにしてスタッフの中に共有していくかというノウハウをお教えくださいませんか
経営とは、キャンパスに学生がいるかいないかであると考えています。学生が求めているのは、教育プログラムです。受験生はそれを徹底的にみます。学生がやめていかないようにするには、そのプログラムがきちんと動いているか、どうかが分かれ目になります。
3分の1がひっぱっていく、3分の2は、引っ張られていくという状況です。こうしてお話ししていても、何人も協力しない方の顔が思いうかびます。
うちは定年は60歳、普通は延長して70歳までいられるんですが、そういう教育貢献度の低い人については、一切のばしません。
学長の権限は、強化されているので、将来的にはやめていただくということもありうるでしょうね。
文科省のGPがたくさん当たられたということは大変です。申請の時にタッチしていないから、自分は関係ない、というような方もおられるかもしれませんが、それは違います。お友達を集める業務ではありませんので、その仕事については辞令を出してもらうべきですね。そして、達成したものについて理事長賞なりでどんどん評価していくとことをご検討ください。
江里理事長のお礼の言葉
前まえから一度訪問させていただこうと思っていましたが、今日はこうしてお話しをうかがうことができてありがたく思いました。実は、医療の世界では15年前に起こっていたことを今日はお話しいただけたと思いました。医師・病院・患者が教員・大学・学生という対応ですね。学生に対するケアをいかにするか、ということを非常に力を入れてやっておられることを教えていただきました。
うちの大学は、教員も非常に優秀な方が多く、学生も少人数ですので、赴任してみたら、驚くほどていねいなケアがされていました。これをのばしていくことが大事と思っています。
本日はどうも、たいへんありがとうございました。(拍手)
参照ウェブページ
金沢工業大学
http://www.kanazawa-it.ac.jp/