環境問題)体を動かして真実を見抜く
2007/12/29
同僚からボランティアという科目のハンドブックをつくると言われて、「環境学習ボランティア」について書いて送ったのですが、アドレス違いで、印刷に間に合わないという初歩的ミスをしました。
もったいないので、HPに載せておきますね。
体を動かして真実を見抜く
安渓遊地(「環境問題」担当)
(1)すべてはつながっている
環境問題を考えたり学んだりする時に、難しいことがあります。それは、誰も評論的な立場に立つことが許されないという事実です。学ぶ方も教える方も、毎日生きていることがいやおうなく環境問題のただ中にあり、まわりがどんどん変わっている中で、いったい何を信じてどのように具体的に学べばいいのか。そんな悩みがあります。
その壁を越えさせてくれるのが、実際に体を動かして、ともに学ぶということではないでしょうか。そこに環境ボランティアの出番があります。
まずは、レジ袋を断ってさりげなくエコバッグを出す、といった個人でもできる身近なこと。これを「個人運動」とよびましょうか。牛乳パックのリサイクルなどもよくある活動です。分別でもなんでも体が自然に動くほど身につけば本物です。さらに、地域での活動に参加する。でも、人から言われるままにやっているだけでは、大学生の取り組みとは言えません。
体を動かしながら、できるだけ現場の声に耳を傾けましょう。すると、教科書やマスメディアなどでは決してわからない、世界の動きを直接に感じ取れる可能性が開けます。例えば、紙のリサイクルで回収される段ボールが1キロわずか50銭だった1999年ごろ、雑誌などはマイナス3円、つまりお金を払ってやっと問屋に受け取ってもらうというような状況になり、日本から「ちり紙交換」という職業が消滅しました。現在は、古紙の値段が上がっていますが、これは、日本の製造業の多くが中国に生産拠点を移したこととオリンピック前の特需で、段ボールの原料が不足し、古紙の国際価格が上がっていることの反映です。同様に、中国が食糧輸出国から輸入国になったことをもっとも早く感じとったのは、地域で養鶏をしている人たちでした。餌代が急に高くなったのです。日本から北朝鮮への輸出が全面的に禁止される前の日に、いつもは1台500円程度であった日本の古自転車の相場が空前の1700円にまで跳ね上がったことなども、そうした自転車再生の現場を知る人たち以外には気づかれにくいニュースでした。
(2)大学での活動の具体例
山口県立大学には、山口大学と合同の「くるくるリング」という学生サークルがあります。大学内で出る古紙を、自主的に回収して分別するという取り組みを続けています。最近では学園祭で出るゴミの減量化のために、デッシュ・リターン・プロジェクトに取り組んでいます。模擬店の食器を使い捨てのものにせず、貸し出し制にして、食器を返すとき、始めに払ったデポジット料金(現在は50円)が戻ってくるというしかけです。どの活動も、根気と体力が必要なものです。リサイクルの実績に応じて山口市から支給される助成金を生かして、バスでの製紙工場見学旅行などにも出かけています。
学内にはあちこちに山口産の杉の板で作った分別ごみ箱が並んでいるのに気づかれたでしょうか。これは、県立大学でゴミの分別が始まった時、ゴミ箱も既製品を使うのでなく、自分たちで作ろうというアイデアから、学生たちが作ったものです。屋久島の屋久杉自然館で地域住民たちが自作している木製の分別ゴミ箱をモデルにしたもので、国際文化学部の1,2年生が、基礎演習というゼミのなかで指導を受け、慣れない金槌を振るい、ドリルを使って約100個を作り上げました。見た目ではわかりませんが、底にはそれぞれの制作者のサインが入っています。晴れの日には戸外でわいわいおしゃべりしながら、おしゃれなゴミ箱作り。雨の日には、部屋の中でその経験をレポートにまとめます。大学の環境を良くしながら単位がもらえるステキな授業でした。
2年半にわたる分別ゴミ箱づくりには、体を使って地域の環境問題と取り組める授業の確かな手応えが感じられました。そこで、次の課題を学生たちと探しました。自分たちの手で改善できるかもしれないキャンパス内外の環境についての困りごとは何でしょう。
それが、放置自転車再生プロジェクトにつながりました。毎年卒業とともに学内に放置される自転車は、トラック2台におよび、廃棄のために業者に支払っている金額も10万円と聞きました。宮野駅前やアパートに放置されるものを含めればどのぐらいになるか見当もつかない量の自転車がゴミになっていたのです。
しかし、古自転車の再生は、ゴミ箱とは違ってなかなか素人の手に負えそうにありません。そこに登場したのが、中国からの留学生のKさんです。放置自転車といっても、ちょっと直せばまだまだ使えるものばかり。どうして日本人はこんな「もったいない」ことをしても平気なんですか? これが彼の疑問でした。中国では自転車の修理は自分でするのが常識だそうで、お父さんが自転車を修理するのを小さいときから手伝ってきたので、たいていのことはできるというのです。
Kさんにも難しいところは、専門的な技術をもっている市民の方が来て指導してくださいます。そして工具一式もすべて中古でそろえてプレゼントをしてくださったのです。大学に支援を申請して、タイヤやチューブなどの部品をそろえて、いよいよ自転車工房がスタートしました。学部授業の基礎演習だけでなく、全学部向けの教養科目「地域共生演習」でも取り組んで、完成品は留学生に無料で貸し出すという取り組みをしています。
(3)現場に飛び込んでみよう
山口県立大学の自転車工房は、現在学生サークル「えこチャリ」となって、必要な時にはだれでも使える「自転車シェアリング・システム」を実現すべくとりくみ中です。2007年度は学生からのプロジェクト提案に大学がお金をつける「ドリーム・アドベンチャー・プロジェクト」に選定され、Kさんは、「えこチャリ」代表として、同窓会の桜圃会(おうほかい)から表彰と活動資金をいただきました。
このように、環境学習ボランティアのきっかけは、授業でも通りがかりに見かけた面白そうなサークル活動でもなんでもいいのです。ちょっと手伝ってみるだけで、実際に体を動かすことではじめて分かることがたくさんあることに気づくはずです。そうした、自分の身の回りで取り組めることに参加したら、次は、同じような課題が近くに転がっていることにも気づけるようになります。「えこチャリ」を例にして言えば、それは例えば大学の近くの宮野駅の放置自転車問題であったり、年間2000人以上が入学し、卒業する山口大学での放置自転車問題であったりするかもしれません。また、同じ思いで取り組んでいる若い仲間が別の地域にもいることが分かってきます。例えば、長崎大学の学生たちは、大学と行政との連携の上に、NPO法人がからんで、再生自転車を販売できるようにしています。メールで連絡を取ってみたところ、「定期試験が終わったら、ぜひ合宿で情報交換会をしませんか」という熱いメールが返ってきました。
以前だったら、山口から長崎まで行って泊まるというのは、学生にとって負担が大きかったかもしれません。ところが山口県立大学では2007年度から事情が変わりました。
文部科学省は「現代的ニーズにあった大学教育支援プログラム」(通称「現代GP」)によって他大学へのお手本になるようなユニークな教育をしている大学を支援しています。2007年度には、県立大学から申請した2つの現代GPが認められ、さらに学生支援GPをはじめ、合計5つもの大きな支援が、3年度ないし4年度にわたって受けられることになったのです。地域の環境問題などの困りごとの解決に取り組んでいる学生たちの交流であれば、現代GPの「地域活性化プロジェクト」がバスのチャーター代などを支援できます。もうひとつの現代GPである「環境教育プロジェクト」では、2007年12月、東京のエコフェスタに参加するための山口からの貸し切りバスを仕立てて学生たちが乗り込みました。学生支援GPのおかげで学生発のアイデアへの支援もこれまでよりぐんと手厚くできそうです。
結論。教室と図書館で勉強しているだけでは、環境問題の解決への道はたぶん見えてきません。身近で展開しているボランティア的な活動に気軽に参加して体を動かしてみましょう。そして、多様な仲間とのつながりを作りませんか。ともに学びあいながら隠された真実を見抜く力を養い、マスメディアが伝えない希望を見つけていきましょう。